(読み)おぼえる

精選版 日本国語大辞典 「覚」の意味・読み・例文・類語

おぼ・える【覚】

(「おもほゆ(思)」の変化した語)
[1] 〘自ア下一(ヤ下一)〙 おぼ・ゆ 〘自ヤ下二〙
① 自然にそう思われる。感じられる。
※竹取(9C末‐10C初)「こやす貝をふとにぎりもたれば嬉しく覚ゆる也」
※蜻蛉(974頃)中「南面の格子もあげぬ外(と)に人のけおぼゆ」
② 自然に思い出される。思い起こされる。
※枕(10C終)二七六「はづかしき人の、歌の本末(もとすゑ)問ひたるに、ふとおぼえたる、我ながらうれし」
更級日記(1059頃)「面影におぼえて悲しければ」
③ (伝え聞いたりして知っている物事が)ふと想像される。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「琴(きん)の音(ね)を聞くと、ここの有様を見るとこそ、天女の花ぞのもかくやあらんとおぼゆれ」
④ 似かよう。似る。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「院の女御の御こゑにおぼえ給へり」
⑤ 他人からそう思われる。
※落窪(10C後)一「まこと、此の世の中にはづかしき物とおぼえ給へる弁の少将の君」
⑥ 考えることができる。わきまえる。意識する。→おぼえずおぼえて
※竹取(9C末‐10C初)「物は少しおぼゆれど腰なん動かれぬ」
⑦ 身にしみて感じる。こたえる。
狂言記蟹山伏(1700)「此こんがう杖で甲を打わってくれうぞ。覚(おぼえ)たか覚たか
[2] 〘他ア下一(ヤ下一)〙 おぼ・ゆ 〘他ヤ下二〙
① (他の刺激などを)感じる。(それだと)気付く。
平家(13C前)九「いたさは、うれしさにまぎれておぼえず」
日葡辞書(1603‐04)「ミノ イタミヲ voboyuru(ヲボユル)
② 思い出す。
※枕(10C終)二三「中にも古今あまた書きうつしなどする人は、みなもおぼえぬべきことぞかし」
③ 思い出して話す。
※大鏡(12C前)一「いと興あることなり。いでおぼえたまへ」
④ (おそわったり見聞したりしたことを)心にとどめる。記憶する。また、学んだ技術などを身につける。体得する。
※蘇悉地羯羅経略疏寛平八年点(896)二「七は強く記(オホエ)て忘れず」
⑤ 忘れないように書きとめる。
※弁内侍(1278頃)建長二年八月一五日夜「『いひすてならんこそ念なけれ。少将おぼえよ』とぞ仰せごとありし」
[語誌]平安初期の散文作品では「おもほゆ」にかわって「おぼゆ」が使われはじめ、中期の女流による散文作品に多く使用されたが、和歌の世界では「おもほゆ」が「おぼゆ」に対して優位を保っていた。

おぼえ【覚】

〘名〙 (動詞「おぼえる(覚)」の連用形の名詞化)
[一] 人から思われること。
① 世間の人々から思われること。
(イ) 世の人々からの思われぶり。はたからの感じられかた。
※枕(10C終)一八四「ふりかくべき髪のおぼえさへあやしからんと思ふに」
徒然草(1331頃)一三九「おそき梅は、さくらに咲き合ひて、覚えおとり、けおされて、枝にしぼみつきたる、心うし」
(ロ) 世の人々からよく思われること。すぐれた評判。声望。名望。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「世におぼえあり、みめきらきらしき四位、五位、数をつくして参り集ひたり」
※大鏡(12C前)二「これにぞいとど日本第一の御手のおぼえはこののちぞとり給へりし」
② 上の人からかわいがられること。また、その人。気に入り。寵愛(ちょうあい)、信任の受けぶり。
源氏(1001‐14頃)桐壺「いとまばゆき、人の御おぼえなり」
[二] 自分の心の内に思われること。
① 考えられること。感じられること。知覚。感覚。→おぼえなし。「寒さで手のおぼえがなくなる」
讚岐典侍(1108頃)上「我は物の覚へ侍らぬぞ。たすけたまへ」
破戒(1906)〈島崎藤村〉一七「半分眠り乍ら寝衣を着更へて、直に復た感覚(オボエ)の無いところへ落ちて行った」
② おそわったり見聞したりしたことを心にとどめること。記憶。また、思い当たる点。心当たり。経験
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「Voboyeno(ヲボエノ) ワルイ
浄瑠璃伊賀越道中双六(1783)六「此印籠はどうやら覚えのある模様
腕前について自信のあること。また、その自信。
※宇治拾遺(1221頃)二「この尻蹴よといはるる相撲は、おぼえある力、こと人よりはすぐれ」

かく【覚】

〘名〙 仏語。
① さとり。また、さとった人。仏。
※東海夜話(1645頃)上「覚に至るを仏になると云ふ也」
② 万有の本体と心の本源とをさとること。本覚、始覚の究竟で、仏の位。〔大乗起信論〕
③ 鼻と舌と体との三つをよりどころにして、その対象を判別する心のはたらき。見聞覚知(けんもんかくち)の覚。
※米沢本沙石集(1283)八「六の用を施時眼に有を見(けん)といい、耳に有を聞(もん)と云、鼻と舌と身に有を覚(カク)と云」
④ 物事の意味などを尋ね求め推しはかること。尋(じん)。〔成実論‐一四〕
⑤ さとりに至るための修行の要素の一つ。
※正法眼蔵(1231‐53)画餠「根・力・覚・道、これ一軸の画なり」 〔智度論‐一一〕

かく‐・す【覚】

〘他サ変〙 さとる。理解する。
※梵舜本沙石集(1283)四「念起らば覚せよ、是を覚すれば則無也」
※花鏡(1424)奥段「師の云と者、此一巻の条々を、能能(よくよく)覚して」

おぼ・う おぼふ【覚】

〘自ハ下二〙 (「おぼゆ(覚)」から転じたもの) 覚える。思われる。感じる。〔文明本節用集(室町中)〕

おぼ・ゆ【覚】

〘自・他ヤ下二〙 ⇒おぼえる(覚)

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デジタル大辞泉 「覚」の意味・読み・例文・類語

かく【覚〔覺〕】[漢字項目]

[音]カク(呉)(漢) [訓]おぼえる さます さめる さとる
学習漢字]4年
外から来るものに触れて意識が起こる。意識。「感覚幻覚錯覚視覚触覚知覚聴覚味覚
今までわからなかった道理や意味に気づく。さとる。「覚悟才覚自覚正覚しょうがく先覚直覚不覚
人に気づかれる。「発覚
眠りから目ざめる。「覚醒かくせい
[名のり]あき・あきら・さだ・さと・さとし・ただ・ただし・よし
[難読]覚束おぼつかない

かく【覚】

仏語。
対象を覚知するもの。心。心所しんじょ
心が妄念を離れている状態。
涅槃ねはんの理を悟ったうえでの智慧。菩提ぼだい
仏陀ぶっだ。覚者。

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改訂新版 世界大百科事典 「覚」の意味・わかりやすい解説

覚 (おぼえ)

文書の一様式。備忘のために記したものはすべて覚・覚書であるが,狭義には,使者または当事者が,相手への要件を表だたずに備要に記せば〈口上覚〉であり,文書にして手渡せば口上書となる。請渡しの品・用件などが簡単であれば覚を必要としないが,数多くあれば個条書き(一つ書)にして,遺漏のないように配慮され,本人が記して託することになる。こうなると,目録のように列挙され,〈已上〉で結ばれ,月日,差出し,充所が具備され,書状形式となる。書状との差異は,冒頭の〈覚〉が記されることである。覚はいつごろから行われたかつまびらかではないが,近世初頭の《細川家史料》には数点見られる。後に〈覚〉が史料として整理されたとき,付箋には〈覚書〉と記されることがある。心覚えが記録として認識されたからであろう。
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デジタル大辞泉プラス 「覚」の解説

覚(さとり)

日本の妖怪。山中に住み、人の心を見透かすことができるとされる。山神の化身との説もある。全国各地に類似の伝承がある。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【サーンキヤ学派】より

…その変容を〈開展(パリナーマpariṇāma)〉という。その結果まず根源的思惟機能ブッディbuddhi(〈覚〉)またはマハットmahat(〈大〉)が現れる。これは確認作用を本質とし,同じく三つの構成要素からなり,身体内部の一つの器官である。…

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