(読み)カシコ

デジタル大辞泉 「畏」の意味・読み・例文・類語

かしこ【畏/恐/賢】

形容詞「かしこい」の語幹から》
女性手紙の終わりに添えるあいさつの語。かしく。男性の用いる「恐惶きょうこう謹言」などにあたる語。「あらあら―」
恐れ多いこと。もったいないこと。多く「あなかしこ」の形で用いられる。
「確かに御枕上に参らすべき祝の物に侍る。あな―」〈・葵〉
すぐれていること。すばらしいこと。
「草にも真名まなにも、…書きまぜ給へり。―の御手や、と空を仰ぎてながめ給ふ」〈・葵〉
思慮分別などに優れていること。利口なこと。
「我―に思ひたる人、憎くもいとほしくも覚え侍るわざなり」〈紫式部日記
[類語]敬具敬白謹言拝具草草怱怱頓首不一不二

い【畏】[漢字項目]

常用漢字] [音](ヰ)(呉)(漢) [訓]おそれる かしこし かしこまる
おじけづく。おびえる。「畏懼いく畏縮畏怖
うやまい、かしこまる。「畏敬畏友

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「畏」の意味・読み・例文・類語

かしこ【畏・恐・賢】

  1. ( 形容詞「かしこい」の語幹 )
  2. おそろしいこと。おそれ多いこと。もったいないこと。おそれつつしむべきこと。「あなかしこ」の形で用いられることが多い。
    1. [初出の実例]「さるにても、かしこ、あやまちしつらふ」(出典:虎明本狂言・文山立(室町末‐近世初))
  3. すぐれていること。すばらしいこと。
    1. [初出の実例]「めづらしきさまに、かきまぜ給へり。かしこの御てやと」(出典:源氏物語(1001‐14頃)葵)
  4. 「おそれ多く存じます」の意で、手紙の結びに用いて相手に敬意を表わす語。男女ともに用いたが、後世は女性が用いる。あらあらかしこ。めでたくかしく。かしく。
    1. [初出の実例]「悉皆狼藉之躰可御免候由申させたまへ、かしこ」(出典:実隆公記‐明応五年(1496)正月一六日紙背(姉小路基綱書状))
  5. 才能、思慮、分別などがすぐれていること。賢明であること。りこうであること。
    1. [初出の実例]「われかしこに思ひたる人」(出典:紫式部日記(1010頃か)消息文)

畏の語誌

用法は、「あな」が上接した「あなかしこ」の形で既に平安時代中期から見られる。中世になると、「かしこ」単独でも用いられ、「かしこ」から転じた「かしく」も見られるようになる。


かしく【畏・恐・可祝】

  1. [ 1 ] ( 形容詞「かしこい」の語幹「かしこ(畏)」の変化した語 ) 女性の、時には男性の手紙の末尾に用いる挨拶(あいさつ)のことば。かしこ。めでたくかしく。
    1. [初出の実例]「又々申候へく候。かしく」(出典:醍醐寺文書‐応永三一年(1424)自正月至六月紙背)
  2. [ 2 ] ( 女性の手紙に限って用いられるところから ) 女性をさす。
    1. [初出の実例]「師匠さまかしくの方は世話がなし」(出典:雑俳・柳多留‐七〇(1818))

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

普及版 字通 「畏」の読み・字形・画数・意味


常用漢字 9画

[字音] イ(ヰ)・ワイ
[字訓] おそれる・つつしむ

[説文解字]
[甲骨文]
[金文]

[字形] 象形
鬼頭のものの形。〔説文〕九上に「惡なり」とし、上は(鬼)頭、下は虎爪にして「畏るべき」ものとするが、下部は人と呪杖の形である。卜文・金文の形は鬼頭の者が呪杖をもち、その威霊を示す形。夢などにあらわれるものをいい、卜辞に「畏多し」などの語がある。

[訓義]
1. おそれる、にくむ、はばかる、忌む。
2. つつしむ、かしこまる。
3. 金文の〔大盂鼎〕に「天畏を畏れよ」とあり、威と通用する。

[古辞書の訓]
名義抄〕畏 オソル・オヅ・ツツシム・カシコマル

[声系]
〔説文〕に畏声として・猥・隈など七字を録する。隈iは窩uaiと声義近く、その系統の語。

[語系]
畏・威iuiは同声。〔詩、小雅、常棣〕「死喪の威(おそ)れ」は「畏れ」、〔小雅、巧言〕「昊天(かうてん)已(はなは)だ威(おそ)る」は金文の「天(びんてん)疾畏」と同義。文献に畏・威通用の例が甚だ多い。

[熟語]
畏愛・畏威・畏影・畏悪・畏忌・畏恐畏怯畏懼・畏敬・畏事・畏日・畏首畏粛・畏縮・畏慎・畏畏懦畏憚・畏・畏途・畏塗畏怕・畏避・畏怖・畏附・畏伏・畏服・畏慕・畏友・畏慄・畏凜
[下接語]
愧畏・恭畏・敬畏・愁畏・懾畏・尊畏・憚畏・天畏・怖畏・憂畏

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