軌道(鉄道)(読み)きどう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「軌道(鉄道)」の意味・わかりやすい解説

軌道(鉄道)
きどう

鉄道線路のうちレール、枕木(まくらぎ)、道床など路盤より上にある構造物の総称。車両の重量を直接支えてこれを路盤へ分散して伝えること、車両走行の案内路として働くことの二つを大きな役割としている。軌道は通常、レール、レール締結装置、枕木、道床、およびその他の材料から構成されている。レールは車両の輪軸と軌道が直接接する部分で、車両の重量の枕木への伝達、および車両走行の案内を行うと同時に、車輪との間に平滑な走行面を提供して走行抵抗がきわめて小さいという鉄道輸送の特色を生み出している。レールはレール締結装置により枕木に取り付けられる。これにはタイプレート、ねじ釘(くぎ)、犬釘(いぬくぎ)や締結ばね、軌道パッドが用いられる。レール締結装置は軌道に適度の弾性を与えて振動を低減し、車両からレールに作用する上下・左右方向の力を受け、枕木に伝達する。また、レールを十分押さえて、レールが長手方向に移動することを防止している。枕木は左右のレールの間隔を一定に保ち、レールから伝えられた力を道床へと広く分散させる。軌道の最下部にある道床は、砕石または砂利を路盤の上に敷いたものである。路盤は土という比較的強度の小さい材料により構成されるため、路盤に作用する圧力は小さく抑える必要がある。道床は枕木から伝えられた力をさらに分散し、衝撃を緩和して路盤に伝える。また、レールと枕木をしっかりと包み込み固定する働きをもっている。

[家田 仁]

軌道の構造

道床を用いた軌道を有道床軌道という。有道床軌道の最大の特長は、軌きょう(軌框―枕木にレールが締結されたもの)を上下・左右方向に移動をさせて調整するのがきわめて容易な点である。このことは、路盤面に不整がある場合や走行面が不整になってしまった場合にも、軌きょうを持ち上げて、枕木の下に道床砕石をつき込み固めること(つき固め)によって容易に平滑な走行面をつくることができ、軌道を保守するうえできわめて有効である。反面、列車の走行にしたがって枕木下の道床砕石がすこしずつ崩れて軌きょうが沈下し、しだいに走行面が不整になっていく、いわゆる軌道の破壊が激しいことも、この有道床軌道の特質である。有道床軌道は非常に軽快な構造で構成されるため、建設費用を比較的低く抑えることができる。鉄道線路は通常の構造物と比べきわめて長大な延長をもつため、建設費用の大小が全体の経済性に強く影響する。このことから、鉄道の始まり以来、有道床軌道はもっとも一般的な軌道構造となっている。保守の点からいえば、有道床軌道は軌道の破壊が激しく、多くの労力を要するが、走行面の調整が比較的容易であり、豊富で熟練した労働力が得られる場合には費用もわりあい低廉となる。

 現在、軌道の構造を設計する際には、軌道を構成する各要素に過大な力が作用しないこと、建設と保守のための総費用が最小になるようにレール重量、枕木本数、道床の厚さなどを決めることの2点が検討される。近年、人件費労務費の上昇はとくに著しく、相対的にみて保守のための費用が拡大する傾向にある。また、鉄道に対するスピードアップの要請も強い。こうしたなかで軌道構造についても、車両から受ける力や軌道の破壊に対して、より強いものが総合的にみて経済的であり、必要とされるようになった。これに対して、レールの重量化、コンクリート枕木の使用、道床厚の増加などの有道床軌道の改良が行われているが、同時に直結軌道スラブ軌道舗装軌道などの新しい軌道構造が開発されるようになった。1975年(昭和50)開業の山陽新幹線岡山―博多(はかた)間にスラブ軌道が大幅に採用されたのをはじめとして、現在各種の新しい軌道構造の開発、実用化が進められている。

[家田 仁]

軌間

車両は2本のレールにより案内されて走行しているが、安全で快適な走行を確保するにはこの2本のレールの間隔が一定範囲内になくてはならない。車輪とレールの接触位置における両側レール間の最短距離を軌間とよんでいる。

[家田 仁]

曲線と速度

車両が曲線を通過する際に走行の安定性や乗り心地を確保するため、軌道構造についても各種のくふうがなされている。曲線通過中、理想的には各車軸が曲線の中心に向いている必要があるが、実際は台車のなかで少なくとも2軸が固定されているため、固定された車軸の間隔が広くなると、軋(きし)み合って円滑に走行することができなくなる。このため曲線部では曲線半径の大小に応じて軌間を若干拡大している。この軌間の拡大をスラックとよぶ。

 列車が曲線部を通過する際には車両に遠心力が作用するため、そのままでは乗り心地の不快、車両の転覆などを招くことになる。このため曲線半径や列車速度に応じて外側のレールを内側よりも高く敷設することにしている。これをカントをつけるといい、内外のレールの高さの差をカント量とよんでいる。軌道の側からの列車の最高速度は、直線部では軌道各部にかかる力、軌きょうの沈下に対する軌道の強度によって決定されるが、曲線部についてはさらに前述のカントの設定のぐあい等が関係して最高速度が決定される。

[家田 仁]

レールの継目遊間

通常、軌道には25メートルごとにレールとレールを継目板とボルトにより継いだレール継目を設ける。レールの温度は大気の温度の変化と同様に年間を通じて変化する。そのため鋼の膨張収縮により、レールは伸縮することになる。この伸縮に対応するため、継目にはレールとレールの間に遊間(ゆうかん)とよばれるすきまが設けられている。この遊間が広すぎると、列車の走行に伴う衝撃による軌道の損耗、乗り心地の悪化を招き、さらに冬期には継目部のボルトに過大な引張り力が作用して破損につながることがある。遊間が狭すぎると、夏期の高温時にはレールに過大な圧縮力がかかり、軌きょうが座屈することがある。軌きょうの座屈によって軌道には横方向に著しく大きな変形を生じるため、車両の走行上非常に有害である。このためレール継目の遊間は適正な値を定めて設定し、厳密に管理しなくてはならない。

[家田 仁]

ロングレール

レールの継目部は列車の衝撃を受けやすいため、乗り心地も悪化し、保守労力をとくに要する箇所である。また、騒音も発生しやすい。この軌道の弱点箇所である継目を除去して、乗り心地の向上、保守労力や騒音の低減を図ろうとするのがロングレールである。これは、遊間を設定した継目のかわりに、レールとレールを溶接によって長く継ぎ合わせてゆくものである。ロングレールの延長は理論的には上限がないが、曲線半径などの敷設条件、信号用軌道回路の電気的絶縁により制限を受ける。現在、新幹線はほぼ全線がロングレールで、1本の標準的な長さは1500メートルとなっている。また、JR各社の狭軌線についてもロングレール化が進められている。ロングレールの端部では、レールの温度変化による伸縮量が大きいため、通常の継目の遊間では対応しきれず、特別な伸縮継目などを設置している。ロングレールは種々の長所をもつが、レール温度の変化により発生するレールの軸力が中間部では相当大きくなり、冬期のレール溶接部の破断、夏期の軌きょうの座屈を防止するため特別の管理が必要である。

[家田 仁]

軌道狂いの管理

軌道上の(とくに有道床軌道)列車走行にしたがってしだいに走行面の不整が生じてくるが、この不整を軌道狂いとよんでいる。軌道狂いは、軌間の狂い、レールの上下方向の狂い(高低狂い)、レールの左右方向の狂い(通り狂い)、左右のレールの高さの狂い(水準狂い)、走行面のねじれ(平面性狂い)などに分けられる。これら軌道狂いは、車両の脱線防止、列車の乗り心地確保のため、厳密に管理されなければならない。軌道狂いの状態は高速軌道検測車などによって定期的に測定される。その結果をもとにして軌道の整備を要する箇所を抽出し、軌道のつき固め、線形の整正などを行って走行面の不整を取り除いている。

[家田 仁]

新しい軌道構造

有道床軌道のほかに、直結軌道、スラブ軌道など主として保守労力の省力化を目的とした新しい軌道構造がある。直結軌道とは、高架橋やトンネルの路盤コンクリートに木製またはコンクリート製のブロックを埋め込み、これに締結装置によりレールを弾性的に締結した軌道である。開発の歴史は古く、地下鉄をはじめとして、保守が困難な長大トンネル内などに使用されている。

 スラブ軌道は、直結軌道をさらに施工性、保守作業性について向上させる目的で開発されたものである。レールは、長さ5メートルの軌道スラブとよばれる鉄筋コンクリート板に締結装置を用いて弾性的に締結され、さらに軌道スラブをセメント・アスファルト・モルタルの層を介して路盤コンクリートに定着させて列車荷重を軌道スラブ全面で受けるものである。スラブ軌道は山陽・東北・上越新幹線をはじめとして、高速で輸送量の多い狭軌線の線路などに敷設されて、軌道狂いの発生の減少と保守労力の大幅な省力化に効果をあげている。このほか既設線の省力化を目的として開発されている舗装軌道、無道床橋梁(きょうりょう)の枕木を省略した鋼橋直結軌道、スラブ軌道の騒音低下を図る防振スラブ軌道、弾性枕木直結軌道などが開発されている。

[家田 仁]

『宮本俊光・渡辺偕年編『線路――軌道の設計・管理』(1980・山海堂)』『深沢義朗・小林茂樹著『新幹線の保線』(1980・日本鉄道施設協会)』『西亀達夫・神谷牧夫著『新鉄道工学』(1980・森北出版)』


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百科事典マイペディア 「軌道(鉄道)」の意味・わかりやすい解説

軌道(鉄道)【きどう】

(1)道床,枕木(まくらぎ),レールなどからなる構造物。天然地盤を堅固に加工した路盤上に構築。(2)原則として道路上に設けられ,一般交通の用に供される鉄道。軌道法により規制される。路面電車がこれに当たるが,例外的に道路外に敷設されたものは外見上地方鉄道と変わらない。
→関連項目鉄道鉄道線路

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