奉る(読み)タテマツル

デジタル大辞泉 「奉る」の意味・読み・例文・類語

たて‐まつ・る【奉る】

[動ラ五(四)]
「やる」「おくる」の、その対象を敬っていう謙譲語。上位の人に差し上げる。献上する。「貢ぎ物を―・る」
動作の対象への敬意を失い、「やる」「おくる」をからかっていう。「あだ名を―・る」
形だけある地位に就けて、敬意を払ったことにする。祭り上げる。「会長に―・って口出しをさせない」
その動作を受ける人を主として、尊敬語として用いる。
㋐「飲む」「食う」の尊敬語。召し上がる。
「壺なる御薬―・れ」〈竹取
㋑「着る」の尊敬語。お召しになる。
「御袴着のこと、一の宮の―・りしに劣らず」〈・桐壺〉
㋒「乗る」の尊敬語。お乗りになる。「乗り給ふ」より敬意が強い。
「女御殿、対の上は一つに―・りたり」〈・若菜下〉
補助動詞動詞連用形に付いて謙譲の意を添え、その動作の及ぶ相手を敬う。…申し上げる。…さしあげる。「御神体を移し―・る」「よろしく願い―・ります」
[動ラ下二]に使役の意が加わったもの。一説に、四段「奉る」と同義とも》
人を通して、差し上げる。差し上げさせる。
「小さき人して―・れたれば」〈かげろふ・中〉
使いの者を参上させる。使いを差し上げる。
「惟光を―・れ給へり」〈・若紫〉
[補説]は、未然形と連用形の用例しかないが、通常、下二段と認めている。
[類語]供える捧げる献ずる差し上げる貢ぐ奉ずる奉奠

まつ・る【奉る】

[動ラ四]《「祭る」と同語源》
やる」「おくる」の謙譲語。尊者に献上する。差し上げる。
「秋つ葉ににほへる衣我は着じ君に―・らば夜も着るがね」〈・二三〇四〉
(その動作を受ける尊者を主として)「飲む」「食う」の尊敬語。召し上がる。
「やすみしし我ご大君は平らけく長くいまして豊御酒とよみき―・る」〈続紀・聖武・歌謡〉
(補助動詞)謙譲の意を表す。…申し上げる。
「仏の御法を護り―・り尊み―・るは」〈続紀宣命

たい‐まつ・る【奉る】

[動ラ四]たてまつる」の音変化。
「かぢとりしてぬさ―・らするに」〈土佐

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精選版 日本国語大辞典 「奉る」の意味・読み・例文・類語

たて‐まつ・る【奉】

  1. ( 動詞「まつる(奉)」の上に、出発させる意の動詞「たてる(立)」の連用形「たて」の付いたもの )
  2. [ 1 ] 〘 他動詞 ラ行五(四) 〙
    1. [ 一 ]
      1. 下位者から上位者へ物などをおくる、ささげる意から、「やる」「おくる」動作の対象を敬う謙譲語になったもの。
        1. (イ) 物などをさしあげる。献上する。
          1. [初出の実例]「恐(かしこ)し。此の国は、天つ神の御子に立奉(たてまつ)らむ」(出典:古事記(712)上)
        2. (ロ) 特に、人をさしあげるというところから、人を参上させる。使いをさしあげる。
          1. [初出の実例]「汝が持ちて侍るかぐや姫奉れ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      2. 「やる」の意味で、わざと敬語を用いてからかい気味にいう。
        1. [初出の実例]「かれ等が『般若』という綽名を奉(タテマツ)った小使が居た」(出典:田舎教師(1909)〈田山花袋〉一三)
      3. 便宜上、ある地位にすえておく。敬意を表する。まつりあげる。
        1. [初出の実例]「能衆の女房は御新造さまと奉られて」(出典:滑稽本・七癖上戸(1810)上)
      4. 貴人が身に受け入れたりつけたりする動作を、傍の人がしてさしあげるものとしていう尊敬語。
        1. (イ) 「飲む」「食う」の尊敬語。召しあがる。
          1. [初出の実例]「股長に 寝(い)をし寝(な)豊御酒(とよみき) 多弖麻都良(タテマツラ)せ」(出典:古事記(712)上・歌謡)
        2. (ロ) 衣服その他を、着たり身につけたりすることをいう尊敬語。お召しになる。御着用になる。
          1. [初出の実例]「これやこのあまの羽衣むべしこそ君がみけしとたてまつりけれ」(出典:伊勢物語(10C前)一六)
          2. 「をりづるの文のさしぬき、〈略〉豹(へう)の皮の尻鞘(しざや)ある御佩刀(はかし)たてまつりて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)吹上上)
    2. [ 二 ] 補助動詞として用いる。他の動詞に付いて、その動作が下位から上位に向けて行なわれることを示すところから、その動作の対象を敬う謙譲表現を作る。
      1. (イ) 動詞(または動詞に使役や受身の助動詞の付いたもの)に直接付く場合。…申しあげる。…してさしあげる。
        1. [初出の実例]「我れ今是の経を聞きたてまつること、親り仏前にして受けたまはりぬ」(出典:西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇)
        2. 「母君泣く泣く奏して、まかでさせたてまつり給ふ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
      2. (ロ) 特に、動詞「いる(率)」には助詞「て」を介して付き、「率てたてまつる」の形で、お連れ申しあげる、の意を表わす。
        1. [初出の実例]「右大弁の子のやうに思はせて、ゐてたてまつるに」(出典:源氏物語(1001‐14頃)桐壺)
  3. [ 2 ] 〘 自動詞 ラ行四段活用 〙 ( 貴人の行動を、傍からその用意をするものとしていう尊敬語 )
    1. 「乗る」の尊敬語。お乗りになる。お召しになる。
      1. [初出の実例]「みかど〈略〉帰らせ給ひける。御輿(こし)に奉りて後にかぐや姫に」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    2. 「(座に)つく」の尊敬語。おつきになる。御着座になる。
      1. [初出の実例]「右大将おりて入りたまふ。みなおましにたてまつりぬ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)内侍督)
  4. [ 3 ] 〘 他動詞 ラ行下二段活用 〙 ( 未然・連用形の用例しかないが、下二段活用と認められる )
    1. [ 一 ] [ 一 ]が下二段活用化して使役性を持つようになったものか。物をさしあげさせたり、人を行かせたりする、その先方を敬う謙譲語。一説に[ 一 ]に同じとも。
      1. (イ) 物などをさしあげさせる。人を通じてさしあげる、贈る。
        1. [初出の実例]「まだ后になり給はざりける時〈略〉帝御曹司に忍びて立ち寄り給へりけるに、御対面はなくてたてまつれ給ひける」(出典:後撰和歌集(951‐953頃)雑一・一〇八〇・詞書)
      2. (ロ) 人を参上させる。使いをさしあげる。伺わせる。
        1. [初出の実例]「うちより『少将、中将、これかれさぶらへ』とてたてまつれ給ひけれど」(出典:大和物語(947‐957頃)二)
    2. [ 二 ] 補助動詞として用いる。他の動詞に付いて、その動作を…させ申しあげる意を添え、その動作の対象を敬う。時に使役の意が薄れて、四段補助動詞「たてまつる」と同用法かと思われるものもある。
      1. [初出の実例]「さらば、ぬしの君の御もとに、おとどの御文を、ことのよし聞こえ奉れ給へ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)

奉るの語誌

( 1 )「たてまつる」の「たて」については、出発させる意の「たつ(下二段)」で、物や人を他に至らせる意とする説のほか、「たつ(献)」で「ささげる」の意とする説、実質的な「立つ」で「たてまつる」は「立てて献上する」意であるとする説などもある。
( 2 )上代ではまだ補助動詞用法は現われず、また、尊敬語としての用例も「(酒を)飲む」意にほぼ限定されている。
( 3 )この語は、類義語「まゐらす」などの進出に伴い、次第に口頭語の世界からは遠ざかった。
( 4 )[ 三 ]の下二段活用は中古中期の文献に見られ、多くは「たてまつれ給ふ」の形で、貴人の行為に対する敬意を表わしている。


まつ・る【奉・献】

  1. 〘 他動詞 ラ行四段活用 〙 ( 「まつる(祭)」と同源 )
  2. [ 一 ]
    1. 「やる(遣)」「おくる(送)」の謙譲語で、その動作の対象を敬う。さしあげる。献上する。
      1. [初出の実例]「酒(くし)の司(かみ) 常世にいます 石立たす 少名御神の 〈略〉麻都理(マツリ)(こ)し 御酒ぞ」(出典:古事記(712)中・歌謡)
    2. ( 下位者のさし上げるものを上位者が用いるところから、直接上位者の動作を表わすのに用いて ) 飲食するのをいう尊敬語。めしあがる。
      1. [初出の実例]「やすみしし 我(わ)ご大君は 平らけく 長く坐(いま)して 豊御酒(とよみき)麻都流(マツル)」(出典:続日本紀‐天平一五年(743)五月・歌謡)
    3. ( 尊敬語の用法を転用して ) いやしめや、ののしりの気持を込めて、「する(為)」「言う」などの意にいう。
      1. [初出の実例]「あしくよって怪我まつるな」(出典:浮世草子・御前義経記(1700)六)
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いる。他の動詞に付いて、その動作の対象を敬う謙譲表現を作る。…申しあげる。「つかえまつる」の形が多いが、これは一語化して用いられた。→つかえまつる
    1. [初出の実例]「釈迦の御足跡(みあと) 石に写し置き 敬ひて 後の仏に 譲り麻都良(マツラ)む 捧げまうさむ」(出典:仏足石歌(753頃))

奉るの語誌

( 1 )同じく謙譲の補助動詞の用法をもつ「たまふ」(下二段)との違いについて、「たまふ」は「…させていただく」の意であり、「まつる」は「…してさし上げる」の意であるという。
( 2 )[ 一 ]の意から[ 二 ]の補助動詞の用法が生じることは「たてまつる」と同様である。補助動詞としての「たてまつる」は上代においては用例がほとんど見出されないが、平安時代以降は「まつる」が衰退して行き「たてまつる」がもっぱら用いられるようになる。


たい‐まつ・る【奉】

  1. 〘 他動詞 ラ行四段活用 〙 ( 「たてまつる(奉)」の変化した語 )
  2. [ 一 ] さしあげる。献上する。
    1. [初出の実例]「かぢとりしてぬさたいまつらするに」(出典:土左日記(935頃)承平五年一月二六日)
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いる。動詞の連用形に付く。その動作の対象を敬う意を添える謙譲語。…(し)申しあげる。
    1. [初出の実例]「それにこの案内を語らひたいまつらんとて」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)

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