(読み)くん

精選版 日本国語大辞典 「君」の意味・読み・例文・類語

くん【君】

[1] 〘名〙
王者。主君。→きみ(君)(一)①②。
② 同輩やそれ以下の者を親しみや軽い敬意をもっていう語。
※苦の世界(1918‐21)〈宇野浩二〉三「『鶴丸は?』と聞くと、『あの君(クン)は』と〈略〉へんな言葉ぐせをもって答へていふのに」
[2] 〘接尾〙
① 目上の人などの名前の下に付けて敬意を表わす。
浄瑠璃・関八州繋馬(1724)三「愚老は佐佐目の少弐(せうに)と申す者、武将頼光君(クン)へ直訴申すことあり」
② 同輩やそれ以下の者の名前の下に付けて親しみや軽い敬意を表わす。
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉八「守山さん。矢張小町田君(クン)は、お宅へお帰りなすッた方が宜しいでせう」
[補注]中国で、古くは重臣の称。後には王や諸侯などの称となった。日本では、おもに(二)が使われ、明治末年頃までは同輩以上の人にも用いたが、現在は、多く同輩や目下の者の名に付けて用いる。

ぎ【君】

語素〙 「あぎ」の形で、相手への呼びかけとして用いられる。「あ」は我、わがの意。「ぎ」は君の意であろうといわれる。
古事記(712)中・歌謡「いざ阿芸(あギ) 振熊(ふるくま)が 痛手負はずは 鳰鳥(にほどり)淡海の海に 潜(かづ)きせなわ」

ぎみ【君】

〘語素〙 他の語の下について、その語の表わす人を敬っていう語。「ちちぎみ(父君)」「あねぎみ(姉君)」「わかぎみ(若君)」

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デジタル大辞泉 「君」の意味・読み・例文・類語

きみ【君/公】

[名]
一国の君主。天皇。天子。
自分が仕えている人。主君。主人。「わが―」
人を敬慕・親愛の情をこめていう語。「いとしの―」
人名・官名などの下に添えて敬意を表す語。男女ともにいう。「師の―」
「明石の―」〈・若菜下〉
貴人や目上の人をいう語。お方。
「この―をば、私ものに思ほし」〈・桐壺〉
遊女。遊君。
「―達声をあげて…笑ひぬ」〈浮・一代男・五〉
古代のかばねの一。もと皇親系の尊号で、天武天皇の八色やくさの姓制では朝臣あそみ姓を与えられる者が多かった。
[代]二人称の人代名詞。
多く男が同等または目下の相手に対していう語。「―、一緒に行こう」
上代では多く女が男に対して、中古以後はその区別なく、敬愛の意をこめて相手をいう語。あなた。
「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや―が袖振る」〈・二〇〉
[下接語]大君十善の君万乗ばんじょうの君もうけの君嫁が君我が君(ぎみ)兄君姉君尼君父君母君姫君村君若君
[類語]お前貴様貴方あなたお宅・貴方様・あんたてめえおのれうぬそなたお主其方そちらそっち

くん【君】[漢字項目]

[音]クン(呉)(漢) [訓]きみ
学習漢字]3年
〈クン〉
民を支配する者。王侯。「君王君主君臨暗君主君神君大君暴君名君明君幼君
人を尊敬して呼ぶ語。「君子厳君細君夫君父君郎君
同輩や目下の者を呼ぶ語。「貴君諸君
〈きみ(ぎみ)〉「大君父君姫君若君
[名のり]きん・すえ・なお・よし

くん【君】

[接尾]同輩や目下の人の姓名に付けて、親しみや軽い敬意を表す。主に男性の用いる語。「中村
[補説]古くは目上の人に対する敬称として用いた。
[類語]さん殿

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「君」の意味・わかりやすい解説


きみ

古代の姓(かばね)の一つ。公とも記す。君は、多く開化(かいか)天皇の皇裔(こうえい)に与えられたが、その出自には問題がある。君姓氏族は330余を数え、畿内(きない)とその周辺に多いが、大部分は中小豪族である。一方、関東の上毛野君(かみつけぬのきみ)や北九州の筑紫君(つくしのきみ)のように大和(やまと)朝廷に反抗的な大豪族もあった。蝦夷(えみし)、隼人(はやと)の首長(しゅちょう)にも君が与えられた。八色(やくさ)の姓(かばね)制定(684)に際し、一部は朝臣(あそん)を賜姓され、とくに継体(けいたい)天皇以後の皇裔は最高位の真人(まひと)の姓(かばね)を賜ったが、政治的地位は高くなかった。

[前之園亮一]

『太田亮著『全訂日本上代社会組織の研究』(1955・邦光書房)』『阿部武彦著『氏姓』(1966・至文堂)』

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改訂新版 世界大百科事典 「君」の意味・わかりやすい解説

君 (きみ)

日本古代の(かばね)の一つ。公とも表記され,古くは有力豪族の尊称で首長の意。大和国家の王者が大王(おおきみ)と称するようになると,君は姓としてしだいに位置づけられ,その中で大王は君(公)の中の大なるものとして諸豪族に超越する立場を獲得した。君の姓を持つ地方有力豪族の例としては,上毛野(かみつけぬ)君,筑紫胸肩(むなかた)君などがあり,また応神天皇以後の皇族の後裔と称する皇親氏族も君の姓を有していた。息長公,酒人公氏などがその例である。684年(天武13)に制定された八色(やくさ)の姓では,もと君姓の氏族のうち皇親氏族が第1位の真人(まひと)を,地方有力豪族が第2位の朝臣(あそん)を与えられている。
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山川 日本史小辞典 改訂新版 「君」の解説


きみ

公とも。古代のカバネの一つ。本来は自己の仕える主人の尊称で,豪族の首長の尊称であった。君姓をもつものには,大三輪(おおみわ)君のような中央豪族もいるが,上毛野(かみつけの)君・下毛野(しもつけの)君・火君・大分(おおきた)君・胸形(むなかた)君のような国造級の地方大豪族,伊勢飯高(いいたか)君・犬上(いぬかみ)君・吉備品遅(きびのほんじ)君・磐梨別公(いわなすわけのきみ)のような畿内周辺の中小豪族の例が多い。684年(天武13)八色の姓(やくさのかばね)の制定に際して,守山公・路公(みちのきみ)など13氏に真人姓,大三輪君・鴨君など11氏に朝臣姓を賜与した。このときに賜姓にあずからなかった者はそのまま君・公姓を名のり,759年(天平宝字3)君姓の者は「公」の字を使用させることにしたが,その後も君・公姓はともに存続した。

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