イタリア語の原義は、小麦粉を水などの液体でこねた練り粉のことであるが、広義には硬質および軟質の小麦粉でつくるマカロニ、スパゲッティなどの乾燥パスタと、ラビオーリ、ラザーニャ、カネローネなどの生パスタの両方を総称することばである。
[西村暢夫]
日本でパスタということばが使われたのは、1965年(昭和40)6月に刊行された『イタリアパスタの研究』が最初である。それ以前はマカロニということばでパスタを代用させていた。小麦粉を水で練った食物という意味ではパスタの歴史は非常に古く、おそらく古代のローマあるいはそれ以前までさかのぼることができるであろう。13、4世紀のイタリアではニョッキ、ラザーニャ、ラビオーリのような生パスタが一般にかなり普及していたと考えられる。しかし乾燥パスタのほうはきわめて貴重なものであったらしく、13世紀のジェノバの公証人の残した財産目録にマカロニのことが記されている。14世紀ごろから自家製ベルミチェッリを専門に売る店ができ始め、16世紀には圧力機(プレス)が出現する。そのころパスタの乾燥は天日乾燥であり、気候の点で恵まれたナポリを中心に産業として発展していった。19世紀になると乾燥機が発明され、天日乾燥から人工乾燥へ変わっていった。そしてパスタ産業はナポリ特有のものではなく、イタリア全土へ、さらにはスイス、ドイツ、フランス、そして移民とともにアメリカへも普及していった。
[西村暢夫]
パスタの製造が機械で行われるようになってから、さまざまな形状のパスタが簡単につくられるようになった。スパゲッティよりもやや細めのスパゲッティーニ、天使の髪という意味で、さらに細くスープ用に使われるカッペリ・ダンジェロ、ペン先のような形をしているペンネ、マカロニよりひと回り太くて表面に筋(すじ)のあるリガトーニ、鳥の巣状のニード、エスカルゴ状のルマーケ、蝶(ちょう)の形のファルファッレ、スープの浮き実用に使われる星の形をしたステッリーネ、麦の穂状のセーミ・ディ・グラーノ、貝の形のコンキリエなどである。生パスタとしては、日本のひもかわに似たタリアテッレ、きしめん状のフェットチーネ、ラビオーリに似たアニョロッティ、帽子の形に似ているのでその名のついたカッペッレッティ、フェットチーネより少し幅の広いパッパルデッレなどいろいろある。
[西村暢夫]
パスタ料理はイタリア料理を代表するものであるといわれるように、北はベネチアから南はシチリアまで各地方ごとの特徴をもつパスタ料理が何百もある。古くはそれ自体たいへんな御馳走(ごちそう)であったパスタ料理が、いまでは昼食や夕食のコースの一品にすぎなくなってしまった。しかしそれは、パスタ料理の重要性が失われたということではない。むしろその逆で、パスタ料理こそ家庭の主婦の腕の見せどころである。とくに自分の住んでいる地方に伝わる料理法、各種ソースの作り方をマスターすることが主婦の条件の一つである。イタリアでは肉や魚は焼くかソテーするかの簡単な料理が多く、味つけも塩、レモン汁、オリーブ油などを用いて自然の持ち味をたいせつにする。ただし、パスタのソースは種類も豊富で、かつ地方色豊かなものが多い。それは、イタリア文化が各都市を中心に発展した多中心の文化であることと密接なかかわりがあるし、パスタが古い昔からのイタリア人にとって基本的な食物であったことと関係がある。
甘く熟した良質のトマトのたくさんとれるカンパニア州では、トマトをベースにしたナポリ風ソースが発達した。いわゆるナポリタンと日本でよばれているソースである。肉類の集散地ボローニャではボロニェーゼソース、いわゆるミートソースが発達した。バジリコの栽培に適したリグリア地方では、バジリコとマツの実を使ったペスト・ジェノベーゼが生まれ、シチリアでは島の特産であるイワシを使ったソースがつくられる。
ソースだけでなく、中に入る具にも地方色が出てくる。海に面した地方ではアサリやムールガイやイカなどの海産物をよく使い、内陸ではキノコやニンジンなどの山の幸が使われている。
[西村暢夫]
イタリア語でめん類のこと。広義には,小麦,豆,米など穀類の粉に,水,牛乳,卵などの液体とバター,油,塩,酵母,その他ピュレー状にしたホウレンソウなどの諸材料を,用途に応じて混入してこねあげた練り粉一般を指す。狭義には,パスタ食品のことで,スパゲッティ,マカロニ,ラザーニャ,フェットゥチーネなどを作るための,小麦粉と卵を基本材料とする練り粉とその製品の総称。パスタの起源については定かでないが,現在残る記録から13~14世紀にはすでにあったと推定されている。これはパスタの主原料である硬質小麦が,中世前半に生産が普及してきたといわれていることと関連しよう。
パスタ食品は,工業生産によって作られる乾燥パスタと,おもに家庭やレストランで作られる手打ちパスタに大別される。乾燥パスタは,硬質小麦(デューラム)をひいた精製粉であるセモリナ粉に,卵,水,塩などを加えて混ぜ合わせ,射出成型機に通し,残留水分が12~13%になるまで乾燥させて作られる。硬質小麦はグルテンの含有量が多く,パスタ製造の過程およびゆでる過程で小麦粉のデンプンを固める作用をもっている。したがって,乾燥パスタの完成品は半透明の琥珀色に硬結し,長期間の保存にたえる。乾燥パスタは,形状によっていろいろな名前がつけられている。細長い棒状タイプは,直径2mm前後のスパゲッティを標準に,それより細いものがベルミチェッリ(バーミセリ),スパゲッティより太いものはほとんどが内部に穴があいており,ブカティーニ,マカロニ,リガトーニの順に太くなっていく。このほか,蝶の形をしたファルファッラ,貝の形をしたコンキーリエ,車輪の形をしたルオーテなど数多くある。
手打ちパスタは,通常の小麦粉100gに卵1個の割合でこね合わせ,めん棒またはパスタ・マシンを使って薄い板状にのし,いろいろな形に切り分ける。手打ちパスタは,そば状に細長く切ったタリオリーニ,きしめん状に5~6mmの幅をもたせて切ったフェットゥチーネのようにゆでてソースであえるものと,ペースト状にした肉,生ハム,ソーセージ,チーズ,卵などを詰める詰物用のパスタに分けられる。詰物をしたパスタには,方形状のラビオリ,半円形状のアニョロッティ,帽子状のカッペレッティ,円筒状のカネロニなどがある。このほか,いろいろなソースであえてオーブンで焼く長方形のラザーニャもある。
パスタ食品は大部分が,トマトソース,ミートソース,ナポリタンソース,ベシャメルソースであえたり,ソースに乳製品,加工肉類,魚介類などの具を入れたりする。さらに,オーブンで焼きあげるなど,料理の種類は多い。
執筆者:木戸 星哲
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…1861年,近代統一国家が成立すると,産業革命の影響も受けて,中世紀的雰囲気は一挙に崩れた。この時機に,アルトゥージはイタリア各地の郷土料理の境界を取り除いて,スープ,ミネストレ(パスタ,ポレンタ,リゾットなどの総称),オードブル,ソース,卵,パイ生地,詰物,揚物,ゆで物,煮物,冷製,野菜,魚料理,焼物,菓子,トルテ,シロップ,保存食,リキュール,アイスクリーム,その他の項目別に整理することによって現代イタリア料理の基礎を確立したのである。 イタリアはローマ帝国以来の歴史的背景と,地中海に突出している地理的条件から,その料理も多様性に富んでいる。…
…フランス料理(2)イタリア料理 古代ローマ以来の長い歴史を誇るイタリアでは料理も早くから発達し,ルネサンスの時代には,フランス料理に影響を与えて,その発達の契機になったといわれる。恵まれた気候風土がもたらす豊かな産物と,食べることをひじょうに重視する国民性が結びついて,数多くのパスタ,地中海の海の幸を生かした魚介料理,トマトやオリーブ(オリーブ油)の多用などに特徴づけられる,個性豊かな料理が生み出された。各地方の伝統的な郷土料理が受けつがれているのも特色の一つで,あまり手をかけずに材料の持味を生かす,家庭的で素朴な料理が多い。…
※「パスタ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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