(読み)かさね

精選版 日本国語大辞典 「累」の意味・読み・例文・類語

かさね【累】

[一] 承応・寛文一六五二‐七三)頃の、下総国(千葉県)羽生(はにゅう)村の百姓与右衛門の妻。醜女であるうえ嫉妬深いところから、鬼怒川で夫に殺害され、その怨念は一族にたたるが、祐天上人の祈りによって解脱したという因縁ばなしの主人公。歌舞伎浄瑠璃に仕組まれて、近世演劇に「累物(かさねもの)」と呼ばれる系統を形成している。
[二] 新内節。義太夫節薫樹累物語(めいぼくかさねものがたり)」の歌詞を転用、「身売」「土橋」「法印場」の三段より成る。

るい【累】

〘名〙
① かさなり。かさね。
② 身に覚えのないところから及んできた災難。特に、ある人についての悪い事態の影響が、責任のない他人にまで及んだもの。まきぞえ。とばっちり。
※文明本節用集(室町中)「累 ルイ 無罪流放義也」 〔孔叢子‐抗志〕
③ 古代中国での重さの単位。十黍(じっしょ)(=約〇・一五匁)の重さをいう。〔制度通(1724)〕 〔漢書‐律歴志上〕

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デジタル大辞泉 「累」の意味・読み・例文・類語

るい【累】

他から受ける災い。巻き添え。迷惑。「一族にが及ぶ」「将来にを及ぼす」
[類語]巻き添えとばっちりそばづえ後腐れ影響刺激煽り作用響く差し響く跳ね返る祟る災いする反響反映反応反動反作用波紋余波皺寄せ弾みを食う煽りを食う側杖を食う手応え歯応え物議を醸すインパクトリアクションレスポンスフィードバック

かさね【累】

承応・寛文(1652~1673)ごろ、下総しもうさ羽生はにゅう村にいたという醜女しこめ。夫与右衛門に殺され、その怨念は一族にたたったという。歌舞伎浄瑠璃に脚色され、近世演劇に累物かさねものという一系統を形成している。
歌舞伎舞踊清元本名題色彩間苅豆いろもようちょっとかりまめ」。松井幸三作詞、初世清元斎兵衛作曲。文政6年(1823)江戸森田座で、「法懸松成田利剣けさかけまつなりたのりけん」の二番目序幕として初演。
新内節義太夫節伊達競阿国戯場だてくらべおくにかぶき」などの詞章を転用したもので、「身売」「土橋」「法印場」の三段からなる。

るい【累】[漢字項目]

常用漢字] [音]ルイ(呉)(漢)
次々とつながり重なる。つみ重ねる。「累加累計累日累積累代累卵累累
回を重ねて。しきりに。「累次累進
かかわり合いになる。足手まとい。「係累俗累煩累連累
[名のり]たか

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「累」の意味・わかりやすい解説


かさね

伝説上の女性、およびこれを脚色した戯曲の通称。伝説は下総(しもうさ)国羽生(はにゅう)村(茨城県常総(じょうそう)市)法蔵寺に伝わる因縁話で、承応(じょうおう)~寛文(かんぶん)(1652~73)ごろ、醜婦の累が嫉妬(しっと)深さのため夫与右衛門(よえもん)に殺され、その怨念(おんねん)が一族にたたったが、祐天上人(ゆうてんしょうにん)の祈りで解脱(げだつ)したというもの。これを素材に多くの歌舞伎(かぶき)脚本、浄瑠璃(じょうるり)がつくられ、「累物(かさねもの)」とよばれる一系統になった。最初の作といわれるのは津打治兵衛(つうちじへえ)の『大角力藤戸源氏(おおずもうふじとげんじ)』(1731)。その後、「身売りの累」とよばれる『伊達競阿国戯場(だてくらべおくにかぶき)』(1778・初世桜田治助(じすけ)作)をはじめ多くは伊達騒動に織り込まれて脚色、江戸後期には怪談劇の要素も強くなった。その代表作は4世鶴屋南北(なんぼく)の『阿国御前化粧鏡(おくにごぜんけしょうのすがたみ)』(1813。通称「湯上りの累」)および『法懸松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん)』(1823)などで、後者の序幕道行(みちゆき)『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)』は清元の舞踊「かさね」として大いに流行している。

[松井俊諭]

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改訂新版 世界大百科事典 「累」の意味・わかりやすい解説

累 (かさね)

歌舞伎舞踊。清元。本名題《色彩間苅豆(いろもようちよつとかりまめ)》。1823年(文政6)6月江戸森田座で,4世鶴屋南北作の《法懸松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん)》の二番目序幕として初演。作詞松井幸三,作曲初世清元斎兵衛。配役は与右衛門を7世市川団十郎,累を3世尾上菊五郎。絹川与右衛門は腰元の累と結ばれたが,出世のために女を捨て出奔木下(きね)川堤で累に追いつかれいったんは心を和ませるが,そのとき川辺にどくろが流れ寄る。12年以前与右衛門は,累の母菊と密通し,夫の助を殺したが,このどくろこそ助のものであった。因果によって累は醜女に変貌し積年の恨みを述べるので,与右衛門は鎌で惨殺してしまう。
累物
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「累」の意味・わかりやすい解説


かさね

邦楽曲名。 (1) 歌舞伎舞踊曲。清元節。本名題『色彩間刈豆 (いろもようちょっとかりまめ) 』。文政6 (1813) 年江戸森田座『法懸松成田利剣 (けさかけまつなりたのりけん) 』の二番目除幕に3世尾上菊五郎 (累) と7世市川団十郎 (与右衛門) によって初演。累の父の助 (すけ) を殺した与右衛門とそうとは知らずに心中しようとした累が,父の恨みによって醜婦となり,与右衛門に惨殺されるという怪談。鶴屋南北作。2世松井幸三作詞。1世清元斎兵衛作曲。藤間大助振付。 1920年,東京歌舞伎座における6世尾上梅幸による復活後,流行曲となる。原作に近づけた6世菊五郎の型を流布している。 (2) 新内節『鬼怒川物語』の通称『累身売り』の略。安永 (1772~81) 頃,1世鶴賀若狭掾作曲といわれている。

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朝日日本歴史人物事典 「累」の解説

江戸時代の怪談物の女主人公。浄土宗の僧祐天の霊験譚『死霊解脱物語聞書』(1690)によれば,累は下総国岡田郡羽生村(千葉県銚子市)に障害を持って生まれたという。夫の与右衛門に殺されたのち,怨霊となり,夫の後妻を次々に殺し,6人目の妻の子「菊」の口を借りて物語するが,偶然居合わせた祐天の法力で解脱する。さらに,累の不幸には,あまりの醜さのため父に殺された異母姉妹「助」の怨霊が関与していたことが明らかにされる。この一連の物語は,のちに人の怨念が他人に重ね合わされるという「累物」というジャンルを形成し,歌舞伎や浄瑠璃,落語などで盛んに上演された。<参考文献>高田衛『江戸の悪霊祓い師』

(小松和彦)

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百科事典マイペディア 「累」の意味・わかりやすい解説

累【かさね】

歌舞伎舞踊劇および清元節の曲名。本名題《色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)》。1823年初演。松井幸三作詞,初世清元斎兵衛作曲。茨城県常総市羽生町の法蔵寺に伝わる伝説に基づいたもの。人妻と密通しその亭主の助を殺した浪人の与右衛門は,のち奇しくもその娘の累と通じることになったが,助の怨念(おんねん)で累は醜女に変わり,与右衛門は恐怖のあまり彼女を殺す。
→関連項目清元斎兵衛

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「累」の解説


(通称)
かさね

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
累解脱蓮葉 など
初演
元文4.7(江戸・市村座)


(別題)
かさね

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
かさね
初演
明和1(大坂・中山文七座)

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【阿国御前化粧鏡】より

…7幕14場。通称《お国御前》《湯上りの累(かさね)》。別名題《かさね菊絹川染》《音菊家怪談(かねてきくおいえのばけもの)》《室町殿所好(このみの)番組》《累扇月姿鏡(かさねおうぎつきのすがたみ)》《菊累音家鏡(きくがさねゆずりのすがたみ)》。…

【清元延寿太夫】より

…生来の美音家であるのに加えて時代の好みに乗り,庶民に歓迎された。初演した語り物に《保名(やすな)》《(かさね)》《山姥(やまんば)》など。(2)2世(1802‐55∥享和2‐安政2) 初世の子の岡村藤兵衛。…

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