イギリスの劇作家。また社会批評家として長い生涯にわたって警世の言を吐き続けた。7月26日、ダブリンに生まれる。20歳のころロンドンに出、会社員としての実務のかたわら5編の小説を書いたが、成功しなかった。経済、政治、社会問題に興味をもち、1884年設立されたフェビアン協会の一員となり、現実的な社会主義者として実践し、論じ続けた。そのころ演説の練習をしたのが、雄弁家ショーをつくるとともに、劇作家ショーの基礎準備ともなった。
1885年、ウィリアム・アーチャーの紹介によって、新聞、雑誌に書評、美術批評、音楽批評を書き始め、やがて『土曜評論』の劇評家として活躍した(1895~1898)。それはイギリス写実主義近代劇の胎動期で、彼は、当時の俳優専横の商業主義劇界に、虚飾の演劇に挑戦する「戯曲」の闘士として、また社会問題の提起者として登場し、まず『イプセン主義真髄』(1891)を書き、同年創立されてイプセンの『幽霊』を上演した独立劇場で、劇『男やもめの家』(1892)を発表した。貧民窟(くつ)で身を肥やす中産階級の実態を暴いたものだが、その後、戦争のロマンスを幻滅させ、「英雄」の正体を描いた『武器と人』(1894)、『運命の人』(1895)、『悪魔の弟子』(1897)、『シーザーとクレオパトラ』(1898)や、売春問題を扱った『ウォレン夫人の職業』(1893作、1902初演)、結婚と愛を扱った『キャンディダ』(1894)、資本主義経済の機構と宗教を論じた『バーバラ少佐』(1905)、政治を問題にした『ジョン・ブルの他の島』(1904)、『失恋の家』(1913~1916作、1920初演)、『御破算』(原題『アッピル・カート』1929)、政治と宗教を扱った『アンドロクレスと獅子(しし)』(1912)、『聖女ジョーン』(1923)などで、世間の常識を破り、俗説をつき、問題を提示したが、彼の哲学をもっともよく表したのは『人と超人』(1903)であろう。人間は、宇宙の「生命力」の働きを認識し、「創造的進化」に添うべきだとするその説は、さらに『メトセラへ帰れ』(1921)でも取り上げられている。それらの作品は、人にものを考えさせる喜劇であり、議論劇が多いが、鋭い喜劇感覚にあふれ、機知縦横で、その戯曲のことばはきわめて優れている。『失恋の家』は原子爆弾を予見するかのようで、以後の作品はやや象徴的で実験的な手法をとり、晩年の作品には奇想風のものが多かった。
劇作家、批評家、警世家としての彼への世評は極端に分かれた。ショーは結局宣伝家であり、「破壊的批評家」であって、彼の劇中人物は彼の代弁者にすぎない、という人もある。が、彼の問題劇は、その主張が認められて問題が過去のものになったあとも、舞台的生命があるのは、彼が単なる宣伝家でない証拠である。『聖女ジョーン』などは史劇として、舞台劇として至上のものであろう。そのほか映画として成功した作品も多く、その一つ『ピグマリオン』(1913)は、ミュージカル『マイ・フェア・レディ』となって世界中に流布した。もっともショーがこれを喜ぶかどうかは疑わしい。彼の思考や言辞はつねに逆説に満ちていた。いずれにしても、散文劇作家としてイギリス第一の位置は動かぬところであろう。1925年ノーベル文学賞受賞。1950年11月2日没。
[菅 泰男]
『中川龍一他訳『バーナード・ショー名作集』(1966・白水社)』▽『小津次郎訳『世界文学大系90 ウォレン夫人の職業』(1965・筑摩書房)』▽『ウォード著、菅泰男訳『ショウ』(1956・研究社出版)』▽『コリン・ウィルソン著、中村保男訳『バーナード・ショー』(1972・新潮社)』▽『大河内俊雄著『バーナード・ショーの劇』(1973・学書房出版)』
イギリスの物理学者、気象学者。バーミンガムに生まれる。ケンブリッジ大学で物理学者マクスウェルの教えを受けた。1887年同大学の講師となる。1897年イギリス気象局に入り、1905年スコット(1833―1916)R.H.Scottの後を受け同局局長となった。局長の時代に若手の学者を同局に集め、沈滞していたイギリスの気象事業を改革し、気象学の研究を飛躍的に発展させた。たとえば局長就任後1年にしてレンプフェールドR.G.K.Lempfert(1875―1957)とともに発表した論文「地上気流の来歴」は気団論の先駆けとなった。1920年局長を退任し、イギリスで最初の気象学講座をロンドン大学で開いた(1920~1924)。短期間ではあったが藤原咲平(さくへい)はそこで教えを受け、彼の斡旋(あっせん)でイギリスの気象学雑誌に論文を発表している。1907~1923年には国際気象機関IMO(現在の世界気象機関WMOの前身)の会頭を務め、1915年にはサーの爵位を贈られた。物理学者としては電気分解、高温計の研究があるが、気象学の分野では『天気予報』(1923)、『空気とその流れ』(1923)、『大都市における煙』(1925)、『気象学便覧』Manual of Meteorology(全4冊・1926~1931)などの著作がある。1954年には生誕100年を記念して、ネイピア・ショー記念賞が英国気象協会Royal Meteorological Societyに設けられた。
[根本順吉]
アメリカの劇作家、小説家。2月27日ニューヨーク市に生まれる。ブルックリン・カレッジ在学中から劇作を始め、反戦劇『死者を葬れ』(1936)、独裁制の脅威を警告する『良家の人々』(1939)ほか数編の作品によって、社会派の劇作家として認められるようになった。最初の長編小説『若き獅子(しし)たち』(1948)は、敵味方に分かれて殺し合うしかない3人の若い兵士の運命をたどる劇的構成で、第二次世界大戦の戦争体験が生んだ重要作品の一つとして評価される。以後、小説作品は、左翼思想の持ち主であるとして非難されマッカーシズムの圧力に苦しむラジオ声優を扱った『騒然たる放送界』(1951)、中年女性のロマンス『ルーシー・クラウン』(1956/邦訳名『湖畔の情事』)、中年男の悲哀をつづる回想記『夏の日の声』(1965)、話題作『リッチマン・プアマン』(1970/邦訳名『富めるもの貧しきもの』)などのほかに、数冊の短編集がある。
[齊藤忠利]
『佐伯彰一訳『湖畔の情事』(1959・三笠書房)』
アメリカの指揮者。ポモナ大学で学ぶ。初め合唱指揮者として奇才を発揮、1942~45年バークシャー音楽センター、46~50年ジュリアード音楽学校合唱団の指揮者を務め、その間48年に31人編成のロバート・ショー合唱団を創設、世界的に有名な職業合唱団に育てた。53年以後はオーケストラ指揮者としても活動を始め、アメリカ各地のオーケストラに客演、67年以来アトランタ交響楽団音楽監督。レコード録音も多く、バルトークのカンタータなどを収めた最新作は99年のグラミー賞最優秀クラシックアルバムの候補にあがった。合唱では短期間に効果的な訓練を施す手腕の持ち主だったショーも、オーケストラではそれに匹敵する実績をあげ得なかった。
[岩井宏之]
イギリスの建築家。エジンバラ生まれ。ロンドンの王立アカデミーで学んだのち、ストリート建築事務所に入り、実務経験を積んだ。独立後は多方面にわたる仕事を残したが、当時の流行であった華麗なゴシック復興に対して、むしろ簡潔なアン女王様式を主唱したことで知られる。ニュージーランド館(1872)、旧スワン邸(1876)が代表作。意外なものではニュー・スコットランド・ヤード(1890)もショーの作例の一つ。アーツ・アンド・クラフツ運動のなかで果たした役割も注目されつつあり、19世紀後半の代表的な建築家として、近年その評価はひときわ高い。ロンドンで没。
[宝木範義]
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イギリスの劇作家。アイルランドのダブリン生れ。ロンドンに出てジャーナリストとなり,音楽批評,次いで劇評を執筆。劇評家としては在来のウェルメード・プレーを排撃して,イプセン風の社会意識をもった劇を擁護した。他方,穏健な社会主義者としてフェビアン協会の設立に参加。彼は世界は〈生命力〉に動かされて進化するという哲学をもっていた。戯曲で最初に話題になったのはスラム街の住宅事情を攻撃した《やもめの家》(1892初演。以下初演)である。それ以後,ヒロイズムを風刺した《悪魔の弟子》(1897),売春問題を扱った《ウォレン夫人の職業》(1902),生命力の哲学を具体化させた《人と超人》(1905),英雄を茶化した《シーザーとクレオパトラ》(1906),ジャンヌ・ダルクを主人公にした《聖ジョーン》(1923)のほか,おびただしい数の戯曲を発表した。音声学者が花売り娘に上流階級の言葉づかい,礼儀作法を教えこんでレディに仕立てる《ピグマリオン》(1913)は,のちにアメリカで,ブロードウェーでのミュージカル・ドラマ化を経て,《マイ・フェア・レディ》(1964,G.キューカー監督,アカデミー作品賞ほかを受賞)として映画化された。ロマンス性も強いが,イギリスの階級制度を風刺している。ショーの作品はいずれも思想性や問題性に富んではいるが,他方,作者が退けたウェルメート・プレーの技巧を取り入れた娯楽劇にもなっており,逆説を盛りこんだせりふによって生気を与えられている。1925年,ノーベル文学賞を受賞。
執筆者:喜志 哲雄
イギリスのビクトリア朝後期を代表する建築家。エジンバラ生れ。ロンドンで建築を修業,1856-58年フランス,ドイツなどを回り,《大陸の建築画集Architectural Sketches from the Continent》(1858)を出版。建築家G.E.ストリートの事務所を経て,62年親友のネスフィールドEden Nesfieldと独立。初期の聖三位一体教会(ビングリー,1868)ではゴシック・リバイバルの影響もみられたが,70年代に入り,軽快・素朴なクイーン・アン様式でローサー・ロッジ(ロンドン,1875)をはじめ多くの住宅を設計し,快適な間取りや自由な様式を求めた〈住宅革新運動English Domestic Rivival movement〉の中心的存在となる。その後古典的な構成も取り入れ,ニュー・スコットランド・ヤード(ロンドン,1890)などバロック風の大作も手がけた。
執筆者:星 和彦
イギリスの物理学者,気象学者。バーミンガムで生まれ,ケンブリッジ大学で学び,J.C.マクスウェルの教えを受けた。はじめはキャベンディシュ研究所につとめ,電気に関する実験などをした。1887年にはケンブリッジ大学の講師,97年には気象評議会の委員となり,1905年気象台長となった。06年には低気圧の中の空気の流跡線の研究を発表した。これは,ノルウェー学派の低気圧波動論の先駆ともいえるもので,V.F.K.ビヤークネスらの研究を支援した。また,高層観測の重要性を主張した。07-23年の間,現在の世界気象機関(WMO)の前身,国際気象機関(IMO)の会頭をつとめるなど,国際会議の場でも活躍し,イギリスの気象事業,気象学の研究,啓蒙活動にも大きな貢献をした。20-24年にはロンドン大学のインペリアル・カレッジで最初の気象学の教授をつとめた。1915年にはサーSirの称号をおくられている。《気象学便覧Manual of Meteorology》4巻(1926-31)が代表的な著書である。
執筆者:高橋 浩一郎
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1856~1950
イギリスの文学者。アイルランドのダブリン生まれ。1884年フェビアン協会に加入,社会主義の宣伝に活躍。92年『男やもめの宿』を発表,劇作家として名声を得た。1925年にノーベル文学賞を受けた。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
… ホッブズはこのように,きわめて明快な計算主義的人間観を主張しており,AI研究者のホージランドJ.Haugelandはホッブズを〈AIの祖父〉と呼んでいるほどである(《Artificial Intelligence:The Very Idea》,1985,The MIT Press)。ちなみに,ホージランドによれば,ホッブズがAIの祖父だとすると,チューリングがAIの父,マッカーシーJ.McCarthy(1927- )は名付親であるが,実際に産み落としたのはニューウェルA.Newell(1927- ),ショーShaw,サイモンH.Simon(1916- )ということになる。 思考は記号を操作することであり,またその計算は規則に従う機械的処理過程であるとするホッブズの思考法は,ライプニッツに引き継がれ,〈ホッブズが,われわれの心mensの働きはすべて計算computatioであると述べているがそれは正しい〉(Leibniz,Gerh.4,p.64)とするライプニッツの普遍記号学の構想に引き継がれてゆく。…
…彼は旧来の型にはまったメロドラマを排して,リアリズムに根ざしたまじめな劇を支持し,また,H.アービングを典型とする俳優の芸に依存した劇に対して脚本が優位を占める劇を主張した。つまり,親友のG.B.ショーが実作を通じて行ったイギリス近代劇確立運動を,理論面で支えようとしたのである。彼のもっとも重要な仕事は1908年に完成したイプセン劇の英訳で,イギリスでは長く標準的上演台本となった。…
…彼自身の計算で3600人以上を有罪に追い込んだというが,わいせつと無関係な思想家や芸術家で彼の偏執の犠牲となった人も多い。その一人のG.B.ショーは,道徳家ぶった偽善者,極端な道徳的検閲をあらわすのに〈コムストック風comstockery〉という単語をつくって報いた。【亀井 俊介】。…
…ローマの知将ファビウス(あだ名は〈遷延家〉)にちなんで名づけられた。G.B.ショーとシドニー・ウェッブの参加により,固有のフェビアン社会主義が確立される。協会が採択した《フェビアンの基礎》(1887)は,土地と産業資本の個人的・階級的所有から社会的所有への移行を目標に掲げ,社会主義的世論の普及によってこれを達成するものとした。…
※「ショー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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