精選版 日本国語大辞典「吟」の解説
ぎん‐・ずる【吟】
[1] 〘自サ変〙 ぎん・ず 〘自サ変〙 うめく。鳴る。
※名語記(1275)二「龍の吟ずる音」
※幸若・信太(室町末‐近世初)「亡霊なれば土屈より御声いづる事もなし。さくさくとしたる風のをと、松に吟するばかりなり」
[2] 〘他サ変〙 ぎん・ず 〘他サ変〙
※保元(1220頃か)下「或ひは金谷の花をもてあそび、或ひは南楼の月に吟じ」
※虎明本狂言・音曲聟(室町末‐近世初)「うう、などといふをてうしをぎんずるといふ」
※仮名草子・竹斎(1621‐23)下「私も発句を一つ致さんとて、暫しぎんじて有ければ」
② 話をする。語る。
※洒落本・白狐通(1800)粉頭「此あとの二人のこんたんはこんど吟(ギン)じやせう」
③ 吟味する。
※歌舞伎・与話情浮名横櫛(切られ与三)(1853)八幕「何、あんばいはぎんじてござります」
④ ⇒ぎんじる(吟)②
[語誌]「詠ず」が詩歌等を誦し、あるいは作るという意に限られて用いられるのに対し、「吟ず」は(一)のように自然界の事物等が音声を発する場合に自動詞として用いられたり、(二)のように試みに声に出してみるとか、ある種の調子を伴って声を出すといった、より広い意味で他動詞として用いられたりしている。
ぎん【吟】
〘名〙
① 詩歌などを作ったり声に出してうたったりすること。吟じること。吟詠。また、昆虫などが良い声で鳴くのにもいう。→吟ずる。
※新撰朗詠(12C前)上「吟急にしては残灯光正に背け、夢驚いては孤枕涙乾き難し〈大江以言〉」
※いさなとり(1891)〈幸田露伴〉九〇「物悲しく鳴く蟋蟀の吟(ギン)に寝覚の寂しさを覚えて」
② 中国で、歌、曲、引などとともに、古詩、楽府題に用いられる文字の一つ。白頭吟、梁甫吟など。
※本朝文粋(1060頃)一・貧女吟〈紀長谷雄〉「貧女吟 紀納言」
※曲附次第(1423頃)「詞の吟(ギン)を本風にしてよみつつくる詠音なれば」
④ 三味線の勘所(かんどころ)の一つ。また、その勘所によって奏される澄んだ音。豊竹座一派で好んで用いたもので、東風(豊竹座風)にだけある。
※今昔操年代記(1727)上「播摩太夫生年の頃より音曲を好みフシ、ヲクリ、三重、ヲン、フシヲクリ、ハル、ギン、此類に心をくばり」
ぎん・じる【吟】
〘他ザ上一〙 (サ変動詞の「吟ずる」が上一段活用に転じた語)
① =ぎんずる(吟)(二)①
② 服装、容姿を美しく飾る。めかす。やつす。江戸時代、文化文政期(一八〇四‐三〇)から天保期(一八三〇‐四四)へかけての流行語。吟ずる。
※浄瑠璃・箱根霊験躄仇討(1801)七「皆々うつくの嚊娘、ぎんじ立てて出る中に」
しなける【吟】
〘自動〙 (活用未詳) うめく。うなる。
※色葉字類抄(1177‐81)「吟 シナケル 忍泣也」
ぎん‐・ず【吟】
〘自他サ変〙 ⇒ぎんずる(吟)
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