翻訳|basalt
塩基性および苦鉄質火山岩の総称。カルシウムに富む斜長石(灰長石ないし亜灰長石)と輝石(普通輝石、ピジョン輝石、ときにチタン普通輝石、まれに斜方輝石)、橄欖(かんらん)石、磁鉄鉱などを主要鉱物とする。石基は短冊型の斜長石、粒状の磁鉄鉱により特徴づけられることが多い。色は暗黒色のものが多いが、暗灰色、赤褐色のものもあり、固結時の環境条件によって、多孔質、緻密(ちみつ)、細粒、粗粒、斑(はん)状などさまざまな外観を示す。貫入岩であって岩脈、岩床を形づくる粗粒なものは粗粒玄武岩とよばれる。これよりさらに粗粒なものは斑糲岩(はんれいがん)という。バサルトの名称は岩石の名前のうちでももっとも古いもので、古代ローマの博物学者プリニウスの博物誌に出ている。日本名は明治初年、兵庫県の玄武洞にちなんで名づけられた。元来、「玄」は黒いということを意味し、「玄武」は黒い亀(かめ)、あるいは単に亀を意味する。これは中国古来の四神の一つで、方位(北)の呼称でもある。寛政(かんせい)年間(1789~1801)儒学(じゅがく)者柴野栗山(しばのりつざん)によって命名された玄武洞は、この岩石が六角板状の柱状節理によって小さく割れて、それが黒い亀、玄武の形に似ていることに由来するらしい。
玄武岩は地殻を構成する物質のうち、もっとも分布が広く基本的なものであり、地球の内部を研究する重要な手掛りとなる。アメリカのR・A・デイリーは、世界各地に分布する玄武岩を研究して、玄武岩質マグマが火成岩の本源マグマであることを帰納的に論じた。一方、カナダのN・L・ボーエンは、玄武岩質マグマが唯一の本源マグマであるとして、これから結晶分化作用、反応原理などによって珪(けい)長質の花崗(かこう)岩質マグマをはじめとするあらゆるマグマ、超塩基性岩類をはじめとするあらゆる火成岩が導かれるとした。ボーエンはさらに、玄武岩に近い単純な化学組成の物質系について合成実験を行い、玄武岩質マグマが地球上でもっとも重要な物質系であるとする考え方を広めることに成功した。玄武岩質マグマが火口から空中ないし水中に放出されて発泡してできた空隙(くうげき)の多い火砕物が岩滓(がんさい)であり、細粒の場合は火山灰、火山砂、火山弾などとなる。これらは火山ガラス、橄欖石、輝石、灰長石、磁鉄鉱などからなることが多い。玄武岩質マグマが海水中で流動し、積み重なると枕(まくら)状溶岩となることが多い。地下で岩脈、岩床としてゆっくり冷え固まると、粗粒玄武岩あるいは斑糲岩となる。粗粒玄武岩のことを輝緑岩とよぶことがある。
玄武岩質マグマにはソレイアイト質、橄欖石玄武岩質、高アルミナ玄武岩質などの本源マグマが識別されており、これらはさらに海洋域、島弧、内陸部など産出する地域によって組成上の特徴が違っている。これらはいずれも超塩基性のマントル物質の部分溶融によって形成されるが、マグマ発生の深度、上昇途中のマグマ溜(だま)りの形状などのさまざまな条件によって異なった玄武岩となる。
スコットランドには各種の玄武岩が広く分布しており、玄武岩の研究がスタートした所でもある。玄武岩の広大な溶岩流としては、アイスランド、デカン高原、北アメリカのコロンビア川流域、南アメリカのパタゴニア、シベリア、モンゴリア地域、アラビア半島のものなどが著名である。日本では富士山、伊豆諸島、玄武洞、九州の唐津(からつ)をはじめとして広域にわたって玄武岩類が分布している。
[矢島敏彦]
地球上で最も多量にある火山岩。石基鉱物としてカンラン石,輝石,磁鉄鉱などの有色鉱物の割合が多いので暗灰色のものが多い。含まれる斑晶鉱物の種類により,カンラン石玄武岩,オージャイト玄武岩などに分けられ,無斑晶玄武岩も少なくない。マグマの粘性が低いために玄武岩の溶岩や岩脈の厚さはうすいことが多い。安山岩との間で組成は連続的に変わる。玄武岩は化学組成上,無水ケイ酸とアルカリの比に連続的変化があって,ソレイアイト玄武岩,カルクアルカリ玄武岩,アルカリカンラン石玄武岩に細分される。海洋底の表層を形成する岩石はソレイアイト玄武岩であり,特に深海性ソレイアイトと呼ばれることもある。ハワイ諸島のような海洋島の大部分もソレイアイト玄武岩でできている。カルクアルカリ玄武岩は島弧のカルクアルカリ安山岩に伴い少量認められることがある。アルカリカンラン石玄武岩は海洋島や島弧の内陸側に産する。高温高圧実験結果により,深海性ソレイアイトは,上部マントルの岩石の部分溶融がかなり進行してから上昇し始め,結晶分化しかけたマグマが海底に噴出してできたと考えられている。一方,アルカリカンラン石玄武岩は上部マントルの岩石の比較的少量が部分溶融して生じたと考えられる。アポロ計画の宇宙船で持ち帰られた月の岩石のほとんどは玄武岩か玄武岩起源の火山砕屑岩であった。月では30億年以上前までに火山活動が終わり,広い範囲が玄武岩でおおわれていると考えられている。火星や金星などの地球型惑星の表面にも玄武岩があるらしい。
玄武岩の名称は柱状節理のみごとな玄武岩がみられる兵庫県玄武洞の地名からとられた。玄武とは中国の四神である青竜,白虎,朱雀,玄武の一つで,亀あるいは亀に蛇が巻きついたものである。亀甲の生長線と柱状節理の断面とは類似した六角格子模様を示す。
執筆者:宇井 忠英
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火成岩のうち,火山岩に属し,その組成が塩基性である岩石の総称.basaltの語源はエジプトの石像の石,エチオピアの黒いち密な大理石,あるいは,ヨルダン東部の地名に由来するといわれる.日本語の玄武岩という用語は,兵庫県城崎の玄武洞に由来する.粒の大きなかんらん石を含むものを一般にかんらん石玄武岩,かすみ石や白りゅう石のようなアルカリ長石(準長石とよばれる)を含むものをアルカリ玄武岩などとよぶ.玄武岩は火山岩のなかでもっとも多量に分布し,玄武岩台地,火山島,海れいをつくる.SiO2は35~52% にわたっていて,SiO2が35~40% のものはアルカリ玄武岩が多い.はん晶のない,もっとも多量な玄武岩はトレイ質玄武とよばれ,SiO2が50~52% である.[別用語参照]マグマ,塩基性岩
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…これらを総称して火成岩とよぶ。地表でみられる火成岩類には多くの種類があるが,そのなかで最も多いのは,玄武岩と花コウ岩である。玄武岩は火山岩の代表的なものであり,花コウ岩は深成岩の代表的なものである。…
※「玄武岩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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