筑豊地域を主たる流域とし、ほぼ北流して遠賀郡
遠賀川は古くから水運に利用された。とくに上流の嘉麻郡や穂波郡には観世音寺(現太宰府市)領庄園が多く、その年貢の輸送に利用された。大治五年(一一三〇)観世音寺領
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
福岡県東部を北流する川。県中部の馬見山(978m)に源を発し,飯塚で穂波川,直方で大分県境の英彦山(ひこさん)(1200m)から流下してきた彦山川,植木で犬鳴川など大小44の支流を合わせて複雑な樹枝状河系をなし,遠賀郡芦屋町で響(ひびき)灘に注ぐ。幹川流路延長61km,全流域面積1030km2。上流で広く下流で狭い流域は,三方を山地に囲まれ,低い古第三紀層丘陵などによって田川,飯塚などの諸盆地や直方(のおがた)平野に分かれている。流域では古くから水田農業が行われていたが,明治以降は炭鉱業が急激に発達し,日本一の筑豊炭田として栄えた。1950年代中ごろからの〈エネルギー革命〉を背景とする石炭合理化政策によって,60年代末ごろまでに炭鉱はほとんど姿を消してしまったが,石炭の採掘と輸送を中心にして醸成された川筋気質(かわすじかたぎ)は,今も色濃く残っている。流域は人口激減など深刻な打撃をうけたが,産炭地域振興の企業が多数誘致され,内陸工業地域に変貌しつつある。中流の寿命(桂川町)から洞海湾に通ずる堀川運河とともに,米その他の物資,特に筑豊炭の輸送に大きな役割を果たしたが,水運は明治中ごろの筑豊本線など鉄道開通後しだいに衰え消滅した。古来しばしば洪水を起こし,明治以後も1889年,1905年,41年など再三の大洪水に見舞われ,1906年からは国直轄の改修工事が行われてきたが,石炭採掘に伴う堤防陥落などもあり,53年6月の集中豪雨で大被害を受け治水工事は現在も続けられている。洗炭による川水の激しい混濁は近年の炭鉱閉山で減じた。遠賀川は,流域の市町の上水や水田灌漑水ばかりでなく,北九州市の上水,工業用水の大半の水源となっている。河川敷の一部は運動場,乳牛放牧場,サイクリング道路,駐車場などに利用されている。
執筆者:土井 仙吉
水運は古く,すでに12世紀に流域荘園の年貢米輸送が行われ,河口の芦屋が栄えた。近世には流域は福岡・小倉両藩に分かれたが,遠賀川は両藩の年貢米輸送に利用され,要所に河岸がおかれて,船庄屋以下の役人が船頭および艜(ひらた)(川船)を管理した。18世紀に入ると流域農村で石炭やハゼ蠟の生産が進んだので,それらの輸送が盛んとなった。1762年(宝暦12)の堀川の完成によって,冬の季節風をまともに受ける芦屋をさけ,直接に洞海湾内の若松への艜の航行が可能になったので,以後,商品の多くは若松に送られるようになった。幕末には年間,延べ2万艘の艜が上下し,約8万tの米,石炭を積み下ろしたと推定される。遠賀川は筑豊経済の大動脈であった。しかし,1893年,現在の筑豊本線が開通してからは,石炭その他の商品は鉄道を利用して若松,門司に送られるようになり,遠賀川の水運は使命をおえた。
執筆者:野口 喜久雄
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福岡県東部を北流する一級河川。三郡(さんぐん)山地南部の馬見山(うまみやま)(978メートル)や大分県境の英彦(ひこ)山(1199メートル)などに源を発し、飯塚(いいづか)市で穂波川(ほなみがわ)と嘉麻川(かまがわ)とが合流して遠賀川本流となり、芦屋(あしや)町で響灘(ひびきなだ)に注ぐ。延長61キロメートル、流域面積1026平方キロメートル。上流部で広く、下流部に狭い三角形状の流域をもつが、それは彦山(ひこさん)川、中元寺(ちゅうがんじ)川、犬鳴(いんなき)川など多数の支流が複雑な樹枝状河系を形成し、上流部に多くの盆地が展開することによる。流域には炭層を含む古第三紀層の小丘陵が広く分布し、明治時代から近年まで300余りの炭鉱が操業、日本最大の炭田地域であった。1763年(宝暦13)に完成した、中流の香月(かつき)から洞海(どうかい)湾までの堀川運河とともに筑豊炭(ちくほうたん)や、米などの物資輸送に大きな役割を果たしたが、1891年(明治24)の鉄道開通後は衰退し、川艜(かわひらた)(五平太船)による水運は消滅した。現在では北九州市などの上水道、工業用水の重要水源となっており、八木山(やきやま)川上流の力丸(りきまる)ダムをはじめ、陣屋(じんや)(中元寺川)、畑(はた)(黒川)、久保白ダムなどが建設され、河口堰(ぜき)も1980年(昭和55)完成した。炭田最盛期には洗炭による水質汚濁が著しかったが、現在では浄化が進んでいる。
[石黒正紀]
出典 日外アソシエーツ「事典・日本の観光資源」事典・日本の観光資源について 情報
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