デジタル大辞泉 「獣」の意味・読み・例文・類語
け‐だ‐もの【▽獣】
1 全身に毛が生え、4足で歩く哺乳動物。けもの。
2 人間としての情味のない人をののしり卑しんでいう語。
[類語]獣・獣類・野獣・動物・
( ①について ) 古代、「しし」は肉を意味する語であったが、また肉を食べることのできる動物一般を「しし」と呼んだと思われる。特に、狩りの対象の中心であった鹿や猪が「しし」と呼ばれ、「万葉集」では「鹿」を「しし」と訓むことも多い。「鹿」は単独で「か」と呼び、「か」という動物の「しし」ということで「かのしし」が成立し、鹿の肉を指したが、後に鹿自体を指すようになった。「猪」も単独で「ゐ」と呼び、「ゐのしし」という語が成立し、肉から猪自体を指すようになっている。「かもしか」も上代では「かましし」と呼ばれ、「しし」の一種と考えられていた。
( 1 )同様の意味を表わすケモノの形と平安時代初期以来今日に至るまで共存している。共存の理由も含めて両者の意味の相違はよく解明されていない。
( 2 )語源は「毛ダ物」であろうが、連体格表示に用いられる助詞ダについてはクダモノのほかは例を見ない。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
毛物の意味で《和名抄》は毛皮ある動物の総称とし,そのうち家畜を〈けだもの〉としており,《伊呂波字類抄》《和漢三才図会》もこれにならっている。これに対して《和訓栞》は,獣類の総称を〈けだもの〉,家畜を〈けもの〉という俗言のほうが,《日本書紀》の訓のとおりであるから,このほうがむしろ当たっていると論じ,結局両者同じものを指すとした。《古事記伝》も同じ結論をとっている。この点で《大祓詞》に家畜を殺すことを〈けものたおしの罪〉と述べていることは,これが家畜をとくに指すことばであった証例のように思われ,〈けだもの〉のほうを野獣までを含めた四つ足の毛皮獣の総称とする《和訓栞》の説が適当なものと判断される。古代には野獣を捕殺することは罪ではなかったからである。また,人非人をののしる場合に〈けだもの奴〉などといって,〈けものめ〉といわないのも,語調もあろうが人の霊魂が生まれ変わる場合もあるという家畜よりも,野獣を一段低くみていたあらわれではなかろうか。
執筆者:千葉 徳爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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