加水分解(読み)カスイブンカイ

デジタル大辞泉 「加水分解」の意味・読み・例文・類語

かすい‐ぶんかい【加水分解】

[名](スル)化合物に水が作用して起こる分解反応。えんを水に溶かすと塩基に分解する反応があり、加水解離ともいう。有機化合物ではエステルたんぱく質などが水と反応して酸とアルコールや、アミノ酸などができる反応などがある。水解。
[類語]反応化学反応連鎖反応化学変化化成化合合成光合成腐食漂白分解感光解毒核融合核分裂核爆発

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精選版 日本国語大辞典 「加水分解」の意味・読み・例文・類語

かすい‐ぶんかい【加水分解】

  1. 〘 名詞 〙 水による化合物の分解反応。水解。
  2. 無機塩類が、水の作用によって酸と塩基に分解する反応。水素イオン、または水酸イオンを生じて、溶液は酸性、またはアルカリ性を示す。加水解離。〔現代大辞典(1922)〕
  3. 有機化合物が水と反応して分解すること。エステルの鹸化(けんか)、蔗糖(しょとう)の転化、でんぷんやセルロースの糖化など。

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改訂新版 世界大百科事典 「加水分解」の意味・わかりやすい解説

加水分解 (かすいぶんかい)
hydrolysis

水による分解反応を広く加水分解といい,酢酸ナトリウムのような塩(えん)の加水分解,酢酸エチルのようなエステルの加水分解,デンプンやタンパク質の加水分解など,化学反応には加水分解の例が多い。強酸と強塩基との中和によりできた塩,たとえば食塩は,水に溶かすとナトリウムイオンと塩素イオンに電離するだけであるが,酢酸ナトリウムや炭酸ナトリウムのように弱酸と強塩基からできた塩,塩化アンモニウム硫酸アルミニウムのような強酸と弱塩基からできた塩,さらに酢酸アンモニウムのように弱酸と弱塩基からできた塩は,それを水に溶かすと加水分解が起こる。酢酸ナトリウムCH3COONaは水溶液中で解離してCH3COO⁻とNa⁺になり,CH3COO⁻の一部は水と反応して酢酸分子CH3COOHとOH⁻を生ずる。

 CH3COO⁻+H2O⇄CH3COOH+OH⁻

このOH⁻のため酢酸ナトリウムの水溶液はアルカリ性を示す。この化学平衡に質量作用の法則をあてはめると,と書け,Kh加水分解定数である。なお[H2O]は一定とみなされるので除いてある。一方,塩化アンモニウムNH4Clの水溶液は加水分解でできたH3O⁺のため酸性を呈する。

 NH4Cl─→NH4⁺+Cl⁻,NH4⁺+H2O⇄NH3+H3O⁺

 エステル,たとえば酢酸エチルCH3COOC2H5は水に溶けにくいが,少量の希硫酸を加えて熱すると水素イオンが触媒として働き,水と反応して酢酸とエチルアルコールに分解する。

 CH3COOC2H5+H2O⇄CH3COOH+C2H5OH

 デンプンも水素イオンの触媒作用で加水分解を受け,最終的にはブドウ糖になる。タンパク質は分子量のきわめて大きな化合物であるが,加水分解により分子量の小さな化合物に変わり,最終的にはアミノ酸になる。食物が消化器中で消化されるのも加水分解反応であり,デンプンはアミラーゼの触媒作用で加水分解を受けて麦芽糖に,さらにマルターゼの作用でブドウ糖になる。脂肪はリパーゼの作用で加水分解され,タンパク質はペプシントリプシンの作用で加水分解される。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「加水分解」の意味・わかりやすい解説

加水分解
かすいぶんかい
hydrolysis

水溶液中の溶質が水分子と反応しておこす分解反応をいい水解ともいう。水に限らず、溶液中で溶質と溶媒分子とでおこる分解反応は加溶媒分解ソルボリシスsolvolysisという。

 弱酸HAと強塩基MOHの塩MAの水溶液ではA-イオン(陰イオン)が、一部水分子と反応して水酸化物イオンを生じ(式1)、また強酸HXと弱塩基BOHの塩BXの場合は、B+イオン(陽イオン)が反応して水素イオンを生ずる(式2)。


これらの平衡を加水分解平衡といい、MA塩の溶液は塩基性、BX塩の溶液は酸性を呈する。Al3+、Fe3+などの多価金属イオンの強酸塩を水に溶かすと、これらの金属イオンは加水分解を受ける。


加水分解が進行すると水酸化物になり、コロイド化したり、沈殿になったりする。


 脂肪、エステル、酸アミド、タンパク質、ペプチド、糖などの有機化合物も加水分解を受けるが、一般に水分子がHとOHに分かれる複分解反応の形式をとる。エステルの加水分解を例にとると、

となるが、反応速度は比較的遅く、酸や塩基が触媒となることが多い。有機合成や工業化学におけるとともに、生化学においても加水分解酵素が触媒となる重要な反応が知られている。

[岩本振武]

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化学辞典 第2版 「加水分解」の解説

加水分解
カスイブンカイ
hydrolysis

】金属イオンあるいは有機塩などと水との酸塩基反応をいう.一般に可逆的であり,次のような例がある.

  [Al(H2O)6]3+ + H2O [Al(H2O)5OH]2+ + H3O  

  CH3COO + H2O CH3COOH + OH

】エステル,アミド,ニトリルなどでC-O結合やC-N結合が開裂し,両成分にそれぞれHとOHあるいは H2 とOが付加した形の生成物を与える反応をいう.次のような例がある.

  RCOOR′ + H2O → RCOOH + R′OH

  RCONHR′ + H2O → RCOOH + R′NH2

  RCN + 2H2O → RCOOH + NH3

加水分解反応は,酸,塩基,酵素によって促進される.工業的にも,油脂からの脂肪酸グリセリンの製造,デンプンからのグルコースの製造など重要な反応がある.

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百科事典マイペディア 「加水分解」の意味・わかりやすい解説

加水分解【かすいぶんかい】

水分子が付加するかたちで起こる分解反応。塩(えん)の場合には,その塩を構成する成分イオンが水溶液中で水と反応して他のイオンまたは分子となる。たとえば弱酸と強塩基との塩である酢酸ナトリウムを水に溶かすと,電離し,水と反応しアルカリ性を示す。強酸と弱塩基との塩である硫酸アルミニウムなどの場合には同じような反応により水溶液は酸性を示す。 有機化合物では,脂肪,酸塩化物,酸アミド,エステル,タンパク質,ペプチド,デンプン,セルロースなどが,水の作用により,あるいは酵素や強酸またはアルカリの働きが加わって,加水分解することが知られている。特にエステルの加水分解はケン化,ショ糖の場合には転化,デンプンやセルロースの場合には糖化ということがある。
→関連項目ATP加水分解酵素カリセッケン(石鹸)シリコーンゴム

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栄養・生化学辞典 「加水分解」の解説

加水分解

 水解ともいう.1分子の化合物に1分子の水が反応して2分子の化合物を生成する反応.高分子化合物の場合は,相当する1個所の結合についていう.環状化合物の場合は2分子にならず,2個所の末端が生成する.例えば,CH3COOC2H5+H2O→CH3COOH+C2H5OH(エステルの加水分解),CH3CONH2+H2O→CH3COOH+NH3(酸アミドの加水分解),H2NCHRCONHCHRCOOH+H2O→H2NCHRCOOH+H2NCHRCOOH(ペプチドの加水分解).C12H22O11+H2O→2C6H12O6(グリコシド結合の加水分解).

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「加水分解」の意味・わかりやすい解説

加水分解
かすいぶんかい
hydrolysis

水の作用により分子が分解する反応。弱酸と強塩基または強酸と弱塩基から成る塩は,水によりもとの酸と塩基に分解する。有機化合物の場合は構成成分に分解したり,分子の形式が変化することがあり,特有の名称で呼ばれることがある。たとえばエステルの加水分解は鹸化と呼ばれ,酸とアルコールが生じる。ショ糖の加水分解は転化と呼ばれ,グルコースと果糖が生じる。また蛋白質を加水分解するとペプチド結合が開裂し,アミノ酸が生じる。

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岩石学辞典 「加水分解」の解説

加水分解

水溶液中で塩の成分イオンが水と反応して,それを構成する酸または塩基に分解する作用[長倉ほか : 1998,片山ほか : 1970].風化作用によって水酸化物が形成される作用[Hatch & Rastall : 1938].

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