デマゴギーdemagogyの略。古代ギリシアにおけるデマゴゴスdēmagōgos(民衆の指導者,転じて民衆を扇動する政治家)による民衆操縦のための宣伝・扇動が原義である。デマは,その内容が事実の裏づけを欠く言説であることや,危機状況や社会不安を背景に伝播しやすいことなどから,しばしば流言と混同される。しかし,特定の意図をもった人物とか社会的勢力が,意識的に虚偽の情報を捏造(ねつぞう)し,その流布をはかるという点で,民衆の願望を反映した自然発生的な流言とは,まったく異なる。ただし,デマの発生源やそのねらいは隠蔽されている場合が多いので,現実の伝播過程で両者を区別することはむずかしい。
対立抗争関係にある政治勢力は,互いに相手の陣営から民心を離反させ,自己の陣営に民衆の支持を集めることによって,みずからの立場を強化する目的でしばしばデマを利用する。たとえば,敵国軍の残虐行為,政敵のスキャンダル,少数民族の犯罪などに関する捏造あるいは誇張された情報をひそかに流すことによって,相手に打撃を与えようとする。これに反して,自分たちにとって不利な情報は,たとえそれが事実であったとしても,デマというレッテルを貼って否定し,その伝播を抑制しようとする。つまり,前者はデマをニュースとして流し,後者はニュースをデマとして押しとどめようとする。もちろん,こうした活動は,政治勢力だけでなく,競合関係にある企業や集団の間でも,広くみられる現象である。デマの流布にしても抑止にしても,情報操作を通じて人々の状況認識を方向づけようとする試みであるから,情報の処理と伝達の手段を豊富にもっている勢力,政治的には既存の権力機構,経済的には独占的大企業などが,有利な立場に立つことになる。デマの主題は一般に,個人的な体験を超えたものが多いだけに,マス・メディアをはじめとする社会情報システムの所有と運営が特定の社会的勢力に占有された場合には,真実を装ったデマを防ぎ,デマと決めつけられた真実を守ることが,絶望的に困難になる。
→噂(うわさ) →流言
執筆者:竹内 郁郎
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…だれか(何か)について話すこと,またその話それ自体(例えば〈故人のうわさをする〉)。しかも,その話の内容の真偽があいまいな場合には,〈流言〉や〈デマ(デマゴギー)〉と同義になるし,あいまいな話と単なる話という両方の意味を含んでいる点では〈ゴシップ〉に近い。例えば〈風のうわさに聞く〉という場合,だれかがだれかについての情報を口にするのを聞くとも解せるし,だれかについての真偽のあやふやな情報を耳にするという意味に解することもできる。…
※「デマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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