(読み)ナマジ

デジタル大辞泉 「憖」の意味・読み・例文・類語

なまじ【×憖】

《「なまじい」の音変化》
[形動][文][ナリ]完全ではなく中途半端であるさま。いいかげん。なまじっか。「なことでは承知しまい」
[副]
無理にしようとするさま。しなければよかったのに、という気持ちで用いる。なまじっか。「手出しをしたばかりに失敗に終わった」
中途半端なさま。なまじっか。「金があるものだから」
[類語]なまじっかなまなかなまじい生煮え生ぬるい手ぬるいおざなりなおざり微温的生半可いい加減適当ぞんざい投げ遣りちゃらんぽらん行きあたりばったり不十分不完全不徹底不行き届き半端中途半端宙ぶらりん

なま‐じい〔‐じひ〕【×憖】

[形動][文][ナリ]
なまじ」に同じ。
「―に御器量好しだの美人だの云われた丈に」〈蘆花自然と人生
そうするのは無理なのにあえてするさま。
「物思ふと人に見えじと―に常に思へりありそかねつる」〈・六一三〉
しなくてもいいのにするさま。
「―なるいくさして、言ふかひなく敵の手にかかり」〈太平記一一
[副]なまじ」に同じ。
「お旗下の若様だと―若い人に知らせると」〈円朝真景累ヶ淵

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精選版 日本国語大辞典 「憖」の意味・読み・例文・類語

なま‐じい‥じひ【憖・

  1. [ 1 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 ( 「なましい」とも ) 現実仮定の状態が中途はんぱで不満足であると感じながら、何かを無理やり押し切ろうとするさまをあらわす。なまじっか。なまじ。なまず。
    1. 気がすすまなかったり、不可能だと思ったりしながらも、つとめて無理にするさま。
      1. [初出の実例]「物思ふと人に見えじと奈麻強(ナマじひ)に常に思へりありそかねつる」(出典万葉集(8C後)四・六一三)
      2. 「あながちに勧められしかば、なまじひにうけひき」(出典:宴曲・撰要目録(1301‐19))
    2. そうでなくてもよいのに、よせばよいのに、という気持を表わす。しいて望んでいないのであるから、いい加減なことをしない方がむしろよいという感じで用いる。
      1. [初出の実例]「数ならぬ身にておよびがたき御仲らひになましひに許されたてまつりて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
      2. (ナマシイ)なる軍(いくさ)して、云ふ甲斐無く敵の手に懸り」(出典:太平記(14C後)一一)
    3. 中途はんぱなさま。いい加減であるさま。
      1. [初出の実例]「今生も後生も、(ナマシイ)に為損じたる心地して有りつるに」(出典:平松家本平家(13C前)一)
      2. 「憖(ナマシヒ)に一所の譲は請たれども、世渡るたづき中々にとめぬ月日の数そへて」(出典:浮世草子・宗祇諸国物語(1685)四)
    4. 不用意なさま。うっかり。
      1. [初出の実例]「Namaxijni(ナマシイニ) ワタクシニワ エ クワタテラレズ」(出典:天草本平家(1592)二)
      2. 「なまじゐに本末しらぬ事いひ出でて、世の譏(そしり)取らむ事益なし」(出典:随筆・折たく柴の記(1716頃)下)
  2. [ 2 ] 〘 副詞 〙 よせばよいのに中途はんぱなことをしてという気持をこめて、中途はんぱであるさまを表わす。なまじか。なまぜかし。なまじっか。なまじ。
    1. [初出の実例]「なまじい親がかくまふと聞えては」(出典:浄瑠璃・大経師昔暦(1715)中)
    2. 「なまじい己れを弁護して、益(ますます)形勢をわるくするのも愚である」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一)

憖の語誌

語源は、副詞「なま(生)」に動詞「しいる(強)」の連用形が付いたものといわれる。多く「なまじひ(なまじい)に」の形で用いられ、まれに「なまじひなる」「なまじひの」も見られる。のちに「に」が脱落して、[ 二 ]に挙例の「浄・大経師昔暦‐中」のように「なまじい(ひ)」、さらに「なまじ」また「なまじか」「なまじっか」となる。中途半端、いい加減の意で「なまなか」と類義関係をもつ。


なまじ【憖】

  1. ( 「なまじい」の変化した語 )
  2. [ 1 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙なまじい(憖)[ 一 ]
    1. [初出の実例]「なまじに愛てふ魔力に捕へられて居るだけ、互に互を忘れることが出来ないで」(出典:第三者(1903)〈国木田独歩〉五)
    2. 「生(ナマ)じの医者にかかるよりいくら確かだか知れやしねえ」(出典:異端者の悲しみ(1917)〈谷崎潤一郎〉四)
  3. [ 2 ] 〘 副詞 〙なまじい(憖)[ 二 ]
    1. [初出の実例]「なまじつかずはつかぬまでよ、せめて金十両、といへば」(出典:浄瑠璃・凱陣八島(1685頃)二)
    2. 「憖(ナマ)じそんな事をするのが却て残酷のやうにも」(出典:煤煙(1909)〈森田草平〉二二)

なまじっか【憖】

  1. [ 1 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙なまじい(憖)[ 一 ]
    1. [初出の実例]「憖(ナマジッ)かなことを言ふと、益(ますます)僻む」(出典:其面影(1906)〈二葉亭四迷〉三二)
  2. [ 2 ] 〘 副詞 〙なまじい(憖)[ 二 ]
    1. [初出の実例]「此奴等アなまじっか、江戸へ来てゐやあがるものだから」(出典:歌舞伎・八幡祭小望月賑(縮屋新助)(1860)序幕)
    2. 「ちょっとばかり字の読めるやつは、なまじっか読みちがいをしやすいもんだ」(出典:秘事法門(1964)〈杉浦明平〉八)

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普及版 字通 「憖」の読み・字形・画数・意味


16画

[字音] ギン・キン
[字訓] なまじいに・かける

[説文解字]

[字形] 形声
声符は(ぎん)。〔説文〕十上に「は犬、(はぐき)を張りて怒るなり」とし、憖字条十下に「問ふなり。ふなり」とし、「一に曰く、(よろこ)ぶなり。一に曰く、甘し」とみえる。〔段注〕に〔玉〕等によって「(肯)なり。ふなり。一に曰く、ぶなり。一に曰く、且なり」と改めている。〔玉〕には「に、なり。一に曰く、ぶなり。一に曰く、且なり」とみえるが、これらの訓義の間に統貫するものがない。〔左伝、哀十六年〕の孔子を弔う誄辞(るいじ)に「旻天(びんてん)不淑(ふしゆく)にして、憖(なまじ)ひに一老を(のこ)さず」とあり、その句は〔詩、小雅、十月之交〕にみえるもので、字の初義を示す例である。〔詩〕の〔〕に引く〔説文〕に「憖は肯なり」とみえる。また〔左伝、文十二年〕「兩軍の士、皆未だ憖(か)けざるなり」とは、なお傷害を被らぬ意である。字の構造よりいえば、來(来)は来麦、犬は犬牲、これらを供えて祀り祈ることをいう。〔小爾雅、広言二〕に「願ふなり」、〔広雅、釈詁一〕に「憂ふるなり」とあるのが字義に近く、〔詩〕の〔箋〕に「心に欲せず、自ら彊(つと)むるの辭なり」とは、国語の「なまじい」に近い意であろう。

[訓義]
1. なまじいに、つとめて、しいて。
2. ねがう。
3. うれえる、いたむ、つつしむ。
4. かける、きずつく。

[古辞書の訓]
名義抄〕憖 コハシ・ナマジヒ・トトノフ

[熟語]
憖遺・憖暇・憖憖・憖置・憖留

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