デジタル大辞泉
「妾」の意味・読み・例文・類語
しょう〔セフ〕【×妾】
[名]めかけ。そばめ。
[代]一人称の人代名詞。女性が自分をへりくだって言う語。わらわ。
「―は一層学芸に心を籠め」〈福田英子・妾の半生涯〉
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しょうセフ【妾】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙 嫡妻以外で、夫婦の関係にある女。めかけ。てかけ。そばめ。
- [初出の実例]「小宰相局は、仮初(かりそめ)の眤(むつ)び也。妾(セウ)にてぞ御座(おはし)ましける」(出典:源平盛衰記(14C前)三八)
- [その他の文献]〔礼記‐曲礼下〕
- [ 2 ] 〘 代名詞詞 〙 自称。女性が自分を謙遜していう語。わらわ。わたくし。
- [初出の実例]「まことにさこそおぼさんはことわりなれど、妾(シャウ)が言(こと)をも、しばしきかせ給へ」(出典:読本・雨月物語(1776)蛇性の婬)
おな‐めをな‥【妾】
- 〘 名詞 〙 ( もと、「おんなめ(妾)」の「ん」の無表記形 ) =おんなめ(妾)
- [初出の実例]「何ぞ一の女を愛みて、禍を取らむや。如何などいへども命に過ぎざらむ。遂に許して妾(ヲナメ)と為」(出典:日本書紀(720)欽明二三年七月(寛文版訓))
おんな‐めをんな‥【妾】
- 〘 名詞 〙 ( 「をむなめ」とも表記 ) 正妻でない夫人。そばめ。おなめ。
- [初出の実例]「時に王に従(したが)ひまつる妾(ヲムナメ)有り。弟橘媛と曰ふ」(出典:日本書紀(720)景行四〇年是歳(寛文版訓))
おうな‐めをうな‥【妾】
- 〘 名詞 〙 正妻の外に、養い愛する女。めかけ。てかけ。おんなめ。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
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普及版 字通
「妾」の読み・字形・画数・意味
妾
8画
[字音] ショウ(セフ)
[字訓] はしため・めかけ・わらわ
[説文解字]
[甲骨文]
[金文]
[字形] 会意
辛(しん)+女。辛は入墨に用いる針。罪あるものにはこれで入墨を加える。女には妾といい、男には(童)という。立形の部分は、もと辛であった。〔説文〕三上に「(つみ)るの女子なり。之れを給事せしめ、君に接することを得るなり」という。「君に接する」の接の義を以て解するが、本来は「神に接する」ために、神に捧げられたもので、もとは犠牲であろう。卜文に「河妾」という語があり、河神を祀るとき、犠牲として捧げたものと思われる。金文の〔伊(いき)〕に「康宮の王の臣妾百工」とあり、のち神殿・宮につかえるものとなり、また〔左伝、僖十七年〕「男を人臣と爲し、女を人妾と爲す」のように、隷属のものとなった。
[訓義]
1. はしため、神に捧げられたもの、神殿・宮に捧げられたもの。
2. めかけ、そばめ。
3. わらわ、婦人の自称。
[古辞書の訓]
〔和名抄〕妾 乎无奈女(をむなめ) 〔名義抄〕妾 ヲムナメ・トル・タカヒ・シタガフ・コナミ
[声系]
〔説文〕に妾声として・・椄・接など、六字を収める。椄六上は「續木なり」とあり、妾に接続の意を含むようである。
[語系]
妾tsiap、接tziapは声が近く、妾とは神聖に接する者の意であろう。shiapは呪飾として用いるもので、聖俗をへだてる意をもつものである。
[熟語]
妾侍▶・妾処▶・妾女▶・妾小▶・妾身▶・妾人▶・妾妃▶・妾婦▶・妾嬖▶・妾▶
[下接語]
愛妾・悪妾・姫妾・鬼妾・宮妾・群妾・妻妾・蚕妾・侍妾・庶妾・臣妾・賤妾・蓄妾・妾・童妾・妃妾・婢妾・鄙妾・婦妾・嬖妾・僕妾・妾・老妾
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妾 (めかけ)
正妻のほかに愛し扶養する女のこと。蓄妾の存在は,性的欲求のほかに,子を得るため,経済的誇示のため,などの理由がある。江戸時代,とくに武家社会では,家の継承者として男系子孫を得ることが強く望まれていたから,正妻に男子が生まれない場合は,養子による方法もあったが,めかけによって得ようとすることがしばしば行われ,これは儒者によって倫理的にも肯定されていた。明治になって種々の推移はあったが,法的にめかけは妻と同じ夫の2親等としてあつかわれたとか,戸籍に記載されたり,めかけの生んだ子を父が認知すれば庶子となり,庶出男子は嫡出女子に優先して家督相続ができたというように,直接,間接にめかけの存在は認められた。一般の民俗においては,養子制度の発達もあって,めかけは特殊な存在であった。
執筆者:植松 明石
中国
めかけは古くは女奴を意味し,男奴たる臣とあわせて〈臣妾〉の語があった。春秋末期から〈奴婢(ぬひ)〉の語が一般化するとともに,自由身分の側室をめかけと称するようになった。旧中国における宗族秩序の上からは一夫一妻の原則にたつから,めかけは公的地位をもたず弱い立場にあったが,単なる秘密の囲い女ではなく,家族の成員たる身分を礼と律の上に制度づけられていた。めかけは夫を〈君〉と,正妻を〈女君〉と呼び,めかけも夫に貞操の義務を負い,これに反すれば姦通として処罰される。夫が死亡のときは妻と同様の喪に服し,意に反して夫の家から強制的に追い出すことは違法とされ,遺産の分与にも養老の観点から一代限り認められることがある。めかけの生んだ子,すなわち庶子は嫡母に対して喪に服し,生みの母に対して服さない。《金瓶梅》などの小説類にみられるように,めかけをおくのは多くは都市に住む官員・富商とみられる。日常同居して〈二房〉〈二太太〉〈姨太太〉〈小婆子〉〈姨娘〉などと呼ばれた。
執筆者:植松 正
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妾
しょう
一夫多妻制下における嫡妻以外の配偶者。大化以前に,嫡妻,妾の区分が存在したか否かには疑いがある。古語の「こなみ」「うはなり」の別を,これに擬する説もあるが,確証がない。律令制においては,中国の制にならって,妻妾の制が継受された。しかし,養老の儀制令は,母法を改正して,妾を妻と同じ2等親と定めている。また,『令集解』にみえる解釈においても,妾は「次妻」として取扱われているが,嫡庶の別は,法律とは異なり,多妻間における力関係によって定められる有様であった。上代の次妻,律令制の妾が,配偶者であることは疑いがないが,妾の地位は,婚姻制が,執聟婚より迎婦婚へと変化するにつれて下落の一途をたどった。明治維新後,妾の地位は,『新律綱領』の編者が,復古主義の波に乗って,大宝令制を復活し,妻妾2等親の制を定めたために,妻に準じるものとなった。しかし,この制度については,ヨーロッパ法の立場より反対が唱えられ,1882年施行の旧刑法の立法過程において,激論がかわされた結果,一夫一婦論者,廃妾論者の主唱が勝を制した。そして,旧刑法施行後,ほどなく,妾の登録制も廃止され,妾は貴顕のそれといえども,法律上の地位を失うこととなった。
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妾【めかけ】
正妻のほかに養って愛する女。目を掛けるの意。側室,そばめ,上臈などともいう。大化以前には〈うわなり〉等という次妻があったが,これを律令では妾(しょう)と呼び,夫の2等親とした。江戸時代には妾は召使とされたが,維新後の新律綱領では配偶関係を認め夫の2等親と規定。のち廃妾論が唱えられ,1882年旧刑法施行で配偶関係は否認され,一夫一婦制が確立。現行法は妾に対して法律上なんらの地位も認めていない。妾契約は公序良俗に反するから無効とされ,手切金契約については判例は有効・無効に分かれる。妾を置いた場合は夫の貞操義務違反として離婚の原因となる。
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世界大百科事典(旧版)内の妾の言及
【賤民】より
… 中国における奴婢(奴隷と同義)の起源ははなはだ古く,[甲骨文]にもみえているが,その発生の状況を明らかにすることはできない。先秦時代には臣・妾と称せられたが,漢代以後,奴・婢という言葉に置きかえられ,唐代にいたった。原則として,男の奴隷を奴,女の奴隷を婢といった。…
【婚姻】より
…ただ近世中期以降,下級武士の困窮ははなはだしく,商人や豪農の財力を目当てに結婚したり,持参金の多寡を問題にすることが多くなっていった。最後に妾について触れると,豊臣時代妾を置くことは大名でも1,2名に限るよう命じていたが,江戸時代ではとくに制限はなく,経済力に応じて妾を抱えることが通例となった。しかし妾は子を生んだとしても主人の家族ではなく使用人の身分であったので,妾の地位はきわめて低かった。…
【庶子】より
…
[日本]
庶子の語は中国に由来し,日本古代の律令の諸規定では嫡子と庶子が区別され嫡子優遇政策が取られている。しかし当時,家の継承者としての嫡子が存在しなかったのでそれと区別された庶子も存在せず,また嫡妻と妾の区別が行われなかったので,嫡出子と区別された庶子も存在しなかった。したがって当時庶子という概念もそれを表現する日本語もなかった。…
【中国】より
…もちろん一村一部落全体が同姓などというのは珍しくないが,それもただ独立の家が集まって村を成しているというのみで,特別に団結力に富むというわけでもなく,何の変哲もないものらしい。ただ,中・上流の場合,旧中国での家族は〈一夫一婦多妾〉制で[妾]たちは同じ邸内に住むし,結婚した子供たちが父母や祖父母と同じ屋根の下もしくは同じ郭に住むことが多く,特殊なわずらわしさがある。妾は下流社会から買われることが多いが,決して日蔭者ではない。…
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