だれか(何か)について話すこと,またその話それ自体(例えば〈故人のうわさをする〉)。しかも,その話の内容の真偽があいまいな場合には,〈流言〉や〈デマ(デマゴギー)〉と同義になるし,あいまいな話と単なる話という両方の意味を含んでいる点では〈ゴシップ〉に近い。例えば〈風のうわさに聞く〉という場合,だれかがだれかについての情報を口にするのを聞くとも解せるし,だれかについての真偽のあやふやな情報を耳にするという意味に解することもできる。
〈ゴシップ〉は多少とも知名度のある人について流される。〈流言〉の発生数については,状況があいまいで,しかもその状況が生命や生存に重大な危険をもたらしそうなときに多い,という公式があり,f(r)=a×i(ただしrは〈流言〉,aは〈あいまいさ〉,iは〈重要さ〉)と表される。
関東大震災のさなかに発生し,朝鮮人虐殺事件をもたらした,〈朝鮮人が井戸に毒を投げ入れている〉という流言は,状況のあいまいさと重要さに規定された流言の代表例である。しかもこの流言は,流言の中にしばしば社会的偏見が含まれがちだ,という事実の適例でもある。あいまいな状況を何とか整序して解釈しようとするため,解釈者(あるいは民衆)の深層心理が解釈に投射されがちだからである。こういう心理メカニズムのせいで,流言には,だれかへの憎悪や恐怖をテーマにしているものが断然多い。関東大震災時の朝鮮人デマもそうであるし,太平洋戦争末期の〈アメリカ軍に占領されたら,男は皆殺しにされ,女は女郎にされる〉などもその例である。いっぽう状況のあいまいさに加えて,重要さ(とくに危急存亡の危機感)が強く働くと,同じ心理メカニズムから願望や期待,盲信などが噴出する。民衆の間に深く根づいていて,繰り返し発生するメシア信仰や,義賊伝説などがその例である。太平洋戦争末期の〈きっと神風が吹く〉式の流言も,この例に数えてよかろうか。
ただし〈神風〉流言の場合,民衆心理から自然発生して自然流通した側面と,民衆をあくまでも戦争遂行に駆り立てようとした支配者側が,民衆操作のために民衆心理を利用して流通させた側面とが混じっていよう。〈朝鮮人が毒を……〉という流言で考えても,民衆の深層心理に根づいていた偏見なしには発生も広範囲の流通もありえなかった。と同時に,支配者に向けて発散されかねない民衆の情動をスケープゴートに集中させる,自警団を組織して秩序の回復・維持を請け負わせるなどの支配者側の意図なり容認なりが,発生にも流通にも大きく作用していた(発生はともかく,とくに流通については)。図式として分けるなら,流言には,上(支配者)からのものと,下(民衆)からのものとがある。ただし上からであっても,権威づけられた情報チャンネル(例えば記者クラブ発表に基づくテレビや新聞の報道)からははみ出しているのが流言である。ゴシップも同じ性格をもつ。とくに下からの流言になると,権威づけられた情報への批判・否定のニュアンスが強くなる。しかしそれは,民衆の生活や生命を脅かすほどの重要さがなく,危機感が動員されないから,単なる風聞として流れているだけであって,社会的・政治的力にはなっていない。
→世間話
執筆者:稲葉 三千男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…通常,ひとしきり世間にとりざたされる話,すなわち,うわさ話や巷談の類をいう。ただし,民俗学や口承文芸の分野では学術用語としてこれを用いる。単なる話として見過ごすのではなく,話の発生とその基盤ならびにそこでのありように独自の文芸性と価値観を見いだそうとするからである。しかし〈世間話〉という語自体は歴史的にみても古くはない。〈世間〉という言葉そのものが比較的新しい成立である。早くから用いられていたのは〈世〉もしくは〈世の中〉である。…
※「噂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新