精選版 日本国語大辞典 「甘露」の意味・読み・例文・類語
かん‐ろ【甘露】
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古代のインド,中国の伝承の霊薬。インドでは,もとサンスクリットのamṛtaで〈死なない〉ことを意味することばであるが,インド最古の古典《リグ・ベーダ》では転じて不死なること,神を意味し,そこから神々の食物や飲料をも意味するようになった。したがって,本来どのようなものであったかは明らかでないが,古代インドの伝承では,しばしばソーマ酒(ソーマなる植物より造った飲料,酒で神に供えられる)と同一視され,みつのように甘く,万病の薬とされている。漢文仏典では甘露と訳され,忉利天(とうりてん)より降る雨,甘い液で人の苦痛を治め,長生きさせる力をもつものと解された。また〈不死なるもの〉の意味から永遠の生命をもつ仏の教え,あるいは仏の教えによる悟りの境界を示すものともされた。甘露が醍醐(だいご)とも訳されるのはこの意味からである。なお,密教経典では阿弥陀仏(あみだぶつ)の阿弥陀はamṛtaの俗語形であると解釈し,阿弥陀仏と甘露とを同一視している。
執筆者:井ノ口 泰淳 中国では,《老子》に〈天地相い合して甘露を降らす〉とあるように,天地陰陽の二気が調和して降らせる甘美な露と考えられた。後世では太平の世に出現する祥瑞のひとつとみなされた。《白虎通》に,王者の徳が天にまでとどくと甘露が降るというのはそれである。また漢の武帝は銅製の承露盤のさきに仙人掌を設け,そこにたまる甘露を玉にまぜて服用し,仙人になろうとはかったと伝えられる。
執筆者:吉川 忠夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
古代に、不老不死になるとされた神の飲食物。『老子』によると、中国では天下太平のときに天より降るという。サンスクリット語アムリタamta(不死の意)の漢訳で、インドでは飢渇をいやし不死を得る天人の食物をいう。ベーダではソーマ酒をさす。仏教では、須弥山(しゅみせん)頂上にある三十三天の不死の霊液であり、また仏の教法や涅槃(ねはん)をもいう。なお、ギリシア神話のアンブロシアambrosiaも不死の意で、不老不死になるという神の食物である。
[小川 宏]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…ブラフマー(梵天)はそのへそに生えた蓮花から生じたという。太古,ビシュヌが音頭をとり,神々とアスラ(阿修羅)たちは,アムリタamṛta(甘露)を得ようとして,大海を攪拌した。その際,海中から次々と珍宝が出現し,ビシュヌの妃となったシュリー・ラクシュミーŚrī‐Lakṣmī(吉祥天女)もそのときに海中から現れた。…
…シバが山岳と関係あるのに対し,ビシュヌは海洋と縁が深い。太古,ビシュヌが音頭をとり,神々は大海をかくはんして不死の飲料アムリタ(甘露)を得ようとした。ビシュヌはその際に海中から生じたシュリー・ラクシュミー(吉祥天女)を妻とし,宝珠カウストゥバkaustubhaを首に懸けた。…
…師管の液はアブラムシが必要とするアミノ酸に乏しいので,十分なアミノ酸を摂取するためには,糖分の摂取量が過剰となる。アブラムシの排出物はこの余分な糖を含んでいるので甘く,甘露(かんろ)と呼ばれる。中近東などの乾燥した気候の地方では,甘露が乾いて塊状となったものを集めて食用に供することがある。…
※「甘露」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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