(読み)コウ(英語表記)dirt
grime

デジタル大辞泉 「垢」の意味・読み・例文・類語

こう【垢】[漢字項目]

[音]コウ(漢) ク(呉) [訓]あか
〈コウ〉あか。よごれ。「垢衣垢面歯垢塵垢じんこう
〈ク〉に同じ。「無垢むく
〈あか〉「手垢耳垢
[難読]垢離こり頭垢ふけ

あか【×垢】

汗・脂・ほこりなどがまざり合って皮膚の表面につく汚れ。「を落とす」
水中の含有物が器物などに付着したもの。水あか・湯あかなど。
心身に宿ったけがれ。「俗世の
欠点。未熟さ。
「稽古のこふ入りて、―落ちぬれば」〈花伝・三〉

く【×垢】

仏語。煩悩ぼんのう。心をけがす不浄なもの。

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精選版 日本国語大辞典 「垢」の意味・読み・例文・類語

あか【垢】

  1. 〘 名詞 〙
  2. [ 一 ] 体や物についたよごれ。
    1. 汗、脂(あぶら)などの皮膚からの分泌物と、ほこりや、ごみなどが入り混じったよごれ。
      1. [初出の実例]「万(よろづ)衣裳(きもの)(や)れ垢(アカツキタリ)」(出典:日本書紀(720)崇峻即位前(図書寮本訓))
      2. 「大概(てへげへ)で能(いい)ことさ、垢(アカ)だっても毎日(めへにち)出る者(もん)でねへ」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
    2. 水中の不純物が底に沈み、固まりついたもの。水垢。湯垢。
      1. [初出の実例]「水の垢(アカ)を滌いで浄くして余り無きがごとく」(出典:守護国界主陀羅尼経平安中期点(1000頃)三)
    3. [ 一 ]を流すこと。風呂などで体を洗うこと。
      1. [初出の実例]「金王丸御剣を持ちて、御あかに参りければ、すべてうつべきやうぞなき」(出典:平治物語(1220頃か)中)
  3. [ 二 ] 比喩的に用いる。
    1. よごれ、けがれ。特に仏教で用い、煩悩とほぼ同意で、身体に宿る種々の俗念や欲望などをさしていう。
      1. [初出の実例]「常の心の蓮(はちす)には、三身仏性おはします、あかつき穢(きたな)き身なれども、仏に成るとぞ説いたまふ」(出典:梁塵秘抄(1179頃)二)
    2. (一般的に)欠点。洗練されていないところ、整っていないものをいう。→垢が抜ける
      1. [初出の実例]「能に嵩(かさ)も出で来、あかも落ちて、いよいよ名望も一座も繁昌する時は」(出典:風姿花伝(1400‐02頃)六)
    3. 少ない、または、小さいもののたとえにいう。ほんの少し。
      1. [初出の実例]「今に藤さんの話は垢程も書いては来ない」(出典:千鳥(1906)〈鈴木三重吉〉)

く【垢】

  1. 〘 名詞 〙 ( [梵語] mala の訳語。心性をけがすものの意で ) 仏語。人間の心身をけがしなやます精神作用、すなわち煩悩の異称。
    1. [初出の実例]「猶如大水能滌一切煩悩垢」(出典:教行信証(1224)二)
    2. [その他の文献]〔成実論‐九〕〔大乗義章‐五本〕

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改訂新版 世界大百科事典 「垢」の意味・わかりやすい解説

垢 (あか)
dirt
grime

皮膚表面から脱落する表皮の角質細胞に,汗腺から分泌される汗,脂腺から分泌される脂質成分や外界からのよごれなどが混じりあったもの。表皮は皮膚の表面にある十数層の細胞層からなり,角質細胞はその最外層にあるいわゆる死んだ細胞で,これらは重なりあって角質層を形成している。この角質層は皮膚に対する保護作用をしており,粘着テープで角質層全層を剝離(はくり)すると,体内から過剰の水分の漏出がおこったり,外界から種々の物質が皮内に吸収されたりして,いろいろな皮膚障害をおこす。しかし,あかとして脱落するのは角質層のごく表面のみであって,あかはいくらこすっても障害はない。表皮の細胞は常に少しずつ新しい細胞とおき代わっており,このリズムが一定に保たれているかぎり,人間の表皮の厚さは乳幼児から老人までほぼ同じに保たれる。むしろ,あかがたまりすぎると,汗や皮脂の排泄が障害されたり,細菌感染がおこりやすくなったりする。あかは死んだ細胞のため水分含有量が少なく,入浴などにより水分を含むと膨潤する。あかの脂質成分は脂腺から分泌された中性脂肪,ワックスエステルスクワレン大部分で,これに角質細胞由来のコレステロールがわずかに含まれる。老人になると脂腺機能が低下するため,角質層表面の脂質成分が減少し,そのために水分の保持ができなくなり,老人特有の乾いた皮膚になる。なお,〈ふけ〉は頭部の皮膚から出るあかである。
執筆者:

あかは皮膚から分泌された皮脂と落屑する細胞とほこりとが混じったものである。といっても,爪のあかなどはほとんどがちりやほこりである。日本では女性は身ぎれいにして毎日手を洗い,爪のあかをためないよう心がけた。〈手足を洗ふに随ふて爪を生やして垢を滑(ため)るは,腌(むさくろ)しき限りなり〉(《新撰増補女大学》)。ところがオウィディウスは婦人に言い寄る男性に対して同じことを注意している。〈そして爪を伸ばさず,あかのない爪であること〉(《アルス・アマトリア》)。ローマの貴婦人たちはすでに手足の爪を形良く切り,肌色に磨きあげる化粧の技を持っていた。彼は男性にも爪のあかを除く優雅さを求めたのである。

 あかは汗と異なって,外から付着する不潔なものと考えられてきた。水あか,湯あかなどもその例である。神仏に祈る際,冷水を浴びて垢離(こり)をとれば心身が清くなるとした。あかはけがれたものだから,伊弉冉尊(いざなみのみこと)から逃げ帰った伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が黄泉(よみ)の国で汚れた身体の禊(みそぎ)をしたとき,八十禍津日神(やそまがつひのかみ)と大禍津日神(おおまがつひのかみ)が生まれた。〈此(こ)の二神(ふたはしら)は,其の穢(けがれ)繁(しげ)き国に到りし時,汗垢(けがれ)に因りて成れる神なり〉(《古事記》)。いずれも災禍をもたらす神である。釈迦が菩薩だったころ,人間界に生まれ出ようと思って五衰の相を現した。そのいずれも天人にはなくて人間にある現象で,その一つに天人にはつかないちりやあかが人間にはつくという(《今昔物語集》天竺部)。釈迦にあかがついたので,まわりの天人や菩薩たちは驚いたわけである。仏教をわかりやすく広めるのにあかも役に立つが,そのもう一つの例は1322年(元亨2)に虎関師錬の著した《元亨釈書》にある。光明皇后が1000人の病者のあかを洗うと誓願し,1000人目のらい患者の膿を吸ったら彼は仏と化したという話である。あかを不潔とする考えは西欧も同じで,ラテン語sordes(あか)が動詞の形sordereになると〈汚いbe sordid〉の意である。あかの英語dirtやgrimeが形容詞dirty,grimyになると〈不潔な〉の意になる。もっともdirtは中世英語ではdritで,これは中世スカンジナビア語のdrit(排泄物)と共通で,糞尿の意が拡張されてちりやほこりなども指すようになったという。

 《風姿花伝》に位を論ずる件で,〈又稽古の劫入りて,垢落ちぬれば,この位おのれと出で来る事あり〉とある。この文は同じく世阿弥の《覚習条々》または《花鏡》の中で劫とは何かを論じながら〈少々(すくなすくな)とあしき事の去るを,善き劫とす〉と述べているのと照応しており,〈あか〉は欠点のことである。ここではもともと身に備わっていたものが脱落するものとして〈あか〉の語が用いられ,現代の医学的な意味に近い。〈あかぬけした〉はこれに似た形容である。〈金を湯につかった息子垢がぬけ〉(《柳多留》)。あかを除くのはセッケン洗剤となっているが,かつては単に水ですすぐか,小豆の細かな粉末から作った澡豆(さくず),こぬかなどを用い,〈糸瓜(へちま)の皮〉や軽石をあかすりとして使用した。白い絹や木綿についたあかは,〈鶏の糞にてあらへばよく垢落ちて,石鹼より便なり〉と高田義甫の《女訓》(1874)にある。
執筆者:

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普及版 字通 「垢」の読み・字形・画数・意味


9画

[字音] コウ・ク
[字訓] あか

[説文解字]

[字形] 形声
声符は后(こう)。〔説文〕十三下に「濁るなり」とあり、汚垢の意に用いる。后声のに悪(にく)む、詬に辱める意がある。

[訓義]
1. あか、よごれ、けがれ。
2. ちり。
3. はじ。

[古辞書の訓]
名義抄〕垢 アカ・アカツク・チリ・クモル・ハヂ

[熟語]
垢離・垢穢・垢衣・垢・垢・垢玩・垢故・垢滓・垢膩・垢臭・垢辱・垢塵・垢染・垢濁・垢泥・垢蠹・垢瘢・垢秕・垢氛・垢弊・垢病・垢面・垢
[下接語]
汚垢・解垢・刮垢・汗垢・含垢・去垢・国垢・痕垢・垢・受垢・宿垢・塵垢・洗垢・繊垢・澡垢・蔵垢・泥垢・忍垢・浮垢・紛垢・敝垢・磨垢・無垢・面垢・垢・離垢

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「垢」の意味・わかりやすい解説


あか

表皮のいちばん外側の層を形成する角質片の剥離(はくり)したものに、表皮の上を覆う脂質のエマルジョンおよび外界のほこりなどが混じったものである。絶えず皮膚面から剥離しているが、入浴、洗顔などによって清潔にしていれば肉眼では見えない。爪(つめ)の先にはたまりやすいので、爪を短く切り、手を清潔にしておく。耳垢(じこう)では、垢の一般成分のほかに、外耳道の脂腺(しせん)およびアポクリン腺の分泌物が重要な成分として含まれている。

[川村太郎]

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百科事典マイペディア 「垢」の意味・わかりやすい解説

垢【あか】

角化した表皮細胞が汗や皮脂やごみとともに皮膚表面にたまったもの。表皮下層で絶えず細胞増殖が行われながら表面に押し上げられ,最終的には細胞が死んで,角化した細胞が表面からはがれていく。清潔を怠ると垢は汗腺や皮脂腺をふさぎ,代謝に異常をきたし病原菌の繁殖を助長することがある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「垢」の意味・わかりやすい解説


仏教用語。けがれのこと。特に人間を悩ませ乱す,本能的な精神作用 (煩悩 ) をいう。たとえば,むさぼり (貪) ,いかり (瞋) ,真理や現実世界を正しく把捉できない心 (痴) を三垢 (または三毒) と称する。

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知恵蔵 「垢」の解説

アカウント(account)のこと。怪しいサイトなどに入る(ログイン)アカウントや、非合法に入手したアカウントなどを、隠語的に表現して面白みをつけた、インターネット略語でもある。

(川口正貴 ライター / 2009年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典(旧版)内のの言及

【皮膚】より

…表皮の重要な性格の一つとして角質化現象を営む点があげられるが,その最終産物である角質は,表皮最上層における,極端に扁平化し内部に角質物質(ケラチンというタンパク質)を充満した状態に陥った,上皮細胞自身の死骸の堆積物にほかならない。角質には硬角質と軟角質が区別されるが,前者は硬い物質塊として成長する性質をもち,毛やつめ,あるいはうろこや羽毛などとなるのに対して,後者は体表全体をおおうような薄い保護シートを維持する役割を果たす(このシートの陳旧部分は次々にあか(垢)としてはげ落ちる)。人体では手掌と足底の皮膚には毛がまったくないが,代りに1mm以上の厚さの角質層が存在する。…

※「垢」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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