君子(読み)くんし

精選版 日本国語大辞典 「君子」の意味・読み・例文・類語

くん‐し【君子】

〘名〙
① 一般民衆より上位の立場にある人。高位・高官の人。政治を行なう人。為政者
※名語記(1275)六「君子は政道において、偏頗をなさせ給はざれば」 〔儀礼‐士相見礼〕
徳行のそなわった人。学識、人格ともにすぐれたりっぱな人。人格者。中国で、儒教道徳を身につけた教養人。一般に士大夫の階級に属する。また、広く他者に敬意を表わして用いる場合もある。⇔小人
※家伝(760頃)上「殊蒙厚恩、良過所望、豈无令汝君為帝皇耶、君子不食言、遂見其行」 〔書経‐大禹謨〕
③ 妻が夫に敬意をもっていうことば。わが夫。主人。
※文華秀麗集(818)中・奉和春閨怨〈菅原清公〉「四五芳期当礼。出従君子正為嬪」 〔詩経‐召南・草虫〕
東洋画で、梅・竹・菊・蘭の四君子(しくんし)をいう。
⑤ 「はす(蓮)」の美称。
※交隣須知(18C中か)二「蓮花 ハスノハナヲ クヮチフノ クンシト 申マス」
⑥ 「つる(鶴)」の美称。
菅家文草(900頃)四・早霜「君子夜深音不警、老翁年晩鬢相驚」

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デジタル大辞泉 「君子」の意味・読み・例文・類語

くん‐し【君子】

学識・人格ともにすぐれた、りっぱな人。人格者。「聖人君子
高位・高官の人。
東洋画画題としての、らんのこと。四君子しくんし
[類語]大人人士高士士人人間ひと人類人倫万物の霊長考えるあし米の虫ホモサピエンス人物じんもの聖人聖者聖女聖賢聖哲ひじり四聖仁者生き仏生き神

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改訂新版 世界大百科事典 「君子」の意味・わかりやすい解説

君子 (くんし)
jūn zǐ

学識,人格ともにすぐれた,道徳的にりっぱな人物。原義は,一般民衆よりも上位にあって,治政の立場に足る人の称。在位の身分ある為政者をさす。〈野人(やじん)〉あるいは〈小人しようじん)〉の対。とくに政権の主宰者,首長を〈君主〉ともいい,領土と臣民を保有する主権者の〈国君〉,臣下にたいする〈君王,主君〉をもさす。中国古代にあって,貴族階層の男性,“おっと”への敬称,君子偕老(かいろう)の〈君子〉など,のちの第二人称の〈君(くん)〉〈卿(けい)〉にあたる。才徳を兼ねそなえた人士は,孔子教祖とする儒家学団の修養目標であった。《論語》には,〈仁〉字と匹敵する100余例の〈君子〉の語が見え,そこでは礼楽文化に身をおき,孝悌秩序をわきまえ,仁・義といった思いやりのある,人として実践すべき積極的な教養を身につけた,士人の〈君子〉の出現をねがっている。つまり新しいタイプの知識階層による政権担当者(のちの士大夫官僚)を目ざした。かくて,儒教道徳の修得者と官位ある為政者との一致を,〈君子〉の理想とする考えが,ながく中国を支配した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「君子」の意味・わかりやすい解説

君子
くんし

中国において人間類型を示す語。最古歌謡『詩経』にみえるこの語は種々の意味を示す。(1)身分の高い人。「君子の依(よ)る所。小人の腓(したが)う所」(馬車についていう。采薇(さいび))。(2)夫または夫となるべき男。「君子于(ここ)に役す」(君子于役(うえき))。「未(いま)だ君子を見ず」(草蟲(そうちゅう))。(3)徳の高い人。「斐(ひ)たる君子有り」(淇奥(きいく))。(1)(3)の用法では「小人」に対する。孔子も(1)(3)両義に用いる。「君子の徳は風。小人の徳は草。草これに風を上(くわ)うれば、必ず偃(ふ)す」(『論語』顔淵(がんえん)篇(へん))の場合、君子は為政者。「君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る」(里仁(りじん)篇)というときは有徳者の意味。そして「君子は器ならず」(為政篇)というとおり、幅広い教養人。職人でない。

[本田 濟]

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普及版 字通 「君子」の読み・字形・画数・意味

【君子】くんし

もと貴族の男子をいう。のち才徳ある人をいう。〔論語、述而〕人は吾(われ)得て之れを見ざるも、君子を見るを得ば、斯(すなは)ち可なり。

字通「君」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「君子」の意味・わかりやすい解説

君子
くんし
jun-zi

中国で用いられた理想的人格の称。その起源は明確でないが,『詩経』の用例から推定すれば,周代には,族長または貴族の青年で,祭礼に神聖な役割をする者をさし,したがって最も好ましい人物とされ,またひいては治民階級の人をさすようになった。古代の儒家は,その賢人政治の主張を象徴する人物を君子とし,円満完全な聖人に次いで,学徳がそなわり,人民の模範となって指導するものと考え,君子を学問修養の目標とした。こののち君子は一般に貴人に対する尊称となったが,一部には揶揄的な称呼としても用いられた。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「君子」の解説

君子 (クンシ)

植物。バラ科の落葉小高木,園芸植物,薬用植物。ウメの別称

君子 (クンシ)

植物。キク科キク属の草の総称。キクの別称

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世界大百科事典(旧版)内の君子の言及

【逸民】より

…聖天子の尭に招かれても,これをけがらわしいとした許由(きよゆう)や,周の武王の治世でもその粟をくらわなかった伯夷(はくい)・叔斉(しゆくせい)などが,その典型とされる。生活態度は道家に近いが,儒家でも《論語》には〈邦に道なければ〉隠遁する人を〈君子〉として評価しており,民の声を示す暗黙の批判者として逸民を容認し尊重することが,為政者の務めとされる。3世紀に《高士伝》が出はじめ,《後漢書》の〈逸民列伝〉以後ほとんどの正史に隠逸,高逸,逸士などの列伝があるのは,そのころに逸民に対する評価が確立し,以後の中国社会に容認されたことを示す。…

【タケ(竹)】より

…タケの地下茎の広がりを止めるには,ビニル板の類をすきまなく土中深さ約80cmまで埋めこめばよい。【上田 弘一郎】
【タケと人間】

[中国]
 竹は節目正しく,まっすぐに生長し,冬にも青々としていることから,俗気のない君子の植物とされ,此君(しくん),君子,抱節君,処士などの異名をもつ。唐画では,梅,蘭,菊とともに〈四君子〉と称され,気品ある植物としてしばしば画材とされてきた。…

※「君子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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