武蔵野(国木田独歩の小説)(読み)むさしの

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

武蔵野(国木田独歩の小説)
むさしの

国木田独歩(どっぽ)の短編小説。1898年(明治31)1月と2月に『今の武蔵野』と題して『国民之友』に掲載。のちに、第1作品集『武蔵野』(1901)に収めるときに『武蔵野』と改題。武蔵野の秋から冬にかけての落葉林の美、野、路と夏、武蔵野の範囲や水流、町はずれなど、武蔵野の自然から受けた感じを多面的に描いた散文である。また、96年秋から97年春まで渋谷でのわび住まいの日記、ツルゲーネフ二葉亭四迷(ふたばていしめい)訳『あひびき』(1888)や95年の「小金井散策」などをも収め、構成している。落葉林の詩趣への理解は、ツルゲーネフの『あひびき』に負うところが多い。自然と生活、人間生存への視点にはワーズワースの影響がみられる。独歩の自然観、人生観を示す代表作。

[中島礼子]

『『武蔵野』(岩波文庫・旺文社文庫・角川文庫・新潮文庫)』

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