出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
近世の都市において,普通の街路よりも特に幅広くつくられた街路のこと。城下町など町制の行われた都市では,延焼防止のための防火帯である火除地(ひよけち)として設けられることが多い。地名として残る名古屋の広小路は1660年(万治3)の大火後に,町人地と武家地の境の街路を幅15間に拡張して作られた。この位置は町人地のはずれであったが,城下町の発展によって盛場となり,江戸時代後期には見世物,屋台店が出て,納涼のころには夜のふけるまで人々の群集する場所となり,近代にも名古屋の繁華街の中心として受け継がれている。江戸には両国,江戸橋,上野,外神田,浅草,本郷などかなりの数の広小路があったが,これらも多くは1657年(明暦3)の明暦大火やそれ以後の火災の後に,焼失した町家を移転させて街路を広げて設置されたものである。火除地としての機能から,広小路には恒久的な建造物は建てられなかったが,床みせと呼ばれた移動可能な店舗施設が置かれ,また大道芸や,矢来(やらい)と葭簀(よしず)で囲んだ仮設の小屋で芝居や講釈など各種見世物の興行もよく行われた。人々の集まりやすい両国橋西詰にあった両国広小路は,花火の行われる夏の納涼では特ににぎわい,《江戸名所図会》(19世紀初め)などには床みせとともに芝居,軽業,土弓の小屋が建ち並ぶようすが描かれている。江戸橋南詰の江戸橋広小路には小間物商いが大部分である100軒余りの床みせのほかに,楊弓場,水茶屋などがあり,冬から春にはミカン問屋,年末には松飾商人も商売を許されていた。この一画には牛車置場があり,また房州への船便の出る木更津河岸(きさらづがし)も設けられるなど,まさに交通の要所として人々が集まる盛場であった。現在,広小路といえば上野広小路が有名である。ここは東叡山寛永寺黒門前に設けられた火除地であり,下谷(したや)広小路とも呼ばれていた。ただし上野広小路が現在のように繁華街の中心になるのは近代になってからであり,江戸時代には,後に上野駅構内になる山下と呼ばれた一帯が,むしろ広小路としてはにぎわっていた。
執筆者:玉井 哲雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
愛知県名古屋市中村区笹島町から中区栄(さかえ)付近までの繁華街。清洲(きよす)越しによってつくられた名古屋の城下町の南縁にあたり、その外側は松原、田園などが続く寂しい所であった。万治(まんじ)大火(1660)後に久屋(ひさや)町―下長者町間の道幅を3間(約5.4メートル)から15間(約27メートル)に拡幅、広小路が誕生した。濃尾(のうび)地震(1891)では、栄町付近の県庁、市役所など多くの官公署は全半壊、広小路筋には被災者の避難小屋が急造された。その後広小路が急速に都市化し繁栄したのは1898年(明治31)笹島―久屋町間に市電が開通してからである。市電は1971年(昭和46)に廃止されたが、伏見通との交差点に地下鉄の伏見駅、久屋通との交差点近くに栄駅があり、現在も市の中心街で、銀行の支店やデパートが並ぶ。
[伊藤郷平]
近世都市における幅の広い道路空間。設置の目的は防火帯としての火除地であることが多かったが,仮設の店舗をおくことが許可されることにより,盛場が営まれる空間となった。小間物商・蜜柑問屋・年末の松飾商人などの床見世(とこみせ)ばかりでなく,大道芸や芝居・軽業・土弓(どきゅう)の小屋,あるいは楊弓場(ようきゅうば)・水茶屋などが立ち並んだ。武家地と町人地の間に設定された名古屋の広小路,江戸では両国・江戸橋・上野・外神田・浅草・本郷などがある。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…江戸の多発する火事に悩んだ幕府が,延焼防止のため設けた防火地帯の総称。江戸城用のものを火除明地(ひよけあきち),一般市街地のものを広道または広小路(ひろこうじ)とも呼んだ。また広道に土手を築いた火除土手もあった。…
…《洛中洛外図》などには,室町時代末期から江戸時代初期にかけて,京都四条河原でさまざまな踊り,歌舞伎などが演じられたようすが描かれるが,これらの舞台は竹矢来に筵(むしろ)や幔幕(まんまく)をひきめぐらして作っている。江戸においても,人々の集まる広場としての役割を果たしていた両国広小路,江戸橋広小路などでは,火除地(ひよけち)であるため恒久的な施設は作れなかったが,交通規制のための矢来が作られ,また許可を得て各種見世物や芝居,相撲などの興行を行う場合は,まず矢来で囲って場所を作り,簡単な小屋掛けをして葭簀(よしず)を張るなどして舞台をしつらえた。【玉井 哲雄】。…
…橋名は川をはさみ武蔵と下総の両国に架されたことにちなんだものである。1719年(享保4)橋の東西の広小路を町人に貸し,水防のための収入を得た。以後,橋をはさんで見世物小屋など各種の店が繁栄し,夏の川開きや花火など江戸最大の繁華地となった。…
※「広小路」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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