( 1 )上代にほとんど同じ用法をもっていた格助詞「ゆ」「ゆり」「よ」「より」の四語のうち、「ゆり」は「続日本紀‐宣命」と「万葉集」だけにあらわれ、用例が最も少なく用法も最も狭い。
( 2 )語源に関しては「後」の意味の名詞「ゆり(後)」が転じたものであるとする説がある。この説によると、他の三語は、接尾語的な「り」が落ちたり、「ゆ」が「よ」に転じたりして成立したもので、そうだとすると、四語のなかで「ゆり」の勢力が弱いのは最も古いからであると考えられる。一方、「ゆ」「よ」がまずあって、それに接尾語的な「り」がついて、「ゆり」「より」が派生したと見る説もある。→格助詞「より」の語誌
ユリ科ユリ属Liliumに属する植物の総称。観賞価値の高いものが多く,単子葉植物中,最も大きな花をつけるもの,強い芳香を放つものを含む。洋の東西を問わず,古来より観賞用,薬用,ときに食用として利用されてきた。ユリの名は,大きな花が風に〈ゆる〉,あるいは球根の鱗片が〈より〉重なるところから変じたものといわれ,漢字の百合も多くの鱗片の重なりぐあいからきたといわれる。
地下部に葉の変形した肉質の鱗片とその中心の短縮茎からなる球根(鱗茎)を形成し,ふつうその上下から根を出す。茎は直立または湾曲し,線形~楕円形の葉を互生または輪生する。花は(複)総状花序につくが,穂状花序状,散形花序状にみえるものもある。萼片と花弁とが同質同形で,花被片は6枚,おしべは6本,めしべは1本で,柱頭は浅く3裂する。葯は花糸の端にT字状につく。花色にはフラボノール系色素による白,カロチノイド系色素による黄,橙,アントシアニン系色素による桃,赤などがある。園芸的には耐寒性秋植え球根の一つであるが,一般に春,茎が伸びるときに花芽分化を行い,初夏~秋にかけて開花,結実して蒴果(さくか)をつくる。
ユリ属には現在までに約96種が知られ,すべて北半球の亜熱帯~亜寒帯に分布している。北アメリカに25種,ヨーロッパに12種,アジアに59種あり,日本にはそのうち15種が数えられるが,とくに観賞価値の高いものが多く,世界的にユリの原産地として有名である。現在,一般に定着しているユリ属の分類法はウィルソンE.H.Wilsonの分類(1925)に基づくもので,花の形態によりテッポウユリ亜属Leucolirion(筒状花,横向き咲き,まれに下・斜め上・上向き咲き),ヤマユリ亜属Archelirion(漏斗状花,横向き咲き),スカシユリ亜属Pseudolirion(杯状花,上向き咲き),カノコユリ亜属Martagon(鐘状花,下向き咲き)の4亜属に分けられている。ユリ属の染色体数はオニユリ(三倍体)を除き,基本的にすべて二倍体で2n=24。
種類により栽培適地が異なるが,概して水はけがよく,かつ適湿を保つ膨軟で肥沃な土壌を好む。上根が発生すること,無皮鱗片(球根が外皮に覆われていない)であることから,直射日光の強い乾燥地を嫌う。したがって植栽はやや深植えとし,根もとに敷きわらなどのマルチングを施すのがよい。テッポウユリ,オニユリ,スカシユリ,ヒメユリなどは日当りのよい所,ヤマユリ,ササユリ,オトメユリ,タケシマユリなどは半陰地を好む。繁殖は実生のほか,木子,鱗片,珠芽(むかご)などによる。
日本におけるユリの記述は,すでに《古事記》や《日本書紀》にあらわれ,《万葉集》以後の文学や美術にもユリをめでたものが多く,古くから人々に愛されてきた花であることがわかる。しかし栽培がやや難しいことなどから,観賞の歴史に比べて栽培・品種改良の歴史は短く,園芸花卉(かき)として広く扱われるようになったのは江戸時代後期になってからである。ヨーロッパでも古く紀元前より人とのかかわりが深く,とくに純白のマドンナ・リリーL.candidum L.(英名Madonna lily,Annunciation lily,Lent lily)はキリスト教が広がるにつれ,これと深く結びつき,処女マリアの貞節,純潔の象徴となり,キリスト教の儀式,祭日の聖花として使われてきた。観賞用としての用途のほか,東アジア地域では球根に苦みのない種類が食用として利用されてきた。オニユリ,コオニユリ,ヤマユリ,ハカタユリ,タケシマユリなどが食用に適するが,日本ではおもに生の鱗片を高級料理に用い,中国ではこれをゆでて乾燥したものを用いる。オニユリの場合,その成分は炭水化物15%,タンパク質,脂肪それぞれ3%程度である。またユリは薬草としての利用価値があり,洋の東西で古くから珍重されてきた。鱗片は火傷,はれものを散らす痛み止め,去痰(きよたん)剤,利尿剤としての効果があるとされ,葉,花,種子などとともに全草が薬用として使われた。
おもなユリの種類には以下のものがある。テッポウユリL.longiflorum Thunb.(英名white trumpet lily,Easter lily)は花型がかつてのらっぱ銃に似ているところからつけられた名で,長さ15cmほどで純白色。ほのかな芳香を漂わせる。ユリの代表的な種類で,奄美・沖縄諸島などに自生する。ヨーロッパやアメリカでは19世紀以降,復活祭用としてマドンナ・リリーにとってかわり,クリスマスや冠婚葬祭になくてはならない花となっている。日本でも促成切花をはじめ,鉢植えや庭園植え用として一年を通じて栽培される。タカサゴユリL.formosanum Wallaceとの交雑による新テッポウユリも出回っており,これは実生から1年以内に開花する。ササユリL.japonicum Thunb.ex Houtt.(英名Japanese pink lily)は美しいピンクの花色をもつ日本特産のユリで,和名はササによく似た,光沢のある葉からきている。日本の古文献に現れるユリの多くは,このユリと考えられる。花は漏斗状,少数の葉を散生し,優雅で清楚(せいそ)な感じを与える。関西を中心に分布するが,福島,山形,新潟の丘陵~高山帯には,よく似たオトメユリL.rubellum Baker(英名rosy lily)が分布している。ヒメサユリとも呼ばれ,ササユリよりやや小型であるが,ユリのうちでは最も早咲きで,東京付近では5月上・中旬に咲く。リーガル・リリーL.regale Wils.(英名royal lily,regal lily)は中国四川省の高地に産するが,栽培がひじょうに容易で,ウイルス病にも強い。紫褐色を帯びた白色,らっぱ型の花を開くが,ローヤル・ゴールドcv.Royal Goldという全面黄色の園芸品種もある。自家受粉で容易に種子が採れ,実生も容易。ヤマユリL.auratum Lindl.(英名golden-banded lily,Japan lily)は日本の特産で東北~関西地方の山地に分布する。ユリの王者ともいうべきもので長さ二十数cmという巨大な広漏斗状花を開き,その強烈な香りは密室ではむせかえるほどである。白色地に弁央に淡黄条が入り,多数の斑点がつく。変種のサクユリvar.platyphyllum Bakerは伊豆諸島に分布し,ヤマユリよりさらに大きく肉厚の花を開く。イワトユリL.maculatum Thunb.はスカシユリとも呼ぶが,花被片の基部が細くなって花が透けるからである。本州中部以北の海岸近くに自生するが,北海道には変種のエゾスカシユリvar.dauricum (Ker-Gawl.) Ohwiが分布している。やや大柄な杯状花で,径12~14cm,橙赤色地に多数の斑点が入る。多くのスカシユリ園芸品種群のおもな交配親と考えられている。ヒメユリL.concolor Salisb.(英名star lily)は小型の花をもつ繊細なユリで,本州,四国,九州,および中国大陸にかけて分布する。古くから栽培され,切花や鉢物に利用される。星形,上向き咲きで径6~8cm。朱赤色のほか,黄色花もある。葉は細く狭披針形~線形。カノコユリL.speciosum Thunb.(英名show lily,brilliant lily)は四国,九州,台湾北部,中国江西省に分布し,とくに鹿児島県の甑(こしき)島は自生密度が高い。七~十数輪の花をつける。白地に紅色の斑が入るが,純白色の変種もある。花被片は強く反り返る。オニユリL.lancifolium Thunb.(英名tiger lily)はおもに食用として利用されてきた種類で,〈鬼百合〉はその強壮な性質にちなんでつけられた。現在は日本全土に分布しているが,元来は古く中国から食用作物として伝来したものらしい。葉腋(ようえき)に多数のむかご(珠芽)をつけ,これによる繁殖が容易である。盛夏のころ,1茎に20輪近くの中型,橙色の花をつける。花被片は大きく反り返る。よく似たコオニユリL.leichtlinii Hook.f.var.maximowiczii (Regel) Baker(英名maximowicz's lily)は二倍体で,通常むかごを生じない。オニユリと同様,日本全土に分布,朝鮮にもある。またクルマユリL.medeoloides A.Gray(英名wheel lily)もユリ属のものである。なお,クロユリやウバユリはユリの名がついてはいるが,別属の植物である。
ユリの種間交雑は亜属間でも多く行われ,多様な花型をもつ交雑品種が生み出されている。おもなグループに次のようなものがある。(1)アジアティック・ハイブリッドAsiatic Hybrids イワトユリ,エゾスカシユリ,オニユリなど,おもにアジア原産のユリで,花色がカロチノイド色素からなるユリどうしを交雑したもの。花は上向き~下向きで反り返るものまでを含む。代表的な品種にスカシユリ類,エンチャントメントEnchantmentなどがある。(2)オリエンタル・ハイブリッドOriental Hybrids ヤマユリ,カノコユリ,ササユリ,オトメユリなどの交雑によるもので,花型は筒状~扁平で反り返るものまでがある。大型で芳香の強いものが多い。品種にジャーニス・エンドJourney's End,レッド・エースRed Aceなどがある。(3)オーレリアン・ハイブリッドAurelian Hybrids おもに中国原産の,リーガル・リリー,リリウム・サルゲンティアエL.sargentiae Wilsonなどの筒状花のユリ,およびキカノコユリの交雑によるもので,筒状~扁平な星状,反り返るものまでを含む。高性で強健なものが多い。
執筆者:浅野 義人
バラとならんでユリは古くから多くの国で知られていた。ギリシア神話によると,アルクメネは夫の留守にゼウスとひそかに契り,ヘラクレスを生む。ゼウスの妃ヘラは夫の不実を知り,そのためこの子を憎んだ。ところでゼウスはたくましいわが子に不死を与えるため,ヘルメスをつかって幼児ヘラクレスをヘラの寝ているところへやり,その乳を飲ませた。ヘラクレスは猛烈な勢いで乳を吸ったのでヘラは目をさました。ヘラはこれに気がつくと腹を立て,手荒く乳房を引きはなした。その拍子に乳がほとばしって天と地に散った。前者が天の川になり,地上に滴ったところからユリが生えたという。ローマ人も女神ユノ(ギリシアのヘラ)の聖花としてこれを賛美し,希望のシンボルであると同時に王位継承者の印ともなった。古代ローマの貨幣の多くにユリは〈ローマ民衆の希望〉という銘といっしょに刻印されている。
ユリはその楚々とした姿,とりわけ清らかなその白い色のため古来尊ばれた。古代イスラエルではユリは純潔と清らかさのシンボルとされ,《雅歌》など旧約聖書中にも多く言及されている。ユリを純潔のシンボルとすることはキリスト教もそっくり受け継いでいる。中世に白ユリは純潔と処女性の宗教的シンボルとされ,とくに聖母マリアの持物(アトリビュート)になった。絵や彫刻にそれが多く見られるだけではない。カトリックの国では祭日にマリア像がユリで飾られるのが普通である。ユリはまた,ドイツの中世初期に薬用植物として修道院の庭によく植えられた。ギリシアでも婦人病の薬とされたが,ドイツでもユリ根を食べるとお産が軽くなるといわれる。スロバキア人の間でもユリ根を刻んで煮たものは陣痛をやわらげるといってよく利用された。
さて,ユリはフランスのブルボン家の紋章になっているが,その由来はこうだ(ただしブルボン家の紋花fleur-de-lisをユリではなくアイリスと解する説もある)。フランク王家の開祖クロービス(在位481-511)がアラマン族と戦い,苦戦したときのことである。味方は敵の攻勢を支えきれず危うく敗走しそうになった。彼は熱心にイエスに祈り,もしも自分が勝利者としてこの戦いを終えることができたらキリスト教徒になることを約束した。すると天使が現れ,ユリを渡してこれを武器として子孫に伝えるようにと指示した。するとクロービス軍の士気はにわかに上がり,果敢な抵抗の末アラマン族を敗退させた。クロービスは感謝の心から多くのフランク人とともに洗礼を受けた。以来ブルボン家は白ユリを尊び王家の権力の印がユリで飾られることになった。1197年に初めてフランスの王家の紋章としてユリが登場したとされ,ルイ9世は十字軍遠征の際に三つのユリでその旗と紋章を飾った。
ユリは上にのべたように純潔,謙虚さ,やさしい心,美のシンボルである反面,死,悩み,心痛のシンボルでもある。ドイツでは墓地のユリは,生きている者への死者からの挨拶だとか,無実で死んだ者の復讐(ふくしゆう)を告げるものだとかいわれる。
執筆者:谷口 幸男
単子葉植物の中では大きな科の一つで,約250属3500種を含む。全世界に広く分布するが,温帯から亜熱帯に多く,林床の日かげから乾燥した砂漠地帯まで,いろいろな生態環境に適応,放散的に分化している。単子葉植物の中では最も基本的な花の構造をもっており,アヤメ科,ラン科,サトイモ科,イグサ科など他の多くの科がユリ科から派生したと考えられている。
草本,まれに木本(アロエの仲間など)。葉は通常互生し平行脈をもつが,サルトリイバラ属やエンレイソウ属では網状脈が発達する。地下茎には鱗茎となるもの(ユリ属など),球茎となるもの(ネギ属など),長い匍匐(ほふく)茎となるもの(チゴユリ属など)などいろいろな形態がある。花は3枚ずつの外花被と内花被をもち,おしべは6本で,子房は3室である。通常,子房上位で側膜胎座。果実は蒴果または液果。シュロソウ属やチシマゼキショウ属では蒴果を構成する3枚の心皮の合着が不完全で,心皮の縫合面にそって果実が裂ける。この性質からユリ科の中で最も原始的な属とみなされている。
美しい花をもち,観賞用に栽培される植物が多い。ユリ属,チューリップ属,ヒアシンス属,アガパンサス属,ムスカリ属,キスゲ属,ギボウシ属,カタクリ属,スズラン属などはその代表的なものである。とくにチューリップ属では人工交雑による品種の育成がすすんでいる。オモトやハランのように観葉植物として栽培化されたものもある。ネギ属は多くの食用植物を含んでいる。ネギ,ニラ,アサツキ,ノビル,リーキは蔬菜(そさい)として利用され,タマネギ,ラッキョウ,ニンニクは球茎を食用とする。キジカクシ属のアスパラガスは若い茎を食用とする。このほかキスゲ属,ギボウシ属などのように山菜として食用とされるものもあるが,作物として栽培化されるにはいたっていない。薬用植物としてはアロエが著名で,広く栽培され民間薬として利用される。このほかユリ科ではイヌサフラン(コルキカム),カイソウ(海葱),シュロソウ属(藜蘆(れいろ)),バイモ,ジャノヒゲ(麦門冬),サルトリイバラ属(土茯苓)などが薬用植物として広く利用される。
執筆者:矢原 徹一
日本音楽における装飾的技法,あるいは,その旋律の称。揺,由里,淘とも書く。声にも楽器にも存在する。ただし,イロ,フリ,ツキなどの名で呼ばれる装飾技法などとの区別は,かならずしも明確ではない場合がある。しかし,ナビキとかギンなどというビブラートとは,はっきり違うといってよい。つまり,ユリは,直接的に音高を波状に進行させるものであり,かつ,多くの場合,最小単位が確定していて,一つ,二つ,三つなどと数えることができる装飾技法なのである。ユリはまた,一つの分野の中でも,何通りもの唱法,奏法に細分されたり,ほかの技法と結合したりするので,旋律そのものと,それらの名称との相関関係は,いっそう複雑になる。
雅楽では,ユリの語をあまり多用しないが,管楽器に由(ゆる)があり催馬楽(さいばら)に容由(ようゆ)/(ようゆう)がある。この容由は,入節(いりぶし)との区別がややあいまいである。声明(しようみよう)では,多くの流派でユリを用い,もっとも代表的な旋律型となっていて,ユリを用いないところをわざわざ〈スグ〉と明記しなければならないほどである。各種のユリに細分し,それぞれ固有の名称を与えるのがもっとも目立つのもこの分野といえよう。平曲や謡(うたい)でも各種のユリが区別されるが,とくに謡の場合は,実際の旋律と名称との対応関係が,流派によって異なることがあるので注意が必要である。狂言謡には,小歌という謡を特徴づける特別なユリがある。また能の笛(能管)には,クリという謡事の末尾で,謡の本ユリなどにあわせて吹くユリがある。
三味線音楽では,古浄瑠璃にユリ,ツキユリ,三ツユリ,七ツユリ,本ユリなどの語があり,これらが現在の義太夫節,一中節,河東節などに受け継がれ,それぞれ独自に発展している。ただし,これら現在の浄瑠璃のユリは,かなり規模が大きく,旋律の形も単純な波状ではないし,一ツユリを3回繰り返すのが三ツユリ,7回繰り返すのが七ツユリなどというものでもない。地歌(じうた)の三味線では,スリの技巧を反復するものをユリという場合があり,箏では,撥弦(はつげん)後の余音を,左手の押シ手によって上下させる技法をユリイロなどと称している。
執筆者:蒲生 郷昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ユリ科(APG分類:ユリ科)ユリ属の総称。北半球の温帯に130種分布する。その内訳はアジア71種、北アメリカ37種、ヨーロッパ12種、ユーラシア大陸10種である。そのうち日本には15種分布し、7種が日本特産種である。多くは園芸種で、秋植え球根草として栽培される。
[坂本忠一 2018年12月13日]
ユリ属は植物分類学上はユーリリオン亜属に分類され、以下の4系統に分けられる。
(1)テッポウユリ(鉄砲百合)亜属(レウコリリオン系) 花はテッポウユリ状のらっぱ形で、横または下向きに開く。白色系、淡桃色系の花が多く、香りがあり、斑点(はんてん)はない。これに属するものとしてはテッポウユリ(イースターリリー)、ササユリ、ヒメサユリ(オトメユリ)、タモトユリ、ハカタユリ、マドンナリリー、リーガルリリー、タカサゴユリなどがある。
(2)ヤマユリ(山百合)亜属(アルケリリオン系) 花は杯(さかずき)状で花弁の中央部は広く、横または下向きに開く。白色花で香りがあり、斑点がある。これに属するものとしてはヤマユリ、サクユリなどがある。
(3)スカシユリ(透百合)亜属(プセウドリリューム系) 花は杯状で上向きに開き、花弁の先端部が広く、付け根部分は急に細くなって透ける。花色は橙黄(とうこう)色が多く、香りはなく、斑点が多い。これに属するものとしてはエゾスカシユリ、イワトユリ、スカシユリ類、ヒメユリ、フィラデルフィカム種などがある。
(4)カノコユリ(鹿子百合)亜属(マルタゴン系) 花は花弁が強く反転して球状の花形となって下向きに開き、斑点が多い。これに属するものとしてはカノコユリ、オニユリ、コオニユリ、タケシマユリ、クルマユリ、キカノコユリ、マルタゴン種などがある。
[坂本忠一 2018年12月13日]
球根は形態上は鱗茎(りんけい)で、茎の変化した部分に、葉が変化して肥厚した鱗片葉を形成する。チューリップのように球皮がない無皮球根で、乾きやすく、鱗片葉もはがれやすいので、取扱いには注意を要する。貯蔵養分としてはデンプン粒を多く含有し、苦味のないヤマユリなどは食用になる。色は白っぽいものが多いが、黄色や褐紫色のものもある。形は種類や生育段階によって異なり、球形から砲弾形のものまである。大きさは、小球性のもので径約2センチメートル、重さ4~5グラム、大球性のものでは径20センチメートル以上、約1キログラムになる。鱗片葉はヤマユリのように舟底形のものから、クルマユリのように米粒状になるものもある。根は上根と下根に分かれ、下根は下方への牽引(けんいん)作用があって、おもに球根の安定を保ち、2~3年は生きる。上根には発芽後の養水分の吸収と、茎の安定作用があり、1年で枯死する。
草丈は、ヒメエゾスカシユリの約10センチメートルのものから、サクユリの約2メートルのものまである。茎は円形で分枝せず、直立するが、帯化した場合には扁平(へんぺい)になって多くの花をつけ、ヤマユリでは150個以上開くこともある。葉は披針(ひしん)形で、日本、中国原産のものにはササやヤナギの葉に似たものが多く、北アメリカ原産のものにはヤツデに似た輪生葉になるものが多い。普通、緑色葉であるが、濃淡に差があり、まれに美しい斑(ふ)の入るものもある。また葉数の多少、光沢、細毛の有無などの差異がある。
花は総状花序に頂生し、普通は一重咲きであるが、二重咲き、八重咲きになるものもある。着花方位は上、横、下と種類によって異なる。
花形は筒状、杯状、球状と変化に富み、大きさはオトメユリの3~4センチメートルの可憐(かれん)なものから、サクユリの30センチメートルに達する雄大なものまである。花被片(かひへん)は6枚、3枚の広い内花被片と、萼片(がくへん)が変化した狭い3枚の外花被片がある。内花被片の内側には蜜腺(みつせん)があり、種類により、乳状突起と斑点があるものもある。雄しべは6本で、先端に大きな葯(やく)がT字形につく。雌しべは1本で、自家受精を避けるため柱頭部は長く突き出し、受粉しやすいように大きくて粘りがある。開花期はオトメユリ、イトハユリなどの寒冷地型のものは早く、東京周辺で5月、カノコユリ、スゲユリなどの暖地型では8月と遅い。
花色は青、黒紫色系を除いてほとんどの色があり、白、桃、赤色のフラボンやアントシアン系色素のものには香りがあり、黄、橙(だいだい)色のカロチノイド系色素のものには香りがない。
[坂本忠一 2018年12月13日]
寒冷地から温暖な所まで、さまざまな気候の下に分布する。低温期は休眠して寒さを避け、暖かな季節にのみ生育、開花する。このため、ほとんどの品種の掘り上げ、植え替えは、地上部の生育が終わる10月から11月で、このころが定植の適期である。定植時期が遅れると発根する。また保存状態が悪いと球根が乾燥して消耗し、ウイルス病が多発するので、かならず適期に植える。保・排水がよく耕土の深い腐植質に富んだ、やや粘質土壌の所が適地である。テッポウユリ、スカシユリ、リーガルリリーなど陽光・通風を好む種類は、一日中よく日の当たる所に植える。ヤマユリ、ササユリ、オトメユリ、タケシマユリなど半陰地を好むものは、強い光と西日が当たって地温が上がる所を嫌うので、明るい植え込みの間の西日の避けられる所に植えると、長年にわたって開花する。植え込みは、深さが球根の3倍、間隔は3~4倍とする。
鉢植えの場合は腐葉土、完熟堆肥(たいひ)を4~5割入れた保・排水のよい培養土を使う。品種別に鉢を選び、大柄になるオリエンタル・ハイブリッドのジャーニース・エンド、サマードレスなどで6、7号鉢に1球植え、テッポウユリ、カノコユリ、ハカタユリなど、やや大きくなるもので5、6号鉢に1球植えがよい。スカシユリは1球植えでは寂しいので、3~4球を5、6号鉢でつくると豪華になる。
[坂本忠一 2018年12月13日]
肥料を与えるといっそうよい生育をするので、オリエンタル・ハイブリッド類の地植えで、成分等量の化成肥料を1球につき3~5グラムの割合で与える。上根が吸収しやすいように、球根の上部に一握りの完熟堆肥を施し、地表に敷き藁(わら)をすれば理想的である。中形種は、施肥量を2~3割減らし、小形の原種類は、強い化学肥料をあまり与えないほうが安全である。鉢植えでは6号鉢の場合、肥効の長続きする「マグアンプ」2~3グラムを球根の上部に6割、下部に4割施し、上根が十分肥料を吸収できるようにするとよく生育する。
[坂本忠一 2018年12月13日]
いちばん多く発生するのはウイルス病で、葉に濃淡のモザイク模様やよじれを生じ、一度感染すると回復不能となる。これはアブラムシによって伝染するので、展葉後は「ランネート」などの殺虫剤を定期的に散布して防除する。梅雨のころから葉枯病が発生するので、「ロブラール」などの殺菌剤を散布する。害虫ではアブラムシのほかにネダニが付着するので、45℃の温湯に30分間、浸漬(しんし)消毒すると効果的である。
[坂本忠一 2018年12月13日]
分球、木子(きご)、珠芽などによって自然に殖やすことができるが、積極的に殖やす場合は、実生(みしょう)と鱗片挿しがよい。ほかに組織培養(メリクロン)や茎伏せによる増殖法もある。実生は生育が速く、播種(はしゅ)後1~2年以内に開花する。発芽の適温は25℃前後である。取播(とりま)きをすると、2週間で発芽する。鱗片挿しは自然増殖の30倍以上の速さで殖やすことが可能である。挿し期は開花後ある程度球根の充実した8、9月が適期で、掘り上げた球根を消毒し、鱗片葉の外層から中層へかけて肉厚のものをはぎ取る。保・排水のよい清潔な挿床に、先端約1センチメートルを出して斜めに挿し、約23℃に保って乾かさないように管理すると、3週間後、切り口に米粒大の子球が発生する。これを上手に育てると、翌年は70~80%開花し、秋には直径5~6センチメートルの球根ができる。
[坂本忠一 2018年12月13日]
オニユリ、コオニユリ、ヤマユリの球根を秋から冬に掘り、百合根(ゆりね)と称して食用とする。百合根の生(なま)の成分は水分67%、糖質が27.2%と多く、タンパク質は3.7%含まれる。無機質についてはリンが100グラム中70ミリグラムで、野菜類のなかでは多く、カリウムも多いが、カルシウムがわずか10ミリグラムで非常に少ないのが特色である。ビタミン類は少ない。ブドウ糖1とマンノース2からなるグルコマンナンを主とする粘質物が含まれる。煮ると甘味があるが、苦味と渋味もある。料理に際しては、まず一度ゆでてあくを除いてから調理するとよい、また少量の酒を加えるとタンニンが不溶化するので渋味も除くことができる。組織が柔らかいので、強火にしすぎると煮くずれる。そこでみょうばんを少し加えるとペクチンが不溶化するので煮くずれが防げる。含め煮や茶碗(ちゃわん)蒸しの種にして、かすかなほろ苦さと甘味を賞味する。煮くずれしたものは裏漉(うらご)しして、きんとんや茶巾(ちゃきん)絞りにするとよい。
[星川清親 2018年12月13日]
古代のギリシア、フェニキア、エジプトでは油とユリの花から香油をつくり、皮膚病などの治療に使った(ディオスコリデス著『薬物誌』De materia medica)。古代ローマでもそれは受け継がれ、また、花は花輪にされた。クレタ島のミノア文明では、宮殿などの壁画にマドンナリリーが描かれている。『旧約聖書』の谷のユリ(「雅歌(がか)」2章)や『新約聖書』の山上の垂訓(すいくん)のユリ(「マタイ伝福音書(ふくいんしょ)」6章)はヘブル語shushanなどの訳だが、前者はヒヤシンス、後者はアネモネとする見解がある(H&A・モルデンケ著、奥本裕昭編訳『聖書の植物』、大槻虎男著『聖書の植物』)。ユリはキリスト教では純潔や処女のシンボルとされるが、これは、レオナルド・ダ・ビンチをはじめルネサンスの画家たちやマニエリスムの画家グレコが、題材にした聖母マリアの受胎告知の場面で、天使ガブリエルにマドンナリリーを持たせたことの影響がある。中国でのユリは薬として扱われ、すでに『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』に滋養強壮の働きが載る。
日本では上代から花が観賞された。『万葉集』には10首詠まれているが、「吾妹子(わぎもこ)が家の垣内(かきつ)の小百合花(さゆりばな)……」(巻8)と庭で栽培されるユリを取り上げた歌もある。ユリは室内で飾られた記録の残る日本最初の花で、宴(うたげ)の席で頭に巻かれた。大伴家持(おおとものやかもち)が「あぶら火の光に見ゆるわが蘰(かずら)小百合の花の笑まはしきかも」(巻18)と歌っている。ユリは神事にも使われ、奈良市の率川神社(いさがわじんじゃ)で開かれる6月17日の三枝祭(さいくさのまつり)(百合祭)には、ササユリを手にした巫女(みこ)がササユリを供えた神前で舞う。祭神の伊須気余理比売命(いすけよりひめのみこと)は『古事記』によるとササユリの古名佐韋(さい)にちなむ狭井川(さいがわ)の地に住んでいたとされる。
ユリは、江戸時代に栽培品種が増え、貝原益軒(かいばらえきけん)は「ほとんど百種に及ぶ。近年は百合の花を、世にはなはだ賞玩(しょうがん)す」と書いている(『花譜』)。19世紀に日本のユリはヨーロッパに渡り、注目を浴びたが、なかでもジョン・ビーチJohn Gould Veitch(1839―1870)が1862年に導入してロンドンのフラワーショーに出品したヤマユリは絶賛され、1873年のウィーン万国博で商談が進み、翌々年から球根の輸出が始まった。明治末にはその数が2000万球にも達し、外貨を稼いだ。
[湯浅浩史 2018年12月13日]
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(森和男 東アジア野生植物研究会主宰 / 2007年)
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…通常,本(聖書)を手に瞑想にふけるマリア(その前に祈禱台が置かれることもある)のかたわらに,突如ガブリエルが舞い降り立った場面として表現される。ガブリエルは神の使いとして棒,笏またはユリの花を携え,マリアに向かってうやうやしくひざまずく。聖霊の象徴として鳩が父なる神よりマリアの頭上に一直線に飛んでくる(マルティーニ,1333,など)。…
…日本音楽において,旋律の骨格に何らかの装飾を加えることをいうが,具体的には分野や場合によってさまざまな変化がある。また同類の概念にユリがあって両者の区別が必ずしも明確ではなく,さらに,イロ単独で用いるほかに多くの複合語をもつくるので,様相はきわめて複雑である。まず,能,狂言,それに浄瑠璃など,音楽的に節付けされた部分と,節付けされないコトバ(詞)の部分とを明瞭に使いわける分野では,フシ(節)とコトバとの中間的な,特有の抑揚をもった旋律様式をいう。…
…このように声明は言語のアクセントが基本となっているため,国語学や言語学における貴重な音韻史資料でもある。また〈ユリ〉〈イロ〉〈ソリ〉などに代表される装飾法はほかの声楽諸分野には見られぬ多様性をもち,たとえば真言声明ではユリが20数種に分類されている。(4)記譜法 声明に用いる楽譜は〈博士(はかせ)〉(墨譜ともいう)といい,その語源は文法学,音韻学としての声明の指導者の呼称であるとされる。…
※「ゆり」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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