狂う(読み)クルウ

デジタル大辞泉 「狂う」の意味・読み・例文・類語

くる・う〔くるふ〕【狂う】

[動ワ五(ハ四)]
精神正常な調和がとれなくなる。気が違う。気がふれる。「気が―・う」「―・ったようにわめく」
物事機械の働きや状態が正常でなくなる。「時計が―・う」「音程の―・った歌声」「歯車が―・う」
ねらい・見込みなどが外れる。予測・計画通りにならない。「手元が―・う」「見通しが―・う」
物事に異常に熱中して見さかいがつかなくなる。おぼれる。「かけ事に―・う」「女に―・う」
(他の動詞の下に付いて)普通の程度を越えて激しく動き回る。ひどく…する。「踊り―・う」「荒れ―・う」
神霊・もののけが取りついて、普通ではない行動をする。神がかりになる。
「こは物に―・はせ給ふか」〈宇治拾遺・一五〉
激しく動き回ったり、舞い踊ったりする。
ひとへに死なんとぞ―・ひける」〈平家・四〉
ふざける。じゃれつく。
「あれ御亭ごてさん、―・ひなんすな」〈洒・遊子方言
[類語]狂乱狂気乱心奇人変人変物変わり者変わり種難物怪人変質者狂人左巻き発狂瘋癲ふうてんふれる気がふれるきちがいかき乱す乱す崩す乱れる崩れる破綻

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「狂う」の意味・読み・例文・類語

くる・うくるふ【狂】

  1. 〘 自動詞 ワ行五(ハ四) 〙 精神、動作、状態などが正常、通常と違うようになる。
  2. 神霊や物の怪(け)がとりつく。神がかりする。また、そのために精神や動作が正常でなくなる。
    1. [初出の実例]「卜者(かみなぎ)に託(クルヒ)て言はく『其の産める二つの石は、是れ我が子なり』といふ」(出典:日本霊異記(810‐824)下)
    2. 「おのれ等狐のつきて狂ふか」(出典:読本・春雨物語(1808)死首のゑがほ)
  3. 精神状態が正常でなくなる。
    1. [初出の実例]「若し狂(クルヘ)る婦(めのこ)有りて、兄の志を成すものならば」(出典:日本書紀(720)垂仁五年一〇月(北野本訓))
    2. 「狂った智恵子は口をきかない」(出典:智恵子抄(1941)〈高村光太郎〉風にのる智恵子)
  4. 常軌を逸して激しく動く。
    1. (イ) 舞や芸事などを演じて、激しく動く。激しい踊をする。転じて、単に舞踊をする意にも用いる。
      1. [初出の実例]「いかにも物おもふけしきを本意にあてて、くるふ所を花にあてて、心を入てくるへば」(出典:風姿花伝(1400‐02頃)二)
    2. (ロ) あばれる。あばれまわる。
      1. [初出の実例]「溷(かはや)の中之(の)(クル)へる豕の譬(こと)し」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)四)
      2. 「たのむところは腰刀、ひとへに死なんとぞくるいける」(出典:平家物語(13C前)四)
  5. 我を忘れて、ある物事に熱中する。
    1. (イ) 夢中になる。一途に、ある物事にふける。
      1. [初出の実例]「なをそのこころありて、くるう事あらは」(出典:薩摩入来院家文書‐建長二年(1250)一〇月二〇日・渋谷定心置文案)
    2. (ロ) とくに、色事に熱中する。密通姦通をする。
      1. [初出の実例]「中間の角平と狂(クル)はれ、夜ぬけにして二人づれで所を立のかれしが」(出典:浮世草子・世間娘容気(1717)六)
  6. じゃれつく。ふざける。たわむれかかる。
    1. [初出の実例]「あまたの小姓衆いかほどくるへども少もしかりたまはず」(出典:随筆・戴恩記(1644頃)上)
  7. 物事が、正常、通常の状態や予定などと違った状態になる。
    1. (イ) 正常な状態と違うようになる。乱れる。
      1. [初出の実例]「クニガ curù(クルウ)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      2. 「リイゾン 道理を弁別する力 もよっぽど狂(クル)って居るヨ」(出典:当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉三)
    2. (ロ) 予定や見込みなどが違ったものになる。はずれる。ずれる。
      1. [初出の実例]「おかしげにくるへる菊の花見んとたちよれる人の腹や把ゑん」(出典:狂歌・徳和歌後万載集(1785)三)
      2. 「日取りが狂(クル)って予期より早く産気づいた細君は」(出典:道草(1915)〈夏目漱石〉八〇)

狂うの補助注記

も、古くは、のような原因、理由を意識していたものと思われる。また、(イ) も、歌舞の呪術的性格から、同様に考えられる。なお、語源は、神がかりして激しく旋回運動をする動作から、回転するさまをいう「くるるに」と同じか。

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