覚束無い(読み)オボツカナイ

デジタル大辞泉 「覚束無い」の意味・読み・例文・類語

おぼつか‐な・い【覚束無い】

[形][文]おぼつかな・し[ク]
物事の成り行きが疑わしい。うまくいきそうもない。「昨年並みの収穫は―・い」「今の成績では合格は―・い」
はっきりしない。あやふやである。「―・い記憶をたどる」
しっかりせず、頼りない。心もとない。「足もとが―・い」「―・い手つき」
はっきり見えないで、ぼんやりとしている。
「門上の楼に、―・いがともって」〈芥川偸盗
ようすがはっきりせず、不安である。気がかりだ。
「―・く思ひつめたること、少しはるかさむ」〈伊勢・九五〉
不審である。おかしい。
「やや久しくものも言はでありければ、人ども―・く思ひけるほどに」〈宇治拾遺・一〉
疎遠で相手のようすがわからない。
「かのわたりには、いと―・くて、秋暮れ果てぬ」〈末摘花
待ち遠しい。もどかしい。
返り事せずは―・かりなむ」〈堤・虫めづる姫君
[派生]おぼつかながる[動ラ五]おぼつかなげ[形動]おぼつかなさ[名]
[類語]考え事思案物思い考え心配気疲れ気苦労心痛心労懸念恐れ憂慮取り越し苦労杞憂悲観恐れる不安危惧きぐ危懼きく疑懼ぎく胸騒ぎ気がかり心がかり不安心心細い心許こころもとない憂い気遣いわずら怖い危なっかしいおののく動揺心騒ぎ煩慮憂惧ゆうぐ憂懼ゆうく憂い事気遣わしい痛心鬼胎ひやひやはらはらどきどきおどおどあぶなあぶな恐る恐るこわごわおっかなびっくりおじおじおずおずびくびくこわがる臆するおびえるびくつくおじるおじける恐怖恐れをなす悪びれる案ずる気が気でないそぞろ足が地につかない気が揉める居ても立ってもいられない矢も楯もたまらない居たたまれない生きた心地もしない気になる気に病む頼り無い

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「覚束無い」の意味・読み・例文・類語

おぼつか‐な・い【覚束ない】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]おぼつかな・し 〘 形容詞ク活用 〙 ( 「おぼ」は、ぼんやりした、不明確な状態を表わす。「覚束」はあて字。古くは「おほつかなし」 ) 対象の様子がはっきりせず、つかみどころのないさまをいい、また、そのためにおこる不安な気持を表わす。
  2. (景色などが)ぼんやりして、はっきりしない。ぼうっとしてよく見えない。
    1. [初出の実例]「今夜(こよひ)の於保束無(オホつかなき)に霍公鳥(ほととぎす)鳴くなる声の音の遙けさ」(出典:万葉集(8C後)一〇・一九五二)
    2. 「夕闇すぎて、おぼつかなき空の気色の曇らはしきに」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蛍)
  3. (対象の様子がはっきりせず)気がかりだ。不安だ。心細い。頼りない。もどかしい。
    1. [初出の実例]「水鳥の鴨の羽色の春山の於保束無(オホつかなく)も思ほゆるかも」(出典:万葉集(8C後)八・一四五一)
    2. 「幼き人々、いかなる目にかあふらむと、思ひやるにもおぼつかなく」(出典:平家物語(13C前)二)
  4. 疑わしい。不審である。また、不確かである。現代では、多く物事がうまくいきそうにない、しっかりしていないの意に用いる。
    1. [初出の実例]「過ぎにし年、月ごろの事もおぼつかなかりければ」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)
    2. 「覚束(オボツカ)ない手振りでシャツの綻を縫合はせてゐた」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二)
    3. 「この分では到底出席覚束(オボツカ)なしと」(出典:園遊会(1902)〈国木田独歩〉一)
  5. 疎遠で相手の様子がわからない。訪れがない。無沙汰である。うとうとしい。
    1. [初出の実例]「それも著(しる)く、その後おぼつかなくて八九日許(ばかり)になりぬ」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
  6. (会わずにいる状態がもどかしく)待ちどおしい。会いたい。
    1. [初出の実例]「やがてもろともに率(ゐ)ていきて、昼のほどのおぼつかなからむことなども、言ひ出でにすべり出でなんは」(出典:枕草子(10C終)六三)

覚束ないの語誌

( 1 )「おぼ」は「おほほし」などの「おほ(おぼ)」で、「つか」は「あはつか」「ふつつか」の「つか」と同じく状態を表わし、「ない」は甚しいの意を表わす。
( 2 )「ない」を打消の助動詞と誤り、「おぼつか」を「おぼつく」という動詞の活用形と考えたための誤用も生じた。尾崎紅葉多情多恨」に「おぼつきそうもない」の例が見え、昭和三〇年代になると中野重治が指摘しているように、「おぼつかぬ」などの形も見られるようになる。

覚束ないの派生語

おぼつかな‐が・る
  1. 〘 他動詞 ラ行五(四) 〙

覚束ないの派生語

おぼつかな‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

覚束ないの派生語

おぼつかな‐さ
  1. 〘 名詞 〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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