デジタル大辞泉 「オゾンホール」の意味・読み・例文・類語
オゾン‐ホール(ozone hole)
[補説]オゾンホールは1980年代に南極大陸の上空で初めて確認された。北極は、海陸の分布が複雑なため成層圏の気温が南極よりも高く、オゾン層の破壊に密接にかかわる極成層圏雲が発達しにくいことから、大規模なオゾンホールは観察されなかったが、2011年、北極圏上空でも南極に匹敵する規模のオゾンホールの存在が確認された。
[類語]穴・穴ぼこ・窪み・ホール・壕・落とし穴・縦穴・横穴・抜け穴・節穴・気孔
成層圏中に存在するオゾン層の南・北極付近に,季節的に出現するオゾン濃度のいちじるしく低い領域をいう.23次南極観測隊(1983年)が,南極の春に昭和基地上空で急激な濃度減少を観測して,はじめて明らかになった.最近は北極でも観測されている.オゾン濃度はドブソン単位(Dobson unit,DU)で表されるが,220 DU 以下がホールと定義されている.オゾン層は,成層圏中に紫外線のはたらきで,
O2 + hν → O + O,O + O2 → O3
の反応でつくられる.1960年以前は南極で月平均300 DU 以上(10月)あったオゾン濃度が,1970年ごろからいちじるしく減少しはじめ,1990年代半ばから100 DU 近くまで低下している.2006年9月9日~10月13日の平均オゾンホール面積は26百万km2(平均最低オゾン濃度100 DU)に達し,過去最悪の1998年と同じ数値であった.南極点直上の平均オゾン濃度は2006年10月9日に93 DU であったが,高度13~22 km の範囲では1.2 DU でほとんど完全に消滅している.1日の最低値は1994年9月28日の88 DU.原因はCFC(フロン,クロロフルオロカーボン),臭素含有炭化水素などからの塩素,臭素原子を触媒とする反応でオゾンが破壊されるためである.この反応過程を最初に指摘したのはカリフォルニア大学F.S. Rowland(ローランド)教授(1974年)で,この業績によって1995年ノーベル化学賞を受賞している.
2ClO + M → Cl2O2 + M
Cl2O2 + hν → Cl + ClO2
ClO2 + M → Cl + O2 + M
2Cl + 2O3 → 2ClO + 2O2
全体として2O3 → 3O2
暗黒,極寒の冬季に発生する極成層圏雲の微小氷片上に吸着されたHCl,ClONO2が,春季に紫外線によってCl,ClOを発生してオゾン分解連鎖反応を引き起こし,夏季になるとより高いオゾン濃度の大気が流入するため,オゾンホールは春季にのみ出現する.大気中に含まれるオゾン全量の推定は,地表に到達する太陽光の分光分析により行われる.NASAは,1978年から衛星Nimbus-7,現在は,Earth Probe搭載の分光光度計TOMS(Total Ozone Mapping Spectrometer)で太陽光紫外部バンドの後方散乱からオゾン濃度変化を監視している.宇宙開発事業団(宇宙航空研究開発機構)は,1996年の地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」の観測を引き継いで,環境観測技術衛星「みどりⅡ(ADEOS-Ⅱ)」(2002年末打ち上げ)搭載の大気周縁赤外分光計Ⅱ型(ILAS-Ⅱ)により,太陽光(赤外・可視部)吸収スペクトル分析によりオゾン濃度を追跡している.オゾンは,地上に到達する太陽光のもっとも短波長のUV-B領域(290~315 nm)をカットするが,UV-BはDNAにも吸収されるため,オゾン濃度の低下は生物に対する損傷作用の増大をもたらすおそれがある.オゾン層破壊の国際的な対策の第一歩は,1985年3月の「オゾン層の保護に関するウィーン条約」の制定で,ついで具体的な規制を盛り込んだ「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が1987年9月に採択された.これによって,CFC,ハロン,四塩化炭素などの主要なオゾン層破壊物質の生産は,先進国では1995年末をもって全廃されている.その後,オゾン層破壊の悪化から数回の規制措置の強化がはかられた.国内でも,モントリオール議定書を受けて1988年5月に「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(オゾン層保護法)が制定され,主要破壊物質の規制のほかに,臭化メチルは2004年末,HCFC(hydrochlorofluorocarbon)は2019年末をもって,生産および輸入が全廃される.過去に生産された家電製品に使用されているCFCなどについては,2001年6月に「特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律」(フロン回収破壊法)が制定され,2002年以降,業務用冷蔵・冷凍・空調機器とカーエアコンについては,廃棄時のフロン類回収・破壊などが義務づけられた.フロン類の回収率がいまだに低い水準にとどまっているため,回収率向上を目標とする改正フロン回収・破壊法が平成19年10月1日から施行されている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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