結核はあらゆる臓器に感染して障害を与える全身の疾患です。代表的なものは肺結核です。それは、活動性肺結核の患者さんが
しぶきは結核菌と水分の小さな塊ですが、水分が蒸発すると、結核菌の塊は重さが軽くなり、空気中に長い時間漂い、それだけ感染の機会が増えます。この菌には乾燥に強く紫外線に弱いという特徴がありますが、結核の感染は空気感染がほとんどです。
欧米や以前の日本では不完全な滅菌操作を受けた牛乳から感染(この場合は腸結核などの消化管結核)した
他の感染症と結核とで違っている点は、感染してもすぐに全員が発病するのではないということです。感染した人のうち、発病するのは約10~20%です。発病時期は感染後1年以内が約半分、残りは一生の間にですが、発病しない人も80~90%います。これが、結核の不思議な点でもあり、また、なかなか根絶できない理由でもあります。
空気感染によって、結核菌は気道を通って
肺胞マクロファージがリンパ液の流れに乗って肺門リンパ節に移行すると、そこでも病巣をつくります。これを、肺門リンパ節結核と呼び、また、初期変化群とも呼びます。結核菌の勢いが強いとそのまま発病してしまいます(一次結核症)。
通常はこの段階で生体の
ヒト型
つまり、HIVに感染した人、長期のステロイド治療を受けている人、免疫抑制薬を使っている人(米国では慢性関節リウマチに効果がある抗リウマチ薬を使って結核発病者が出たと報告されている)、コントロール不良の糖尿病の人、血液
発熱、
放置すると、血痰、息切れ、体重の減少も加わります。肺結核症の一型である喉頭・気管支結核では、早期にがんこな咳と
①結核菌の存在証明
基本は、結核菌が実際に病巣部に存在するという証明です。
痰が出ない人の場合は、気管支鏡を用いて得られた気管支肺胞洗浄液(BAL)で塗抹と培養の検査を行います。気管支鏡検査後の痰も検体として使用できます。
陽性に染まれば、極めて感染性の強い結核を発症しているといえますが、後日、非結核性抗酸菌との区別が問題になります。
同じ検体を用いて、結核菌のDNAあるいはRNA遺伝子があるかどうかを遺伝子学的手法で確認します(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR))。この方法は感度がよく、数時間で結果が判明しますが、死んだ結核菌が検体に含まれていても陽性と判定してしまう欠点があります。そこで、生きた菌ならば人工的な培養シャーレで増殖するので、培地に検体を塗りつけます。これを培養検査と呼びます。
この方法で結核菌感染の最終判断をするわけですが、結核菌は極めてゆっくり増殖するので、肉眼でコロニー(菌の塊)が認められるまでに4~5週間必要です。すなわち、迅速診断はできません。
次いで、得られた抗酸菌が結核菌か、それとも
気管支鏡を用いて採取した病巣組織についても、結核菌培養、遺伝子検査を行います。なお、胸水(結核性
②特異的組織像の証明
該当する肺の病巣から気管支鏡を用いて組織を採取して、
③結核感染病巣の画像的証明
胸部X線、CT検査を行います。結核病巣の存在と広がりとを確認します。初感染型では肺野の
④免疫学的証明
結核感染に特有な人体の免疫反応の検査を行います。ツベルクリン反応が陰性から陽性(
そのため、結核の発病者にそれまで接触していた多くの人々に対して、ツベルクリン反応で感染者を判定しようとすると、化学予防者が実際よりも激増する恐れがあります。そこで近年、判定能力がツベルクリン反応をしのぐクウォンチフェロンテスト(QFT)が開発され、日常の診療に導入されました。後述のコラムに詳しく述べますが、感染者の血液を試験管内で結核菌にしか存在しない特異蛋白(ESAT6とCFP10)と作用させて、20時間後にインターフェロン
⑤炎症の程度の把握
赤沈(胸膜炎を合併すると100㎜/1時間以上を示す)、CRP、白血球増多(軽度の場合が多い)が活動性の評価と治療効果判定のひとつとされます。
⑥鑑別疾患
感冒(かぜ)のような症状を示し、胸部X線写真で肺炎に似た陰影や小結節影、空洞性陰影が認められる時は、細菌性肺炎、マイコプラズマ菌などの
日本ではWHOが推奨している強化治療法を行っています。
すなわち、排菌陽性者にはピラジナミド(PZA:殺菌作用、半休止期の菌に効果)にイソニアジド(INH:殺菌作用、増殖する菌に効果)、リファンピシン(RFP:殺菌作用、増殖する菌、半休止期の菌に効果)およびストレプトマイシン(SM:殺菌作用、増殖する菌に効果)またはエタンブトール(EB:静菌作用、増殖する菌に効果)の4種類の抗結核薬を、まず2カ月併用します。
その後4カ月はINH+RFPにEBを加えたり、加えなかったりします。なお、肝機能異常がある人や80歳以上の高齢者では、PZAの副作用として肝炎が出現もしくは悪化しやすいので、使用をひかえます。PZAが使用できない場合や排菌の確認の得られない場合は、INH+RFPに、EBもしくはSMの三者で6カ月治療し、その後3カ月はINH+RFPで治療します。
いずれの治療法でも基礎疾患に糖尿病があったり、粟粒結核の場合は、さらに3~6カ月治療を継続してもよいでしょう。また、じん肺に合併した肺結核感染症は治療抵抗性を示すので、やはり長めに治療します。
内服薬は1日1回の内服でよいですが、INHによる末梢神経障害の予防のため、ビタミンB6製剤を同時に内服します。INHは肝機能異常を生じやすく、さらにSMは腎機能障害や第8
表7に抗結核薬の副作用をあげました。治療開始後1カ月以内に肝機能の血液検査を行い、異常がなければそのまま治療を続け、その後も1カ月に1度は肝機能をチェックします。
近年、抗結核薬の服用が指示されたとおりに実行されているかどうか疑わしい患者さんには、耐性菌の出現を避けるため、医療従事者の目の前で服用してもらう方法が米国から導入されました。これをDOTS(Directory Observed Treat-ment, Short Course:直接監視下短期化学療法)といい、「日本版21世紀型DOTS戦略事業」が都道府県・指定都市で行われ始めています。
DOTSは、RFPおよびINHに耐性を示す多剤耐性結核菌患者の治療にも有効です。幸い日本では、初回治療での多剤耐性結核菌の頻度は1%未満と低いのですが、再治療の患者さんからのそれは20%弱ですので、いかに最初の治療が大切かということがわかります。
なお、結核治療を開始したあとも、3週間は毎週1回、その後月1回は喀痰の検査を行い、結核菌の陰性化を確認します。
身近に結核の患者さんがいた人や、学校、職場、医療機関などで集団感染が発生した場合は、ツベルクリン反応、胸部X線検査、症状、血液検査などを総合して結核感染が濃厚と判断されれば、検体から結核菌の存在を証明できなくても、抗結核薬を予防的に内服します。これを化学予防あるいは予防内服といいます。
通常はINHを6カ月間内服します。29歳以下は感染症法によって公費負担となります。もっとも、結核
抗生剤を内服しているにもかかわらず、2週間以上咳と痰、微熱が続く場合は結核を疑い、最寄りの呼吸器科医のいる病院・診療所ないしは独立行政法人国立病院機構(旧国立結核療養所)を受診します。
生活上は歯ブラシ、手ぬぐいを共有せず、痰が出れば決めておいた容器に捨てます。肺結核は空気感染(
診察を行った医師は種々の検査結果も総合して、受診者を結核発病者と診断した場合、結核予防法に基づき2日以内に最寄りの保健所に届け出ます。
石崎 武志
日本の死亡率第1位は1950(昭和25)年までは結核であり、国民病といわれ、全国に
2007年の結核死亡率は人口10万人当たり1.7人、罹患率は19.8人です。「結核は過去の病気」という認識は誤りであり、注意しなければいけない病気といえます。日本の結核罹患率は、欧米の約5倍も高く、結核はアジア(中国、インドなど)やアフリカ・南米に多い病気といえます。
最近、とくに高齢者の集団感染が多発し、学校や老人介護施設、病院での集団感染など、社会の注目が結核に集まるようになりました。一方、リファンピシンとイソニアジドの効かない多剤耐性結核菌(4~5%)だけでなく、ほとんどの薬の効かない超多剤耐性結核菌(日本では30%)が報告され、治療を困難にしている大きな問題も生じています。抗TNF
結核は1950年代まで毎年50万人近い患者さんがあり、この時代に青春期を送った現在の高齢者は、大部分が若い時に結核に感染しています。感染した人の5~10%が発病し、発病を免れた人でも3分の1以上の人は、結核菌を体のなかに抱えたまま高齢に達しています(図3)。結核菌は体の抵抗力(免疫力)によって抑え込まれ、冬眠状態になっています。
高齢者が、①糖尿病、②エイズ、③抗がん薬・免疫抑制薬・副腎皮質ホルモン薬による治療、④悪性腫瘍、⑤
最近20代を中心に若い世代の結核患者の発生が目立ってきています。結核菌に感染した経験がなく、免疫力をもっていないこと、近代化されたオフィスは気密性が高く、結核菌を含んだ空気が職場内にとどまりやすい(職場での集団感染)ことが原因です。
一方、結核に対する医学教育の不足がいわれており、最近の医師の念頭に肺結核がないことも指摘されています。肺炎を発症した場合、まず結核を考える必要があります。
結核の感染・発病は、肺結核患者が
結核の初期症状でよくみられるのは、咳、痰、発熱、
胸部X線写真では、肺の
胸水が認められることもあり、また、血液中に結核菌が侵入すれば粟粒(ぞくりゅう)結核の病像を示し、ほかの臓器にも結核病巣を作ることが時にあります。より詳しく結核病巣を調べるために、断層撮影とCT撮影が必要です。
結核感染の有無は、ツベルクリン反応検査やQFT検査(後述)により診断します。発赤や硬結がとても大きい場合や
しかし、日本ではほぼ全員が幼少時にBCG接種を受けており、多くの人はツベルクリン反応が陽性を示します(90%以上)。したがって、陽性であっても結核感染の確定診断とはなりません。これを補うため「2段階ツベルクリン検査法」を行います。
最近極めて結核感染に特異的な診断法が開発されました。結核菌に存在しBCG菌に存在しない蛋白を用いたQFT(クォンティフェロン)検査(6歳以上)は、接触者検診や集団感染にツベルクリン反応よりも有用であることが示されています。
一方、ツベルクリン反応が強陽性で、かつ患者との接触歴が明らかな場合は、「感染あり」の確率が非常に高いといえます。
標準的な抗結核薬を表4にまとめました。イソニアジド(イソニコチン酸ヒドラジド:INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)またはストレプトマイシン(SM)、ピラジナミド(PZA)の4種類の抗結核薬を治療開始後2カ月間投与し、その後イソニアジドとリファンピシンを4カ月間投与し、全期間を6カ月で終わらせるものです(図5)。
80歳以上の高齢者や肝機能障害のある人でピラジナミドが使用できない場合は、最初の6カ月はイソニアジドとリファンピシンを使います。
副作用として、イソニアジドによる手足のしびれ(末梢神経障害)、リファンピシンとピラジナミドによる肝機能障害、エタンブトールによる視力低下(視神経障害)、ストレプトマイシンによる聴力障害があります。
最近、薬が効きにくい耐性菌も出現しており、ニューキノロン系薬(抗生物質の一種)やクラリスロマイシンも使われます。ツベルクリン反応が急激に強陽性となった場合は、予防的にイソニアジドを投与することもあります。
日本では2003年から結核予防ワクチンとしてのBCG(東京株)接種は乳幼児の時の1回のみの施行となりました。小児結核(結核性髄膜炎)にはBCGワクチンが有効であることがわかっています。成人でのBCGワクチンの切れ味が弱いことから、現在新しい結核ワクチンが数種開発されつつあります。
新しい化学療法剤も開発中で、近い将来には臨床応用されるでしょう。
また、医療関係者や患者さんの家族は、結核菌を通さないマスク(N95タイプ)を使用して、結核菌を吸い込まないように注意します。
結核専門医のいる病院(とくに国立病院機構の呼吸器専門病院など)を受診し、相談する必要があります。
岡田 全司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
結核菌による肺の感染症。日本では古くは労咳(ろうがい)と呼ばれ,ヨーロッパでも〈白いペスト〉の名で恐れられた。かつて肺結核は結核全体の大部分を占めてはいたが,結核そのものの減少のなかで,呼吸器以外の結核が著しく減少したため,近年,肺結核の占める率は相対的に大きくなり,1994年の結核登録者調査では,結核全体の90%以上となっている。また罹患率,死亡率ともに,第2次大戦直後までは,10歳代後半から30歳代前半にかけて大きなピークがみられたが,近年では,60歳以上で高率となり,老人結核が問題になっている。なお,肺結核の疾病史については〈結核〉の項を参照されたい。
肺結核についての研究は,R.コッホが結核菌を発見する以前に,すでに17~18世紀から始まっていた。たとえば17世紀のオランダの医師F.シルビウスは結核結節について記載しているし,イギリスのベーリーMatthew Baillie(1761-1823)も《人体諸器官の病的解剖学》(1793)において,肺結核について詳細に記載している。19世紀に入り,聴診器を考案したフランスのR.T.H.ラエネクは多数の結核患者の解剖から,肺結核を滲出型と増殖型に分けた(1819)。この考えは今でも失われていない。さらに1865年,フランスのビユマンJean Antoine Villemin(1827-92)は結核患者の喀痰を動物に接種して,肺結核の感染性を初めて立証した。コッホの結核菌発見は,これを実証したものであった。
肺結核の治療法として,イタリアのフォルラニーニCarlo Forlanini(1847-1918)は1882年人工気胸療法を創始した。また95年のレントゲンのX線発見は,肺結核の臨床診断に画期的進歩をもたらした。さらに1908年,パスツール研究所のA.カルメットとC.ゲランは,病原性なしに人体に結核免疫を人工的に与えることのできるBCGの発見に成功し,21年フランスのアレAdrien Hallé(1859-1947)はBCGワクチンを新生児に初めて結核発病予防の目的で接種した。このBCGは25年志賀潔によって日本にもたらされ,昭和の初めのころから今村荒男を中心とする研究が始まった。
この間,肺結核の外科手術として,19世紀末ころからしだいに発達をとげた胸部成形術が隆盛となり,人工気胸療法の隆盛と相呼応して,ともに肺結核治療の主座を占めるようになった。それは有力な肺結核の治療薬が出現しないためでもあった。
しかし,44年に至ってアメリカのS.A.ワクスマンが,土壌の中の放線菌の1種から抗生物質であるストレプトマイシンを発見し,結核化学療法の輝かしい第一歩をふみだした。同年,パラアミノサリチル酸(パス,PAS)が人体に用いられ,46年スウェーデンのO.レーマンによって,その臨床効果が発表された。52年にはイソニアジド(イソニコチン酸ヒドラジド)が有力な抗結核剤として登場した。日本ではこの三つの薬の長期間(2年以上)併用が標準化学療法として行われ,肺切除術の安全性も非常に高まったため,かつて〈気胸と成形〉を主とした肺結核治療は,〈化学療法と肺切除〉を主とした様相を呈するに至り,結核死亡率は著しい減少を示した。その後ピラジナミド,エチオナミド,カナマイシン,エタンブトールなどが相次いで開発され,これに続いて66年,イソニアジドと同等の殺菌力をもったリファンピシンが登場した。このリファンピシンの登場は,これまでの化学療法の限界を打破するきっかけとなった。そしてリファンピシン,ストレプトマイシン,イソニアジドの強化処方の短期間(6ヵ月)投与によって全例結核菌が陰性化し,再発率がわずか2%以下に抑えられるという優れた成績が,イギリスのフォックスW.Foxらによって75年に報告された。これによって肺結核の初回治療例のほとんどが,手術によらず化学療法によって発病1年以内に治すことができるという新しい時代が到来した。コッホが結核菌を発見して以来ほぼ100年で,日本でも1950年代までは広くまん延していた肺結核を制圧することに成功したといえるだろう。
肺結核の起り方に二つの様式がある。
(1)初感染結核症 個体の抵抗力と感染菌量とのかねあいで,初感染にひきつづき病勢が進展する場合をいい,初期結核症ともいう。家族内感染のような乳幼児の濃厚感染例に多くみられる。肺門リンパ節結核は一つの病型で,肺門リンパ節が腫大して起こる。自覚症状は軽く,ほとんど無自覚のこともある。大多数は治癒するが,なかには結核性胸膜炎,血行性結核または肺結核へ進展するものもある。結核菌が血流中に入ると,粟粒(ぞくりゆう)結核や結核性髄膜炎を起こす危険が高い。
(2)慢性肺結核症 初感染がいったん治まったのち,数年ないし数十年後に再び発病する場合をいい,既感染発病とも呼ばれる。初感染後病巣内に生き残っていた結核菌により再燃するもので,成人層の発病はほとんどが既感染発病である。再燃の原因として,(1)過労,(2)低栄養(胃・十二指腸潰瘍の手術後など),(3)高齢,(4)副腎皮質ホルモン,抗癌剤などの免疫抑制薬投与,(5)糖尿病,塵肺(じんぱい),慢性腎不全の血液透析などがあげられ,抵抗力が低下するような条件があると発病しやすい。
既感染発病は肺上葉の肺尖部や下葉の上部に好発する。肺の乾酪巣が融解して空洞形成が起こると,結核菌を多く含んだ空洞内容物(咳で排出されると痰となる)が気管支を経由して広がり,新しい病巣をつくる。初期感染発病と同様に,結核性肺炎,胸膜炎および膿胸,粟粒肺結核なども起こりうる。
肺結核の症状は少なく,本人が病気であることに気がつきにくい。診断が確定してからさかのぼって調べてみると,多くの場合,なんとなく疲れやすかったということが非常に多い。自覚症状として,全身倦怠感,食欲不振,微熱,寝汗,やせ(体重減少)がみられ,呼吸器症状として,持続性の咳,痰が主であって,ときに血痰,喀血をみることがある。胸膜に病変が及ぶと胸痛が自覚される。結核という病気は,従来は軽いうちは自分で気がつきにくいため,早期発見には定期的な検診が必要とされていた。しかし今日では,患者の早期発見にはこれらの症状が現れたときに受診することがたいせつであるとされている。
胸部X線検査,ツベルクリン反応検査,結核菌検査などが行われる。
(1)胸部X線検査 肺は空気含量の多い臓器なので,そこに発生した病変はかなり小さいものでも,普通のX線検査で発見することができる。したがってX線検査が結核診断の第一の手がかりとなる。側面撮影,断層撮影は病巣の位置や性状を詳しく分析するのに役立つ。結核の特徴として,好発部位が後上方であるほかに,しばしば空洞を伴い,おもな病巣の周辺に散布をみることや,石灰化巣を伴うことも多い。慢性になると新旧種々の病変が混在し,古い病巣は収縮傾向が著しい。
(2)ツベルクリン反応検査 胸部X線所見で結核が疑われた場合に,次に行うべき検査はツベルクリン反応と結核菌検査である。ツベルクリン反応は,もし陰性か疑陽性なら結核を否定する有力な根拠となる。一方,ツベルクリン反応が陽性であったとしても,結核という病気の診断を支持するものではない。その理由は,中高年層では過去の結核感染により,また若年層ではBCG接種の普及によって,ほぼ80%がツベルクリン反応陽性となっているからである。ただ青少年層では,初感染後あまり長期間たたずに発病するものが多いので,ツベルクリン反応が強陽性に出ているときには,結核診断を支える一つの根拠となる。
(3)結核菌検査 胸部X線検査は非常に鋭敏に異常を発見することのできる手段であるが,特異的な検査法ではない。細菌検査で結核菌を証明しないかぎり,結核という病気の診断をつけることができない。結核菌検査は鋭敏度では胸部X線検査に劣るとしても,特異性の高い検査である。X線検査で異常影がみられた場合に,結核菌検査は必ず行われなければならない。検査材料としては,なるべく痰を用いる。痰がどうしてもとれない場合には,喉頭粘液か胃液を材料にして検査を行う。痰を材料に用いるときには塗抹標本にしたり培養を行い,喉頭粘液,胃液については培養を行う。塗抹標本で結核菌が見つかったとき塗抹陽性というが,これは排菌量が多いことを示し,他人への感染源として最も危険であることを意味する。培養陽性のときには耐性検査を実施し,治療方針を決める参考とする。
(4)その他の検査 赤沈検査は病状経過をみる参考となる。
最も問題になるのは,肺炎や肺癌との鑑別である。肺炎の場合には,結核に比べて病状が短期間に変化するので鑑別ができるが,痰の細菌検査は必ず行っておかねばならない。肺癌の場合には,結核と同じようにあらゆる型のX線写真像を示しうるので,40歳以上になって新たに病巣が発見された場合には肺癌を疑い,痰の結核菌検査と細胞診,必要によっては気管支鏡を用いて得られた擦過物の結核菌塗抹標本の検鏡,培養と細胞診,ツベルクリン反応を行わなければならない。
肺結核の予後は病状と治療によって大きく左右される。化学療法のない時代の結核の予後は悪く,痰の塗抹標本で結核菌陽性の患者は2年間でほぼ1/2が死亡し,1/4が慢性化し,1/4が自然に治癒していた。ところが,化学療法が出現し,薬の処方が強化されるにともなって,肺結核の大半が治るようになった。
しかし最近の結核死亡例を分析すると,発見時すでに重症で1年以内に死亡する場合,結核菌に薬剤耐性ができて慢性の経過をとって死亡する場合,結核は活動性でなくなったが心肺機能不全で死亡する場合に分けられ,その割合はほぼ1対1対2である。したがって,肺結核の予後は必ずしも非常によくなっているとはいえない。予後を向上させるためには,早期発見と適切な処方,それに確実な服薬がたいせつである。
肺結核の治療には化学療法,外科療法などがある。
(1)化学療法 肺結核は初回治療で確実に治すことがたいせつである。このためには適切な処方を選び,患者に確実に服薬させなければならない。現在ある12の抗結核薬中,治療の主軸となるのは殺菌性の最も強力なイソニアジドisoniazid(INHと略記)とリファンピシンrifampycin(RFPと略記)である。塗抹陽性または空洞のある患者ではINHとRFPに当初6ヵ月はストレプトマイシンstreptomycin(SMと略記)(初め2~3ヵ月は毎日,その後は週2回)かエタンブトールethambutol(EBと略記)を併用し,その後はINHとRFPのみとして,全体の治療期間9~12ヵ月で治療を終了するのが標準処方である。塗抹陰性で空洞のない患者では,初めからINHとRFPの2者併用で,治療期間は6~9ヵ月とする。上記の処方中の抗結核薬のいずれかに耐性が生じたり,副作用で使えないときには,その薬に代えて他の薬を用いることになるが,効果と副作用からみて用いやすいのはカナマイシンkanamycin(KMと略記),エチオナミドethionamide(THと略記)などである。ピラジナミドpyrazinamide(PZAと略記)は欧米では高く評価され,短期化学療法の当初2ヵ月くらい用いられているが,副作用が強く日本では多くは使われていない。
副作用のおもなものは,マイシン系薬剤による聴力障害,硫酸ストレプトマイシンによる平衡障害,TH・PZA・RFPの肝臓障害,EBの視力障害,サイクロセリンcycloserine(CSと略記)・THの精神障害,INH・EBの末梢神経炎,TH・パスによる胃腸障害,各種薬剤に対するアレルギー反応などである。これらの副作用については,定期的検査と患者からの申出によって早期に発見し,服薬を中止して他剤に変更したり,減感作療法を行うなどの対策を講じなければならない。
(2)外科療法 化学療法の進歩に伴って,肺結核に際しての手術の必要性は,以前に比べてかなり少なくなってきている。しかし,化学療法を行ったにもかかわらず排菌が続く場合は絶対的に必要になる。手術に際しては,術後の肺機能を十分に保つように配慮することが必要である。
(3)生活指導 化学療法が有効に行われているときには,あまり厳重な生活規制は必要ではない。塗抹陽性時には短期間入院を要するが,排菌陰性後は外来で治療する。また喀血,血痰,発熱などの著しい症状がある間は安静が必要である。食事についても体重減少の著しい例を除いては,特別な配慮は必要としない。なお,医療費については公費負担制度があるので,医師としてはこれを活用して,患者が安心して治療を受けられるように配慮することがたいせつである。
→ツベルクリン反応 →BCG
執筆者:三上 理一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
結核菌の感染による肺の伝染性疾患。
[編集部]
…したがって気道を通して外界と交通のある肺の病変で最も多く認められるもので,主として肺疾患のときに好んで用いられる言葉である。最も多い疾患は肺結核に際して生じる結核性空洞cavity tuberculousで,中心の乾酪壊死物質は一部は吸収されるが,大部分は気道を通じて咳や痰とともに放出されて中空をつくる。空洞の壁は結核特有の肉芽腫性炎症組織で厚く囲まれ,胸部レントゲン写真で明りょうに写し出される。…
… 結核菌の感染を受けてできた上記の小さな肺の病変は,大部分は石灰がたまって治るが,一部の人では1年後,2年後,あるいは10年以上たってから発病する。最近では初感染発病は減少し,既感染発病が目だっており,また結核のなかでは肺結核が大多数を占めている。結核の広がり方には管内性転移,血行性転移,リンパ行性転移の三つの経路がある(なお転移metastasisとは,病原体や癌細胞などがある場所から離れた別の場所に移行し,そこに原発巣と同じ病変を起こすことをいう)。…
…換気分布も同じ方向の差があるが,血流の上下差のほうが大きいため,換気と血流の比(換気血流比)は,肺尖で大きく,その結果肺胞気酸素分圧は高く,肺下部ではいずれの値も小さくなる。肺結核はヒトでは肺尖に多く,ウシでは背部に多いといわれるが,いずれも換気血流比の大きい場所にあたるという人がいる。血流分布の変化として,肺鬱血(うつけつ)の場合,肺尖で血流が増加し,肺下部で減少する。…
※「肺結核」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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