[1] 〘他サ下一〙 よ・す 〘他サ下二〙
[一] ある物や場所、また、ある側に近づける。
① ある所、ある物に近づける。近寄せる。
※万葉(8C後)一四・三四一一「多胡の嶺に寄せ綱延(は)へて与須礼(ヨスレ)どもあにくやしづしその顔よきに」
※平家(13C前)二「御車をよせて、とうとうと申せば、心ならずのり給ふ」
② ひと所に集める。寄せ集める。
※万葉(8C後)一一・二七九〇「玉の緒のくくり縁(よせ)つつ末つひに行きは別れず同じ緒にあらむ」
※
風姿花伝(1400‐02頃)六「名所・旧跡の題目ならば、その所によりたらんずる詩歌の、言葉の耳近からんを、能の
詰め所によすべし」
③ おとずれさせる。立ち寄らせる。近くに来させる。
※枕(10C終)二九二「一条の院に造らせ給ひたる一間のところには、にくき人はさらによせず」
④ 基準とする位置からある側の方へ近づける。片寄せる。
※
方丈記(1212)「北によせて障子をへだてて
阿彌陀の絵像を安置し」
⑤ 身をゆだねる。まかせる。
※書紀(720)継体即位前(前田本訓)「敬憚(かしこま)りて心を傾け、命を委(ヨセ)て忠誠(まめなる心)を尽くすことを冀ふ」
⑥ 寄進する。寄付する。また、贈る。送り届ける。
※三代格‐一・寛平九年(897)九月一一日「応下以二伊勢国飯野郡一寄中大神宮上事」
※平家(13C前)三「御門大に感じおぼしめして、五百町の田代を育王山へぞよせられける」
※
守銭奴の肚(1887)〈
嵯峨之屋御室〉六「マ大掴
(おほづか)み合せて五十円フーム成る程五十円(と折角加
(ヨセ)た数を減茶
(めっちゃ)にして五十円と置く)」
⑧ 寒天や、くず粉などで、魚の
すり身・卵・豆などの材料を固めたり形づくったりする。
① 気持を対象に傾ける。慕う。また、頼りにしたり味方にしたりする。
※万葉(8C後)三・四八〇「大伴の名に負ふ靫(ゆき)帯びて万代にたのみし心いづくか寄(よせ)む」
※平家(13C前)八「日来心をよせ奉りし月卿雲客両方に引わかって」
② ある気持、考えなどを、ある物事に対して持つ。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)三「首を稽
(いた)し誠を帰
(ヨセ)心を至して、彼の諸の
世尊を礼敬したてまつる」
③ ある物事に形を借りて、気持を表わす。
※方丈記(1212)「あとの白波に、この身をよする朝には、岡の屋に
ゆきかふ船をながめて、満沙彌が
風情を盗み」
④
口実にする。ある物に関係づけて言う。かこつける。
※
源氏(1001‐14頃)手習「
横川にかよふ道のたよりによせて、中将ここにおはしたり」
⑤ ことづける。依頼する。委託する。
※書紀(720)継体二三年四月(前田本訓)「因て其の地を封(ヨセル)こと良以なり」
⑥ 罪をかぶせる。科する。
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「諸の神たち罪過
(つみ)を
素戔嗚尊に帰
(ヨセ)て」
⑦ 関連づける。特に、ある人について異性と関係があるとうわさする。また、比較する。
※万葉(8C後)一四・三三八四「
葛飾の真間の手児奈をまことかもわれに
余須(ヨス)とふ真間の手児奈を」
⑧ (特に、歌論用語として) 関連づける。縁語化する。
※袋草紙(1157‐59頃)下「右おなじなみあるに、岸によせたればたよりあり」
[2] 〘自サ下一〙 よ・す 〘自サ下二〙
① (波が)岸などに迫り近づく。打ち寄せる。
※
常陸風土記(717‐724頃)茨城・歌謡「高浜に 来寄する波の
沖つ波 与須
(ヨス)とも寄らじ 子らにし寄らば」
② (軍勢が)ある場所に迫り近づく。押し寄せる。
※平家(13C前)五「すはや源氏の大勢のよするは」