抱える(読み)カカエル

デジタル大辞泉 「抱える」の意味・読み・例文・類語

かか・える〔かかへる〕【抱える】

[動ア下一][文]かか・ふ[ハ下二]
物を囲むように腕を回して持つ。胸にだくようにして持つ。「ひざを―・えて座る」「包みを小脇に―・える」
自分の負担になるものをもつ。厄介なもの、世話をしなければならないものを自分の身に引き受ける。「多くの負債を―・えて倒産する」「妻子を―・えて路頭に迷う」
人を雇う。雇って使う。「運転手を―・える」
その範囲の内にもつ。また、まわりを囲む。「湾を―・えた地勢
かばう。保護する。
「流罪せられよと、公家に申ししかども、君―・へ仰せられしを」〈古活字本平治・下〉
今の状態を保ちつづける。維持する。
「今一両日は―・へて見申し候ふべし」〈信長記・三〉
[補説]室町時代以降はヤ行にも活用した。→かか
[用法]かかえる・だく――「人形をかかえる(だく)」などでは相通じて用いられる。◇「かかえる」は荷物などを腕で囲んで、胸や脇に持つこと。「かばんを小脇にかかえる」「大きなふろしき包みを両手でかかえる」のように用いる。また、抽象的に「三人の遺児をかかえて途方に暮れる」「借金をかかえる」などとも用いる。◇「だく」は赤ん坊や恋人などを胸のところで支え持つ意。「幼子キリストを胸にだくマリア」「病児をしっかりとだいている母親」「強くだいて!」「鳥が卵をだく」などと一般に用いられる。この場合「かかえる」では置き換えられない。◇「だく」の類似の語に「いだく」がある。「いだく」は、やや古い語であるとともに、心の中にある感情・考えをもつ意味もあり、「おそれをいだく」「大志をいだく」などと用いられる。
[類語](1いだ抱きかかえる抱きしめる抱き合う抱擁抱き付く抱きすくめる抱き上げる抱き起こす抱き下ろす抱き寄せる抱き取る抱き留める抱き込む抱え込む抱っこ抱合/(3雇う雇用採用採択雇い入れる召し抱える召し使う取る取り上げる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「抱える」の意味・読み・例文・類語

かか・えるかかへる【抱】

  1. 〘 他動詞 ア行下一(ハ下一) 〙
    [ 文語形 ]かか・ふ 〘 他動詞 ハ行下二段活用 〙
  2. 腕でかこむようにして支え持つ。両腕でかこみ持つ場合にも、片腕でわきの下に持つ場合にもいう。また、病人などをだくようにして看護する。
    1. [初出の実例]「唐の兵、膝を抱(カカヘ)て哭く」(出典:日本書紀(720)天智即位前(北野本訓))
    2. 「人々あさましがりて、寄りてかかへ奉れり」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
  3. ある範囲内に入れる。かこむ。
    1. [初出の実例]「浦山をかかへまして、上下の船などを眺め、ことの外、景の多い所でござりまする」(出典:狂言記・舟ふな(1660))
  4. 中に込めて出られないようにする。閉じ込める。
    1. [初出の実例]「或は罰するに鞭杖をもてす。或は牢獄に禁(カカフ)」(出典:地蔵十輪経元慶七年点(883)二)
  5. 自分の勢力範囲に入れてかばう。庇護(ひご)する。
    1. [初出の実例]「山門の大衆あげて流罪せられよと公家に申ししかども、君かかへ仰せられしを」(出典:平治物語(1220頃か)下)
  6. 人を家臣召使いとして雇い入れる。召しかかえる。
    1. [初出の実例]「新座の者をあまたかかへらるる程に、それにおきたひと申事でござ有」(出典:虎明本狂言・鼻取相撲(室町末‐近世初))
    2. 「私が代に抱(カカヘ)た女だと、おもいれ仕置の仕法もあるが」(出典:人情本・春色梅児誉美(1832‐33)四)
  7. ものを所有したり支配したりする。維持する。
    1. [初出の実例]「然共各依油断、当寺あいかかへがたく候」(出典:石山本願寺日記‐顕如上人文案・(年未詳)(室町)卯月一八日)
  8. 自分に課せられたもの、責任をとるべきもの、また、負担になるものとして持つ。
    1. [初出の実例]「これほどの大事をまへにかかへながら、同士戦(どしいくさ)候者(さうらはば)」(出典:平家物語(13C前)一一)
    2. 「遙なる行末をかかえて、斯る病覚束なしといへど」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)飯坂)
  9. じっと控えめに内にこめて、外に出ないようにする。控えめにする。うちわにする。
    1. [初出の実例]「風情よそをいを少々(すくなすくな)とかかへて、見物の人の目・心をやすめて」(出典:花鏡(1424)比判之事)
  10. かかえる(香)

抱えるの補助注記

室町頃からヤ行にも活用して「かかゆ(る)」が使われたが、未然形、連用形は「かかふ」「かかへる」のそれと区別しにくいので便宜上この項に入れ、「かかゆ」には、はっきり区別できる例だけをあげた。→かかゆ

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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