窃盗の一種。往来,車中などの混雑した場所で,他人の懐中物などを盗みとること,およびその盗みを行う者。〈きんちゃく切り〉〈ちぼ〉などとも呼ぶ。〈すり〉は〈摩(すり)〉で,体をすりつけるように寄せて盗む意などといい,〈掏摸(とうぼ)〉は手さぐりで物をさがし取る意で,中国の刑法典にこの種の盗人の呼称として用いられていた。〈すり〉の語は室町末ころから現れ,《日葡辞書》にも〈suri〉と見えるが,初めはより広い範囲の盗人をさしていた。江村専斎(えむらせんさい)は1568年(永禄11),4歳のとき乳母に抱かれて能見物をした際の思い出を語り,〈其比はぬすびとの刀,かうがい,小刀抔を抜取ことをしたり,是故に盗人をぬきと云し。今のすりと云が如し〉といっている。江戸期のすりの名人としては,元禄・宝永(1688-1711)ごろの〈坊主小兵衛〉,天保・弘化(1830-48)ごろの〈髪結の助〉その他の名が伝えられており,しだいに親分子分の組織が形成されていった。技術的には関西は刃物でたもとを切って盗むことが多く,関東では刃物の使用を軽べつして,指先の技術の精妙を誇ったという。幕府はすりを〈軽き盗〉〈小盗〉などと呼び,通常は敲(たたき)の刑に処したが,盗んだ額が10両以上の場合は死罪を行った。明治になって〈仕立屋銀次〉などの大親分が出現した。彼は1909年に逮捕されるまでは東京下谷に邸宅を構え,専用の人力車と車夫をもち,自宅近くに60戸もの家を建てて子分たちを住まわせていた。その家にはしばしば刑事たちがごきげん伺に出入りし,そのたびに銀次はかならず10円札2枚ずつを与えていたという。
執筆者:西村 潔
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…〈きんちゃく切り〉〈ちぼ〉などとも呼ぶ。〈すり〉は〈摩(すり)〉で,体をすりつけるように寄せて盗む意などといい,〈掏摸(とうぼ)〉は手さぐりで物をさがし取る意で,中国の刑法典にこの種の盗人の呼称として用いられていた。〈すり〉の語は室町末ころから現れ,《日葡辞書》にも〈suri〉と見えるが,初めはより広い範囲の盗人をさしていた。…
…〈手元の盗〉は知人宅,旅籠屋(はたごや)等で手元にある品を,ふと出来心で盗んだもので,盗品の額により10両以上は死罪,10両以下は入墨敲(五十敲)の刑が科せられた。〈軽き盗〉とは〈往来通り懸りの盗〉に適用されるもので,これには家の前,縁先などに出ているもの,物干竿に掛けてある衣類等を盗む場合のほか,〈途中にての小盗〉すなわちすりが含まれ,風呂屋で他人の衣類と着替えて帰る〈湯屋の盗〉とともに,最も軽い敲刑(ただし10両以上の場合は死罪)に処せられた。なお窃盗犯の累犯体系は,他の犯罪の場合と異なる独特のもので,敲刑を受けたものは再犯で入墨刑,入墨刑のものが次に盗みを犯したときは死罪となる定めであった。…
※「掏摸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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