掏摸(読み)スリ

デジタル大辞泉 「掏摸」の意味・読み・例文・類語

すり【掏摸/掏児】

他人が身につけている金品を、その人に気づかれないように、すばやく盗み取ること。また、その者。ちぼ。きんちゃくきり。
[類語]泥棒盗人盗賊強盗追い剝ぎこそ泥ギャング辻強盗物取り夜盗空き巣空き巣狙い板の間稼ぎ枕探し護摩の灰車上荒らし火事場泥棒かっぱらい巾着切り箱師万引き置き引き引ったくり

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精選版 日本国語大辞典 「掏摸」の意味・読み・例文・類語

すり【掏摸・掏児】

  1. 〘 名詞 〙 ( 動詞「する(掏)」の連用形名詞化 ) 盗人。特に往来車中などで、人ごみにまぎれたりすれちがいざまに、他人の懐中などから気づかれないように財布、貴重品などを抜き取ったり切り取ったりすること。また、そのようなことをする盗人。巾着切り。とうぼ。ちぼ。
    1. [初出の実例]「正午天晴、盗人すり十人、又一人者釜にて煮らる」(出典:言経卿記‐文祿三年(1594)八月二四日)
    2. 「一漢眼光鷹の如く面撈児(〈注〉スリ)に似たり」(出典:東京新繁昌記(1874‐76)〈服部誠一〉三)

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改訂新版 世界大百科事典 「掏摸」の意味・わかりやすい解説

掏摸 (すり)

窃盗の一種。往来,車中などの混雑した場所で,他人の懐中物などを盗みとること,およびその盗みを行う者。〈きんちゃく切り〉〈ちぼ〉などとも呼ぶ。〈すり〉は〈摩(すり)〉で,体をすりつけるように寄せて盗む意などといい,〈掏摸(とうぼ)〉は手さぐりで物をさがし取る意で,中国の刑法典にこの種の盗人の呼称として用いられていた。〈すり〉の語は室町末ころから現れ,《日葡辞書》にも〈suri〉と見えるが,初めはより広い範囲の盗人をさしていた。江村専斎(えむらせんさい)は1568年(永禄11),4歳のとき乳母に抱かれて能見物をした際の思い出を語り,〈其比はぬすびとの刀,かうがい,小刀抔を抜取ことをしたり,是故に盗人をぬきと云し。今のすりと云が如し〉といっている。江戸期のすりの名人としては,元禄・宝永(1688-1711)ごろの〈坊主小兵衛〉,天保・弘化(1830-48)ごろの〈髪結の助〉その他の名が伝えられており,しだいに親分子分の組織が形成されていった。技術的には関西は刃物でたもとを切って盗むことが多く,関東では刃物の使用を軽べつして,指先の技術の精妙を誇ったという。幕府はすりを〈軽き盗〉〈小盗〉などと呼び,通常は敲(たたき)の刑に処したが,盗んだ額が10両以上の場合は死罪を行った。明治になって〈仕立屋銀次〉などの大親分が出現した。彼は1909年に逮捕されるまでは東京下谷に邸宅を構え,専用の人力車と車夫をもち,自宅近くに60戸もの家を建てて子分たちを住まわせていた。その家にはしばしば刑事たちがごきげん伺に出入りし,そのたびに銀次はかならず10円札2枚ずつを与えていたという。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「掏摸」の意味・わかりやすい解説

掏摸
すり

人込み,往来,乗物の中で,相手の心理作用を巧みに利用し,金品をかすめ取る窃盗行為,またはその行為者。ちぼ,ちゃりんこ,とうも,もさ,巾着切り,ぱんさなど俗称の異名が多くある。乗物を利用して盗みを働く者を「箱師」,それ以外は「平場師」という。祭礼縁日で犯行を行うものを「たかまち師」,映画館,劇場をかせぎ場所にするものを「どうかつ師」「しごろ」「かぶり」という。おもな手口は,抜取り (人差指中指を使う) ,断ち切り (刃物を使う) ,鞄師 (チャック尾錠をはずす) などがある。

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百科事典マイペディア 「掏摸」の意味・わかりやすい解説

掏摸【すり】

掏児とも書き,巾着切(きんちゃくきり),〈ちぼ〉ともいう。往来や車中などで,他人の金品をかすめとること,およびそれを行う者。その手口として手先だけでとる抜取(ぬきとり),刃物を使う断切(たちきり),かばんなどの中の物をとる鞄師(かばんし)などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の掏摸の言及

【すり(掏摸)】より

…〈きんちゃく切り〉〈ちぼ〉などとも呼ぶ。〈すり〉は〈摩(すり)〉で,体をすりつけるように寄せて盗む意などといい,〈掏摸(とうぼ)〉は手さぐりで物をさがし取る意で,中国の刑法典にこの種の盗人の呼称として用いられていた。〈すり〉の語は室町末ころから現れ,《日葡辞書》にも〈suri〉と見えるが,初めはより広い範囲の盗人をさしていた。…

【盗み】より

…〈手元の盗〉は知人宅,旅籠屋(はたごや)等で手元にある品を,ふと出来心で盗んだもので,盗品の額により10両以上は死罪,10両以下は入墨敲(五十敲)の刑が科せられた。〈軽き盗〉とは〈往来通り懸りの盗〉に適用されるもので,これには家の前,縁先などに出ているもの,物干竿に掛けてある衣類等を盗む場合のほか,〈途中にての小盗〉すなわちすりが含まれ,風呂屋で他人の衣類と着替えて帰る〈湯屋の盗〉とともに,最も軽い敲刑(ただし10両以上の場合は死罪)に処せられた。なお窃盗犯の累犯体系は,他の犯罪の場合と異なる独特のもので,敲刑を受けたものは再犯で入墨刑,入墨刑のものが次に盗みを犯したときは死罪となる定めであった。…

※「掏摸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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