不覚(読み)フカク

デジタル大辞泉 「不覚」の意味・読み・例文・類語

ふ‐かく【不覚】

[名・形動]
心や意識がしっかりしていないこと。思わず知らずそうなること。また、そのさま。「不覚にも涙を流す」「前後不覚
油断して失敗すること。また、そのさま。「不覚一敗を喫す」
覚悟がしっかり決まっていないこと。また、そのさま。
「さては降人に出たる―の人どもが」〈太平記・三八〉
愚かなこと。また、そのさま。
「あら―や。云ひ甲斐なき女房かな」〈沙石集・三〉
[類語](1不慮非業不測はしなくもゆくりなくあいにく折あしく折もあろうにはしなく思わず思わず知らずうっかり知らず知らず無意識ひょっと覚えず我知らず何気無しついついつい我にもなくうかうかうかと不用意不意ふとひょっと思いがけず図らずも図らず無意識的鈍感鈍いうかつ無自覚無感覚無責任無神経不注意散漫ぬかり手落ち手抜かりそつ手抜き遺漏疎漏抜かるノーマーク潜在意識無意予想外意想外ひょんな/(2油断見過ごす見逃す見損なう見失う見落とす見損ずる見忘れる気を抜く不注意不用意すき目を離す目を逸らす失敗失策過失過誤失態粗相しくじり間違いへまどじぽかミスエラー

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「不覚」の意味・読み・例文・類語

ふ‐かく【不覚】

  1. 〘 名詞 〙 ( 形動 )
  2. 心や意識がしっかりしていないこと。正体を失うこと。人事不省に陥ること。また、そのさま。
    1. [初出の実例]「いといみじくふかくにおはしますとて、宰相、声も惜しまず泣きまどひ」(出典:夜の寝覚(1045‐68頃)二)
  3. 油断して失敗を招くこと。不注意なこと。不名誉なあやまちを犯すこと。また、そのさま。
    1. [初出の実例]「ふかくなることにぞ侍らんかし」(出典:和泉式部日記(11C前))
  4. 思わず知らずそうなってしまうこと。また、そのさま。
    1. [初出の実例]「兼ては不礼(おがま)じと思ひつれども不覚に涙落て」(出典今昔物語集(1120頃か)四)
  5. 覚悟がきまっていないこと。臆病なこと。卑怯なこと。また、そのさま。不覚悟。
    1. [初出の実例]「など、右衛門督殿は其頼信を打返して信頼と名乗給ふが、あれ程に不覚(フカク)にみゆるぞ」(出典:金刀比羅本平治(1220頃か)上)
  6. 能力が人並みでないこと。物事道理をわきまえないこと。愚かなこと。
    1. [初出の実例]「不覚の白者(しれもの)かな」(出典:今昔物語集(1120頃か)二八)

おぼえ‐ず【不覚】

  1. 〘 副詞 〙 ( 動詞「おぼえる(覚)」に、打消の助動詞「ず」の付いた「おぼえず」の連用形から ) 自分でしようと思わないで無意識に。知らず知らず。思わず。いつのまにか。
    1. [初出の実例]「暮れかかるむなしき空の秋をみておほえすたまる袖の露かな〈藤原良経〉」(出典:新古今和歌集(1205)秋上・三五八)
    2. 「若き人おほく道のほど打さはぎて、おぼえず彼(かの)(ふもと)に到る」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)雲岸寺)
    3. 「お松は覚(オボ)えず一寸(ちょっと)立ち留まった」(出典:心中(1911)〈森鴎外〉)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の不覚の言及

【本覚思想】より

…しかし,〈さとり〉を体験するのは,本来わが身にさとりがそなわっているからだとして,それを本覚と名づける。本覚,すなわち本来そなえている覚(さとり)に気づかないことを不覚(ふかく)といい,不覚をとりはらうことによって始覚を得られると考えられた。《金剛三昧経》《仁王般若経》に本覚の語がみえ,《大乗起信論》には始覚と本覚との関係が述べられている。…

※「不覚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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