サケ目サケ科のサケ属,ニジマス属,イワナ属に属するマス類の総称。学術的には,サケ属のサクラマスOncorhynchus masouを指すが,一般的には,味の落ちる魚であるカラフトマスO.gorbuschaを指し,サクラマスはホンマスと呼ばれ区別して使われることが多い。マスと呼ばれる魚としては,このほかにヒメマス,ニジマス(一般に養殖されているマスは本種),カワマス,ビワマス,マスノスケ,クニマスなどがある。
サクラマスには降海型と湖沼型があり,さらに,河川型は,別名ヤマメと呼ばれている。ヤマメは,水温20℃以下の渓流にすみ,生涯パーマークparr markをもち,銀白色の体になることはなく,うろこもはがれにくい。また,背びれの先端部に黒色斑紋の現れることはない。産卵も数回行うことができるが,体長は最大でも30cmほどの大きさにとどまる。
サクラマスの降海型は,太平洋は利根川以北,日本海側では九州北部以北に分布するが,さらに南方で捕獲されることもある。体型はサケによく似た形をしているが,背びれ,腹びれに黒色斑紋のあること,体背部に黒点が散在すること,内臓の幽門垂の数がサケの約160個に比べ40~50個と少ないことで区別できる。
生後満3~4年で成熟し,サケと同じように産卵のため母川(ぼせん)へ回帰遡上(そじよう)する。遡上は水温が15~18℃ほどになる5月ころに始まる。このころはまだ生殖腺は未熟で,摂餌も活発に行っている。8~10月ころになると生殖腺も十分発達し,それと同時に絶食状態になる。また,体色も銀白色から茶褐色になり,体側に婚姻色として紫赤色を帯びた雲状斑紋が現れる。産卵場所は,清流の水深30~60cmの砂れき底に形成されることが多く,砂れき底に細長いすり鉢状の産卵床をつくり,産卵・放精後,雌が砂れきを上流から尾,体ではね上げて卵を覆う。産卵水温は11~15℃である。1腹の卵数は,魚体の大きさによって異なるが,1500~1万粒ほどである。しかし,一つの産卵床にある平均産着卵数は1300粒ほどである。卵径は6.2~7mmで,沈性球形卵。
孵化(ふか)日数は水温8℃で55日,10℃で40日を要し,孵化最適水温は7~11℃である。孵化後,しばらくそのまま砂れきの間に潜在している。その間に,臍囊(さいのう)を吸収して成長し,翌春の4月下旬から5月にかけて浮出してくる。このころには,体長は約30mmほどになっている。体色は灰褐色をなし,体側にパーマークが顕著に認められる。サケと異なりすぐには降海しないで,そのまま河川または湖沼にとどまり,7~8月ころには体長が8~9cmになる。冬には,湧水域あるいは深所に移行して越冬する。孵化後さらに1年経過した翌春3~6月に降海する。降海するころには体長は10~15cmに達する。また,体色も銀白色となり,パーマークが不明りょうとなり,うろこもはがれやすくなっている。しかし,なかにはもう1年とどまって降海するもの,産卵するまでそのまま湖沼に残るものがある。豊富な餌に恵まれた場合には,降海型と同様の成長をとげ,いわゆる湖沼型となり,その後1年を経て産卵に参加する。河川生活期には,微小なプランクトン,水生昆虫,小型の魚などを,海洋生活期には,小型の魚,甲殻類,軟体動物などを摂餌する。大きなもので50~60cmに成長する。
成魚は,日本海,北太平洋水域一帯に広く生息する。海洋生活期には,水深15m以浅を遊泳しており,1日に移動する距離は,標識放流の結果から18~30kmと推定されている。一本釣り,はえなわ,地引網,角網,刺網などで漁獲されるが,サケに比べて数は少ない。
サクラマスは,マス類の中ではもっとも美味とされる。時期によっては,サケ類をもしのぐといわれる。海から川へ産卵に遡上を始める初夏のころが最上とされる。塩焼き,ムニエル,かす漬,薫製などにされる。関西では,新鮮なものを刺身にするほど,生のほうが美味である。すしの材料としても昔からよく使われ,富山県,神通川産のマスずしが有名である。なお,シューベルトの《鱒》はブラウントラウトである。
→サケ
執筆者:松下 克己
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
…所得増加を背景にした水産物需要の増加は,日本での漁獲高が少ないエビ,カニ,魚卵,マグロ等にも向かいはじめ最大の水産物輸入国であったアメリカを78年に追いぬいた。輸入品目としては,冷凍エビをトップ(輸入額の20%強)に近年伸びてきたマグロ(10%),サケ・マス(6%),イカ・タコ(6%)などとなっている(いずれも1995)。エビ,魚卵,タコ,カニ等は国産ものよりも輸入ものに依存する割合が高く,エビとマグロでは日本はアメリカとの2ヵ国で世界貿易の大半を占める。…
※「マス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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