其方(読み)ソチラ

デジタル大辞泉 「其方」の意味・読み・例文・類語

そち‐ら【×方】

[代]
中称の指示代名詞
㋐聞き手に近い方向をさす。「其方は遠回りですよ」
㋑聞き手のいる、またはその方向にある場所をさす。「私のほうから其方に伺います」「其方はもう暖かくなりましたか」
㋒聞き手の近くにある物をさす。「其方はお買い得ですよ」
二人称人代名詞。聞き手自身、また聞き手の側をさす。「其方意見を聞かせてください」
三人称の人代名詞。聞き手のすぐそばにいる人をさす。同等以上の人に用いる。その人。「其方を私に紹介してください」
[補説]「そっち」よりも丁寧な言い方。
[類語](1其処そここちらこっちそっちあちらあっちかなた向こう/(2貴方あなたお宅・貴方様・あんたおまえ貴様てめえおのれうぬそなたお主そっち

そ‐な‐た【×方】

[代]
中称の指示代名詞話し手から遠い場所・方向などを示す。そちら。そっち。
少女は―を注視して」〈二葉亭訳・あひゞき
二人称の人代名詞。おまえ。
「―は夏中何をして暮されしや」〈渡部温訳・伊蘇普物語〉
[類語]貴方あなたお宅・貴方様・あんたおまえ貴様てめえおのれうぬお主其方そっち

そっ‐ち【×方】

[代]《「そち」の促音添加》中称の指示代名詞。「そちら」よりもややくだけた感じの語。「いま其方へ行くから待っててくれ」「悪いのは其方だ」→そちら
[類語]其処そこ此処こここちらこっちそちらあちらあっちかなた向こう

そ‐ち【×方】

[代]
中称の指示代名詞。そちら。そっち。
御膳ごぜんを―へこしらえよ」〈露伴五重塔
二人称の人代名詞。下位の者に対して用いる。おまえ。なんじ。
「―の事ぢゃが、何事を言ふぞ」〈虎明狂・張蛸

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「其方」の意味・読み・例文・類語

その‐かた【其方】

  1. [ 1 ] 〘 連語 〙 その方面。そちら側。
    1. [初出の実例]「内の大殿の君だちは、この君に引かれて、よろづに気色ばみわびありくを、その方のあはれにはあらで、下に心苦しう」(出典:源氏物語(1001‐14頃)胡蝶)
  2. [ 2 ] 〘 名詞 〙 それ以後。
    1. [初出の実例]「茲(こ)れ自り厥後(ソノカタ)、時政虞多し」(出典:大唐西域記長寛元年点(1163)一)
  3. [ 3 ] 〘 代名詞詞 〙
    1. 対称。同等以上の相手をさしていう。あなた。→そのほう
      1. [初出の実例]「そのかたの姫ぎみを、きさきにまいらせとのちょくしなり」(出典:御伽草子・岩竹(古典文庫所収)(室町末)上)
    2. 他称。相手側の、またはすぐ前に話題になった人物をさし示す(中称)。「そのひと」をさらに敬意をもって呼ぶとき用いる語。
      1. [初出の実例]「其かたの様に御化粧をすれば金田さんの倍位美しくなるでせう」(出典:吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉一〇)

そ‐な‐た【其方】

  1. 〘 代名詞詞 〙
  2. 他称。相手側に近い方向や、話題にのぼった方向をさし示す(中称)。そちら。
    1. [初出の実例]「常にさはがしうおはしますらむにとぶらはせ給ふを喜びてぞ、そなたにも参らまほしきを」(出典:多武峰少将物語(10C中))
    2. 「北の御障子も取りはなちて、御簾かけたり。そなたに人々はいれ給」(出典:源氏物語(1001‐14頃)鈴虫)
  3. 対称。下位の相手、もしくは対等の相手に用いる。「こなた」より相手を低く遇し、「そち」よりは待遇価値が高い。
    1. [初出の実例]「そなたには興福寺へいませ、我は〈略〉東大寺へまからんと云て」(出典:発心集(1216頃か)八)

其方の語誌

は、中世では丁寧な言い方で、同等あるいは目下の者に対して親愛とごく軽い敬意を表わしたが、近世では敬意を失い、対等もしくは目下に対して用いられた。


その‐ほう‥ハウ【其方】

  1. 〘 代名詞詞 〙
  2. 対称。対等もしくは下位の相手に対し武士・僧侶などが用いる。町人が用いるときは荘重な表現となる。
    1. [初出の実例]「我死て後位を其の方に伝んと云也」(出典:寛永刊本蒙求抄(1529頃)九)
  3. 他称。相手側に近い方向をさし示す(中称)。そっち。
    1. [初出の実例]「其の方の人が内でめされよ。こなたへ来てをかれ事はいやで候」(出典:古活字本毛詩抄(17C前)一六)
  4. 他称。相手側の物事、もしくは相手に近い物をさし示す。また、二つあるうちの相手に近い物をさし示す。
    1. [初出の実例]「其の方がおもしろい〈略〉唯、あんな雲だといって了へば其ッ切です」(出典:風流線(1903‐04)〈泉鏡花〉四八)

そっ‐ち【其方】

  1. 〘 代名詞詞 〙 ( 「そち(其方)」の変化した語 )
  2. 他称。
    1. (イ) 相手側の方角をさし示す(中称)。
      1. [初出の実例]「此先薤がそっちに多と聞たり」(出典:杜詩続翠抄(1439頃)五)
    2. (ロ) 二つ以上の事物のうち相手側に近い事物をさし示す(中称)。
      1. [初出の実例]「そっちじゃあねへ。コウ姉さんそっちのをみせな」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)初)
  3. 対称。対等もしくは対等以下の相手をさし示す。
    1. [初出の実例]「コレそっちのはなしばかりせずと、ちっとこっちへも、はなしをまはしてくれろ」(出典:洒落本・妓者呼子鳥(1777)三)

そ‐ち【其方】

  1. 〘 代名詞詞 〙
  2. 他称。相手側のいる方向をさし示す(中称)。そっち。そちら。
    1. [初出の実例]「引き放つ 箭の繁けく 大雪の 乱れて来れ(一云)霰なす 曾知(ソチ)より来れば」(出典:万葉集(8C後)二・一九九)
    2. 「御内は、そちからにげさしめ、我はこちからにげふと云て」(出典:史記抄(1477)一三)
  3. 対称。中世以降使用された語で、転用。多く下位の相手に用い、主として武士・男性が用いた。「そなた」より敬意が低い。
    1. [初出の実例]「そちがもったる方書を、すっと棄て」(出典:史記抄(1477)一四)

そち‐ら【其方】

  1. 〘 代名詞詞 〙
  2. 他称。
    1. (イ) 相手側の方向・場所や、二つ以上の事物のうち相手側に近い事物をさし示す(中称)。〔ロドリゲス日本大文典(1604‐08)〕
      1. [初出の実例]「なぜに又そちらへ行かしゃったぞ」(出典:狂言記・丼礑(1660))
    2. (ロ) 相手側の、もしくは相手の近くにいる他人をさし示す(中称)。
  3. 対称。下位の相手をさす。おまえたち。また、おまえ。
    1. [初出の実例]「そちらが知らうず事ではないぞ」(出典:史記抄(1477)一七)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android