ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
ポルトガル文学
ポルトガルぶんがく
Portuguese literature
16世紀の大航海時代は,文学に異国趣味や冒険の香りを吹込み,特に詩や田園小説に影響を与えた。 L.V.デ・カモンイスは,抒情詩においても叙事詩においても卓越した才能を発揮し,人間の苦悩と時代の栄光を表現した。また 16世紀初期には宮廷劇が登場した。ポルトガル国民劇の創始者 G.ビセンテは,当時のポルトガル社会をいきいきと描き,大衆を大いにひきつけた。 1580~1640年はスペインに併合され,文学にとっても苦難の時代あった。スペインの影響を強く受けたが,それと同時にポルトガル文学はスペイン語訳を介して,広くヨーロッパに知られるようになった。これまでの田園小説の流行が続く一方で,新たに宗教や道徳を主題とした対話集が高度に洗練されたスタイルとなって現れた。 18世紀になるとポルトガル文学は改革の時代に入り,フランスの文学や哲学の影響を受けるようになった。詩の分野における新古典主義は極端に形式にこだわるあまり,真の古典主義の活力を失った。 18世紀後期には,抒情詩に新しいスタイルと作風が現れる。また,衰退を続けていた戯曲は,社会批判劇で絶大な人気を得たブラジル生れの A.J.ダ・シルバの作品によって再生したが,シルバは宗教裁判の犠牲となった。
19世紀初めに自由主義革命が起り,立憲君主制が確立されるのと呼応して,ロマン主義が流入した。戯曲や小説がはなやかに開花する一方で,詩は内省的なものになり,社会問題に着目した作品が多く生れた。 1870年には J.M.E.デ・ケイロースと J.J.C.ベルデらの新しい世代の作家たちが,ポルトガル近代化運動の一翼をにない,批判精神という新風を吹込んで小説や詩の分野でリアリズムを確立した。 20世紀に入ると,モダニズムと実験的な文学がポルトガル文学にそれまでにない様相を与えた。ポルトガルの近代主義を代表する詩人 F.A.N.ペッソアは国外でも高い評価を受け,その後の第2次近代主義運動,新写実主義の動きのなかで V.ネメージオ,A.デ・フィゲイレード,V.フェレイラ,F.ナモーラらが登場した。女流作家では『巫女 (みこ) 』で不動の地位を築いた M.A.B.ルイース,『新ポルトガル文』の共著者 M.V.ダ・コスタ,M.I.バレーノおよび M.T.オルタらが活躍している。
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