(読み)いきおい

精選版 日本国語大辞典 「勢」の意味・読み・例文・類語

いきおい いきほひ【勢】

[1] 〘名〙
① 他を圧倒する力。元気。活気。気勢。士気
書紀(720)顕宗三年是歳(図書寮本訓)「是に生磐宿禰 軍を進めて逆(さか)撃つ。胆気(イキホヒ)益壮にして、向ふ所皆破る」
※伊勢物語(10C前)四〇「人の子なれば、まだ心いきおひなかりければ、とどむるいきおひなし」
② 政治力、経済力、武力などによる社会的な支配力。他を圧倒する力。権勢。富裕。
※書紀(720)神代上(水戸本訓)「伊弉諾尊、功(こと)既に至(いた)りぬ。徳(イキホヒ)亦大(をほ)いなり」
源氏(1001‐14頃)鈴虫夕べの寺に置き所なげなるまで所せきいきをひになりてなん、僧どもは帰りける」
③ 自然界のエネルギー。「火の勢い」「風の勢い」
※源氏(1001‐14頃)梅枝「宰相中将のは、水のいきをいゆたかに書きなし」
④ 状態。形状。情勢。
※源氏(1001‐14頃)乙女「大方世ゆすりて、所せき御いそぎのいきおひなり」
⑤ なりゆき。はずみ。余勢
※虎明本狂言・鬮罪人(室町末‐近世初)「私もさのみうたふとはぞんぜなんだれ共、鬼(おに)のせむるいきほひにあたったものであらふが」
女工哀史(1925)〈細井和喜蔵〉一六「また夜業と昼業とは、夜業の方はるかに負傷率が高まるのは当然の勢ひである」
[2] 〘副〙 自然のなりゆきで。当然の結果として。必然的に。
※条約改正論(1890)〈馬場辰猪原著、山本忠礼・明石兵太合訳〉「去れば歳月の漸々経過する毎に治者の境堺も勢狭隘ならざる可からざるに至りたり」

せい【勢】

〘名〙
① いきおい。また、ちから。勢力。精力
太平記(14C後)一九「ここに囲れ彼に取籠られて、勢もつき気も屈しければ」
婦系図(1907)〈泉鏡花〉後「此頃ぢゃ落胆(がっかり)して、勢(セイ)張合も無いんですけれども」
軍勢軍隊兵力。兵数。つわもの。
平家(13C前)四「さればよくよくはかり事をめぐらして、勢をもよほし、後日によせさせ給ふべうや候らん」
かたち。ありさま。また、大きさ。
※左経記‐長元七年(1034)一〇月一〇日「新作赤木倭琴今日初装束。〈略〉其勢依今琴尺寸、於御前所作也、而其体并木色甚以有興之中、音勢相備尤足翫興者也」
※今昔(1120頃か)三「阿修羅王と云ふ者有り、身の勢、極て大き也」
④ 男子の陰茎、また、動物の雄性の生殖器をいう。睾丸。
※史記抄(1477)一〇「男根を勢と云ぞ。勢がなければ精が閉るなり」 〔晉書‐刑法志〕

いきお・う いきほふ【勢】

〘自ハ四〙
① 勇み立つ。活気づく。
※更級日記(1059頃)「その程の有様は、もの騒がしきまで人多くいきほいたり」
② 時めく。権勢づく。富み栄える。
※宇津保(970‐999頃)沖つ白浪「源中納言は〈略〉上中下花のごと飾りて、あるが中にいきをひて住み給ふ」

ぜい【勢】

〘名〙 ⇒せい(勢)

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デジタル大辞泉 「勢」の意味・読み・例文・類語

せい【勢】[漢字項目]

[音]セイ(漢) ゼイ(慣) セ(呉) [訓]いきおい
学習漢字]5年
〈セイ〉
他を押さえ取り仕切る力。いきおい。「勢力威勢気勢虚勢権勢語勢豪勢筆勢余勢
その物の力。「火勢水勢
物事の成り行き・様子。「運勢形勢姿勢時勢守勢情勢趨勢すうせい大勢たいせい態勢地勢
睾丸こうがん。「去勢
人数。兵力。「加勢
伊勢いせ国。「勢州
〈ゼイ〉5に同じ。「軍勢総勢多勢
[名のり]なり
[難読]伊勢いせ勢子せこ

せい【勢】

いきおい。力。
「此頃じゃ落胆がっかりして、―も張合も無いんですけれども」〈鏡花婦系図
軍勢。兵力。「敵の一万騎に及ぶ」
(「ぜい」の形で接尾語的に用いて)人名や地名を表す語の下に付いて、その軍隊・軍勢、そのチーム・選手などの意を表す。「今川と織田」「日本どうしの決勝戦」「東北初の優勝」
[補説]3は、戦力をもつ組織についても用いられる。「中国が躍進する業界」

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