インジゴ
いんじご
indigo
古代から用いられてきた青色のバット染料。天然藍(あい)には、いくつかの成分が含まれているが、青色成分がインジゴで、インジゴチンともいう。天然藍中に存在するインジカンというインドキシルの配糖体を抽出し、発酵によりインドキシルを遊離させ、空気により酸化するとインジゴが生成する。
副成分としてインジルビン(赤紫色)、イソインジゴ等がある。イソインジゴは染料として価値がない。インジゴを濃色に染めると、赤みのある青となる。この理由としてインジルビンの存在が考えられたが、バット染色において分解することや、その色調からインジルビンの可能性は低く、赤みはインジゴのもつ光吸収スペクトルによるものと考えられる。
[飛田満彦]
現在では合成インジゴが主力である。化学構造はドイツのバイヤーによる長年の研究の結果決定されたものであるが、その研究途上において、1880年にo(オルト)-ニトロベンズアルデヒドあるいはo-ニトロケイ皮酸からの合成法が確立された。1890年にはフェニルグリシンをナトリウムアミドと融解してインドキシルをつくり、これを酸化するホイマン法が確立され、1897年にドイツのBASF社が工業生産を開始した。このことは合成インジゴが天然藍を駆逐して、現代の染料および化学工業発展の契機となったという意味で重要である。
[飛田満彦]
水やアルコールには溶けないが、亜二チオン酸や亜鉛で還元すると、淡黄色のインジゴホワイト(ロイコ体)となり水に溶ける。インジゴの染色には必要な操作である。この溶液(建浴(たてよく)あるいはバットvat)に木綿や羊毛を浸したのち、空気で酸化すれば、繊維上で青色のインジゴを再成する。染着性が高くないので、濃色を得るには建浴での浸染と空気による酸化を繰り返す必要がある。
耐光堅牢(けんろう)度は木綿上よりも羊毛上のほうが良好である。ジーンズの染色をはじめ、現在も多量に使用されている。
[飛田満彦]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
インジゴ
① 植物系の
天然染料の一つ。アイの葉を発酵させてつくる。一八八〇年、ドイツ人バイヤー(バイエル)が初めて合成。九〇年、ドイツ人ホイマンが工業的製法を発明。藍青色の光沢をもつ柱状結晶で、水に溶けない。もめん、麻、絹、羊毛などの染色に用いる。藍。
青藍。
藍靛(らんてん)・
(らんじょう)。
インド藍。〔舶来語便覧(1912)〕
② 青
藍色。濃いすみれ色。また、その絵の具。インド藍。
※社会百方面(1897)〈松原岩五郎〉椋鳥「是はインジゴなり、是は赤樺、是は銀鼠などとあらまし絵の具の名を教はるまでが丁寧にて」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
インジゴ
ローマ時代からインド特産の藍染(あいぞめ)原料として知られたマメ科コマツナギ属のうちの数種の総称。また天然染料藍(あい)の色素成分。1880年A.バイヤーが合成に成功。以来,天然の藍に代わって合成インジゴが用いられるようになった。インジゴは水に溶けないが,苛性ソーダとハイドロサルファイトを作用させると黄色に溶け,これに木綿を浸し,空中にさらすともとのインジゴに戻って濃青色に染まる。ブルー・ジーンズの流行で近年利用がもり返している。(図)→建染(たてぞめ)染料
→関連項目アイ(藍)|クニーチ
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
インジゴ
インジゴ
indigo
C16H10N2O2(262.27).C.I.7300,C.I.Vat Blue 1ともいう.天然藍(あい)の主成分.古くから知られた天然染料で,インジカンを含む植物を発酵させてつくられた.工業的には,N-フェニルグリシンをアルカリ融解してインドキシルとし,それを空気酸化して合成している.
金属光沢のある青色の柱状晶.昇華点約300 ℃,分解点390 ℃.キシレンに微溶,エタノールに難溶.木綿用の青色建染め染料であるが,パラフィン油やデカリン中では赤色を呈す.[CAS 482-89-3]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
インジゴ
indigo
天然藍の主成分。藍青色柱状晶。金属光沢をもつ。約 300℃で昇華。分解点 390~392℃ (封管中) 。水に不溶。アルカリ性水中で還元すると可溶性のインジゴホワイト (黄色) になり,これに繊維を浸してから空気酸化すると,インジゴが再生され青く染まる。藍は天然建染め染料の代表であったが,1880年 A.バイヤーが合成してから,合成藍 (インジゴピュア) に取って代られた。堅ろうな青色建染め染料である。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
インジゴ
C16H10N2O2 (mw262.27).

染料に使われる天然色素.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報
インジゴ【indigo】
マメ科のコマツナギ属Indigoferaの数種で,藍色の染料インジゴを採るために利用されていた植物の総称名,あるいは染料そのものの名称。小低木で,キアイ(木藍)とも呼ばれるが,それは藍染料をとる草本のアイ(タデアイ)と区別するためである。インドから東南アジア地域原産のナンバンアイI.tinctoria L.やI.sumatrana Gaertn.,I.arrecta Hochst.,熱帯アメリカ原産のナンバンコマツナギI.suffruticosa Mill.など10種近くある。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
世界大百科事典内のインジゴの言及
【コマツナギ】より
…晩夏から初秋にかけて桃色の花をつけるマメ科の小低木(イラスト)。馬の手綱をつないだことから,あるいは飼料になり馬を立ち止まらせることから,この和名がつけられたという。落葉の高さ30~100cmほどの草本的な小低木で,株の基部から多くの枝を出す。葉は奇数羽状複葉で,7~9月ころにその葉腋(ようえき)から総状花序を出し,多数の桃色の花をつける。花は小さく,長さ5mmほど。実は線形円柱状で長さ2.5~3cmの豆果。…
【化学工業】より
…それまでの鉛室法にかわって,亜硫酸ガスを直接酸素と反応させる接触法が開発され,以後,主流となっていった。この結果,硫酸が大量に安く手に入るようになり,インジゴ染料を工業的に合成することが可能になった。こうした染料をはじめとする合成化学工業では,バスフ(BASF)社などドイツの化学会社が研究開発をリードしていった。…
【合成染料】より
…しかし工業的な意味では,繊維を染色する染料,着色を目的とする有機顔料においては,天然染料は完全に合成染料に置きかえられてしまった。合成染料は1856年イギリスのW.H.パーキンがアニリンから赤紫色染料モーブを合成したのが端緒になり,80年にはドイツのJ.F.W.A.vonバイヤーにより天然の藍の主成分であるインジゴが合成され,4年後にはベッティガーP.Böttigerにより赤色の直接アゾ染料であるコンゴーレッドが,さらに1901年にはドイツのボーンR.Bohnにより青色の高級建染染料であるインダントロン(インダンスレン)の合成が行われた。これらはいずれも,合成染料の歴史上画期的な出来事であった。…
【薬用植物】より
…表に示したアントラキノイド,強心配糖体などがその例で植物的には無縁と思われる数科にわたって分布する。そのほかカフェインなどのプリン塩基はチャ(ツバキ科),コーヒー(アカネ科),カカオ,コラノキ(アオギリ科),ガラナ(ムクロジ科)およびマテチャ(モチノキ科)に,青色色素インジゴはアイ(タデアイ,タデ科),キアイ(マメ科),リュウキュウアイ(キツネノマゴ科)に分布する。医薬品【新田 あや】。…
※「インジゴ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報