控える(読み)ヒカエル

デジタル大辞泉 「控える」の意味・読み・例文・類語

ひか・える〔ひかへる〕【控える/×扣える】

[動ア下一][文]ひか・ふ[ハ下二]

用事順番に備えて、すぐ近くの場所にいて待つ。待機する。「次の間に―・える」
㋑目立たないようにしてそばにいる。「主人の後ろに―・えている」
㋒空間的・時間的に迫っている。近くに位置する。また、近い将来に予定される。「後ろに山が―・えている別荘」「決戦の日が三日後に―・えている」「幾多の難問題が―・えている」

㋐度を越さないように、分量度数などを少なめにおさえる。節制する。「酒を―・える」「塩分を―・える」
自制や配慮をして、それをやめておく。見合わせる。「外出を―・える」「発言を―・える」
[補説]2㋐㋑について、「抜歯後はお酒を控えてください」とあった場合、㋐の「少なければ飲んでもいい」の意味ではなく、㋑の「自制して飲まない」の意味ととらえるのが妥当であろう。「アルコールを摂取した場合は運転を控えてください」は、明らかに㋑の意味である。
㋒忘れないように、また、念のため書きとめておく。「日程を―・える」「要点を―・える」
衣服などを、おさえつかんで、行かせないようにする。引きとめる。「そでを―・える」「馬を―・えて待つ」
㋔引く。引っぱる。
「後ろに背負ひたれば、いとどすね弱く力なき身の、あとざまに―・ふるやうにて、道なほ進まず」〈笈の小文
[補説]中世以降はヤ行にも活用した。→ひか
[類語](1㋐)居合わせるいらっしゃる・おられる・おいでになるおわすおわしますましますある待つ待機する待ち構える待ち受ける待ち設ける待ち伏せる待ち侘びる待ちあぐむ待ちあぐねる待ちくたびれる待ち明かす待ち伏せ待ちぼうけ心待ち鶴首満を持す手薬煉てぐすね引く首を長くする爪を研ぐ身構える身構えスタンバイ控え待ち遠しい待ちどお待ち望む待ち焦がれる待ち兼ねる待望切望熱望希求願う一日千秋腕をさする腕をしびれを切らすそわそわ待てど暮らせど待ち切れない/(1㋑)はべする侍坐じざする/(2㋐)慎む抑える節する差し控える憚る節制する/(2㋑)見合わせるやめる自粛する自重じちょうする自戒自制自律禁欲差し控える遠慮する打ち切る切り上げるよす断つ中止するとりやめる手を引く放り出す見送る思いとどまる踏みとどまる休止停止中断中絶ストップ沙汰止みお流れ立ち消え途絶断絶/(2㋒)める書き記す書き付ける録する記録するメモするノートする

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「控える」の意味・読み・例文・類語

ひか・えるひかへる【控・扣】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 ア行下一(ハ下一) 〙
    [ 文語形 ]ひか・ふ 〘 自動詞 ハ行下二段活用 〙
    1. 進まないで待つ。待機する。
      1. [初出の実例]「釣舟のつりのを垂れて、みづの上にひかへたり」(出典:兼盛集(990頃))
    2. 傍にかまえる。側にじっとしている。手を出さないでおとなしくする。
      1. [初出の実例]「まこと、かの物縫ひし夜ひかへたりけるは此の君也けりと」(出典:落窪物語(10C後)三)
    3. ( 自分から先にしないで相手の言葉を待つ意から ) 特に、やくざなどの作法で、あいさつを受けるのを待つことをいう。普通、あいさつの口を切る側が「おひかえ願います」などのように言う。
  2. [ 2 ] 〘 他動詞 ア行下一(ハ下一) 〙
    [ 文語形 ]ひか・ふ 〘 他動詞 ハ行下二段活用 〙
    1. おさえて引きとどめる。引きおさえる。つかまえる。おさえつける。
      1. [初出の実例]「もみぢのちる木のもとに、むまをひかへてたてるを」(出典:古今和歌集(905‐914)秋下・三〇五・詞書)
    2. 内輪にする。節制する。遠慮する。
      1. [初出の実例]「もしたのみしにほこりなばいかがと思ひ候へばひかへて侍り」(出典:古今著聞集(1254)一)
    3. 留めておく。残しておく。待機させる。
      1. [初出の実例]「越筥根山相州扣馬候。近日武州え可進御旗候」(出典:親元日記‐寛正六年(1465)一〇月一二日)
    4. 見合わせる。やめにしておく。
      1. [初出の実例]「その一事をばひかへて、教へざりけり」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一四)
    5. にぎる。つかむ。手にとる。
      1. [初出の実例]「中尊の御手の五色の糸をひかへつつ〈略〉御念仏ありしかば」(出典:平家物語(13C前)灌頂)
    6. 引く。引っ張る。
      1. [初出の実例]「下襲は縫ひ出でて、表衣折らんとて、いかで、あこぎ起さんとの給へば、少将、ひかへんとの給ふ」(出典:落窪物語(10C後)一)
    7. 側に準備する。手元におく。
      1. [初出の実例]「なにがしがなにがしに、しょりゃうをそへて、たまはるうへ、なんのしさひのあるべきと、ひとつたんぶと、ひかへたまへば、しももしだひにとをるなり」(出典:説経節・をくり(御物絵巻)(17C中)八)
    8. 時間的・空間的にその近くに位置を占める。
      1. [初出の実例]「遠くの向ふに、明かな日光の暖かに照り輝く海を控(ヒカ)へて」(出典:永日小品(1909)〈夏目漱石〉暖かい夢)
    9. 手元に書き留めておく。後日に備えて記録しておく。メモする。
      1. [初出の実例]「かう、義雄の手帳に控へられた」(出典:断橋(1911)〈岩野泡鳴〉一一)

控えるの補助注記

室町時代頃からヤ行にも活用した。→ひかゆ(控)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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