浄土宗の特別寺院。栃社山と号し、本尊は法然木像。宗祖法然房源空の生誕地、源空の父漆間時国の邸跡とされる。寺域内外に、誕生椋、片目川、菩提寺ゆかりの樹齢八〇〇年という大イチョウ、源空が故里をあとにしてたどった古道など、源空の伝記や伝承で知られる遺跡が多くある。また
当寺草創についての近世成立の所伝がいくつかある。その一つは元禄八年(一六九五)編の「蓮門精舎旧詞」誕生寺の伝で、そこでは草創について、源空生誕のときの奇瑞の一つ、漆間館西方の椋の大木に白旗二流が降ったことにちなんで、父の時国が椋の近辺に一宇を建立した。これを誕生寺と名付け、館の門前の天台宗浄土院の本尊釈迦如来像を移して本尊としたという。のち源空の浄土宗開宗の承安五年(一一七五)、上人自作の御影像が京都から当寺に送り下され、本堂に安置、前記の釈迦像は別に釈迦堂を建立して移したと伝える。元禄九年当寺住持の通誉連阿筆録の「栃社山浄土院誕生寺略記」(寺蔵)も、これと同様の所伝をのせる。第二の所伝は元禄四年成立の「作陽誌」の所説で、これは承安五年源空開宗の年、故郷に帰った源空が父の墓前にぬかずき、父の遺命に基づいて栃社の地に一宇を建てて栃社山誕生寺と名付け、父の護持した阿弥陀如来像を本尊に、また自作の御影像を寺に安置したことに始まるという。第三の所伝は元禄一六年京都知恩院の僧義山編修の「円光大師行状画図翼賛」の誕生寺の伝で、「何時何人ノ建立と云事、定カナラス、影堂ノ本尊ハ上人四十三歳ノ真形、三尺ノ坐像ノ木像ナルヲ、熊谷入道持参シ奉テ安置スル所、大師御自作ノ尊像ナリト申伝フ」とある。草創の時期を不明としつつも、御影堂本尊の源空像を四三歳の自作像とし、この像を熊谷直実が当地に持参したとする。
国道一二八号の
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
岡山県久米(くめ)郡久米南(くめなん)町にある浄土(じょうど)宗の寺。栃社山(とちこそさん)浄土院と号する。浄土宗祖法然(ほうねん)(源空)の生誕の地に1193年(建久4)弟子の蓮生(れんしょう)(熊谷直実(くまがいなおざね))が創建したと伝える。円光大師(法然)二十五霊場の第一番とされる。のち領主宇喜多直家(うきたなおいえ)は念仏を忌み、日蓮(にちれん)宗徒とともに諸堂を破壊したが、宇喜多氏滅亡ののち住僧深誉(じんよ)らにより、知恩院の援助を受けて再建された。本尊は宗祖影像。境内は広く、御影(みえい)堂(本堂)、山門(以上、国重要文化財)、法然両親の尊廟(そんびょう)や産湯(うぶゆ)の井戸、誕生椋(むく)などがある。4月第3日曜日には法然両親追恩二十五菩薩(ぼさつ)大法要(練供養(ねりくよう))が営まれる。JR津山線誕生寺駅から徒歩10分。
[森 章司]
『高橋良和著『誕生寺』(1977・探究社)』
千葉県鴨川(かもがわ)市にある日蓮(にちれん)宗の寺。小湊山と号する。本尊は十界本尊。日蓮生誕の地に建てられた寺で、日蓮宗霊跡寺院の一つ。1276年(建治2)日蓮在世中、弟子寂日坊日家(じゃくにちぼうにっけ)、興津(おきつ)城主佐久間重貞(さくましげさだ)の外護(げご)により創建。1498年(明応7)津波のため流失し土地は海没(現在地の南西約300メートルの海中、蓮華潭(れんげたん)の地といわれる)、妙(鯛)ノ浦(たいのうら)に移転再建された。一時、不受不施(ふじゅふせ)派に属したが、受不施にかわり、寺領70石を給せられた。1703年(元禄16)ふたたび津波のため流出、徳川光圀(みつくに)の外護により宝永(ほうえい)年間(1704~11)現在地に建設された。その後、火災にあったが再建され、現在に至っている。祖師堂、本堂、竜王堂、誕生堂、太田堂などがあり、4月15、16日に千部読誦会(どくじゅえ)、2月16日に宗祖御降誕会、11月12日に御会式(おえしき)などが行われる。なお、寺の前はタイの群棲(ぐんせい)する鯛ノ浦。
[田村晃祐]
千葉県鴨川市の旧天津小湊(あまつこみなと)町にある日蓮宗の寺。山号は小湊山。1276年(建治2)日蓮の弟子寂月房日家(につけ)が日蓮誕生の地に建立したと伝える。1498年(明応7)地震と津波によって流失したため妙(たえ)の浦(鯛ノ浦)に再建,近世初頭正木頼忠,里見義頼が寺領を寄進しているから,これ以前にかなりの寺院になっていたことが知られる。17世紀初頭,日蓮宗内に不受不施・受不施の論争がおこると,当寺の日運は不受不施を主張して,誕生寺は関東における不受不施派の拠点の一つになったが,1665年(寛文5)日明は武蔵碑文谷(ひもんや)法華寺日禅,同谷中感応寺日誠らとともに幕府によって受不施に改めさせられ,寺領を与えられた。1703年(元禄16)大津波にあったのち,大中院日孝は徳川光圀の支援を得て現在地に移転して堂宇を再建したが,58年(宝暦8)類焼,1842年(天保13)一乗院日闡により巨大な祖師堂が再建された。境内に,日蓮誕生のおりに湧き出たという誕生井戸がある。
執筆者:高木 豊
岡山県久米郡久米南町にある浄土宗の寺。栃社(とちこそ)山浄土院と号し,浄土宗の開祖法然の生誕地に建てたもの。草創に関しては,父の漆間(うるま)時国が館の西の椋(むく)のそばに寺を建て,法然が43歳のとき自作の御影(みえい)を京都より送ったという寺伝があるが,確証はない。しかし,《法然上人絵伝》(知恩院本)に誕生寺の名が出てくるから,同書の成立した14世紀前半ころには建立されていた。法然生誕の聖地として崇敬をうけ,ことに領主原田氏の保護のもとに発展した。日蓮宗に帰依した宇喜多(うきた)直家から改宗を迫られ,1578年(天正6)日蓮宗徒が乱入して堂舎を破壊したが,1600年(慶長5)宇喜多氏の滅亡後,ときの住職深誉(じんよ)は復興にとりかかり,04年津山藩主森忠政から寺領50石の寄進をうけ,以後寺運は隆盛に向かった。法然上人二十五霊場の第1番で,毎年4月19日に法然の父母追恩のため二十五菩薩の練(ねり)供養が行われる。
執筆者:中井 真孝
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