デジタル大辞泉
「玄武岩」の意味・読み・例文・類語
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げんぶ‐がん【玄武岩】
- 〘 名詞 〙 火山岩の一種。塩基性斜長石と輝石や橄欖石(かんらんせき)を主成分とする灰黒色から黒色の緻密(ちみつ)、細粒の岩石。斑(はん)状を呈することが多い。化学組成により、ソレイアイト質玄武岩、アルカリカンラン石玄武岩、カルクアルカリ玄武岩に分類される。ふつう溶岩流や岩床として産出する。
- [初出の実例]「其の玄武岩聳立の最も顕著なるは」(出典:日本風景論(1894)〈志賀重昂〉四)
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玄武岩
げんぶがん
basalt
塩基性および苦鉄質火山岩の総称。カルシウムに富む斜長石(灰長石ないし亜灰長石)と輝石(普通輝石、ピジョン輝石、ときにチタン普通輝石、まれに斜方輝石)、橄欖(かんらん)石、磁鉄鉱などを主要鉱物とする。石基は短冊型の斜長石、粒状の磁鉄鉱により特徴づけられることが多い。色は暗黒色のものが多いが、暗灰色、赤褐色のものもあり、固結時の環境条件によって、多孔質、緻密(ちみつ)、細粒、粗粒、斑(はん)状などさまざまな外観を示す。貫入岩であって岩脈、岩床を形づくる粗粒なものは粗粒玄武岩とよばれる。これよりさらに粗粒なものは斑糲岩(はんれいがん)という。バサルトの名称は岩石の名前のうちでももっとも古いもので、古代ローマの博物学者プリニウスの博物誌に出ている。日本名は明治初年、兵庫県の玄武洞にちなんで名づけられた。元来、「玄」は黒いということを意味し、「玄武」は黒い亀(かめ)、あるいは単に亀を意味する。これは中国古来の四神の一つで、方位(北)の呼称でもある。寛政(かんせい)年間(1789~1801)儒学(じゅがく)者柴野栗山(しばのりつざん)によって命名された玄武洞は、この岩石が六角板状の柱状節理によって小さく割れて、それが黒い亀、玄武の形に似ていることに由来するらしい。
玄武岩は地殻を構成する物質のうち、もっとも分布が広く基本的なものであり、地球の内部を研究する重要な手掛りとなる。アメリカのR・A・デイリーは、世界各地に分布する玄武岩を研究して、玄武岩質マグマが火成岩の本源マグマであることを帰納的に論じた。一方、カナダのN・L・ボーエンは、玄武岩質マグマが唯一の本源マグマであるとして、これから結晶分化作用、反応原理などによって珪(けい)長質の花崗(かこう)岩質マグマをはじめとするあらゆるマグマ、超塩基性岩類をはじめとするあらゆる火成岩が導かれるとした。ボーエンはさらに、玄武岩に近い単純な化学組成の物質系について合成実験を行い、玄武岩質マグマが地球上でもっとも重要な物質系であるとする考え方を広めることに成功した。玄武岩質マグマが火口から空中ないし水中に放出されて発泡してできた空隙(くうげき)の多い火砕物が岩滓(がんさい)であり、細粒の場合は火山灰、火山砂、火山弾などとなる。これらは火山ガラス、橄欖石、輝石、灰長石、磁鉄鉱などからなることが多い。玄武岩質マグマが海水中で流動し、積み重なると枕(まくら)状溶岩となることが多い。地下で岩脈、岩床としてゆっくり冷え固まると、粗粒玄武岩あるいは斑糲岩となる。粗粒玄武岩のことを輝緑岩とよぶことがある。
玄武岩質マグマにはソレイアイト質、橄欖石玄武岩質、高アルミナ玄武岩質などの本源マグマが識別されており、これらはさらに海洋域、島弧、内陸部など産出する地域によって組成上の特徴が違っている。これらはいずれも超塩基性のマントル物質の部分溶融によって形成されるが、マグマ発生の深度、上昇途中のマグマ溜(だま)りの形状などのさまざまな条件によって異なった玄武岩となる。
スコットランドには各種の玄武岩が広く分布しており、玄武岩の研究がスタートした所でもある。玄武岩の広大な溶岩流としては、アイスランド、デカン高原、北アメリカのコロンビア川流域、南アメリカのパタゴニア、シベリア、モンゴリア地域、アラビア半島のものなどが著名である。日本では富士山、伊豆諸島、玄武洞、九州の唐津(からつ)をはじめとして広域にわたって玄武岩類が分布している。
[矢島敏彦]
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玄武岩
細粒のマフィック質の火山岩で,主成分はオージャイト,ラブラドライト~Na-バイトゥナイトと,不透明鉱物(チタンオージャイト,ときにチタン鉄鉱)を含む岩石の一般名.さらに,副成分として橄欖(かんらん)石,石英,低Ca-輝石(ピジョン輝石または斜方輝石)があるかないかによって,ソレアイト質玄武岩とアルカリ橄欖石玄武岩とに区分する.主成分,副成分の斑晶または微斑晶が存在する.ガラス,緑泥石はあったりなかったりする.
玄武岩の名称は紀元前よりエジプトで建築材あるいは装飾品に用いられた古語であって,黒色ないし暗灰色緻密な岩石に用いられた.当時すでに玄武岩の語は地質学の祖として有名なローマのストラボ[Strabo : 63 BC~24 AD]が使用したといわれており,この岩石はエチオピアにいたエジプト人が見つけ,ベーサナイト(basanite)と呼んだことをプリニウスが記載している[Pliny : 77].この岩石の記述は簡単で,黒い色の石のことをいい,basaniteの名称はギリシャ人によって試金石として使用されたものである.この当時の玄武岩が現在のものと同じかどうかは不明であり,おそらくは輝緑岩などの緻密な塩基性岩の一部が,玄武岩の名称の中に含まれていたと推定される.バサルト(basalt)という岩石名はアグリコラ[G. Agricola : 1546]が初めて使用し,ドレスデン近くの黒い柱状の岩石に用いた.この岩石はプリニウスが記述した岩石と同様のものである.なおアイヒホルツ(Eichholz)たちによれば,この語はエジプト語のbekhenの訳で,暗色の石でグレイワッケであるとしている.おそらくbasaltの語はbasaniteを誤って写した結果らしい[Buttman & Sellig : 1894, Tomkeieff : 1983].
玄武岩は緻密堅固で肉眼的に構成鉱物や組織を鑑定するのは困難である.熔岩流で層状に産出するために火成岩か堆積岩かという論争があり,18世紀後半より19世紀にかけて数十年の間,花崗岩と共に火成論者,水成論者の間で議論があり,当時の著名な学者(例えばJ. E. Guettard, N. Desmarest, A. G. Werner, L.von Buch, J. F. d'Aubusisson, R.Jameson)が参加した.これらの論争は火成論に決着して,その後は岩質の研究が中心となった.コルディエルは玄武岩が輝石,ラブラドライト,ときに橄欖石で構成される岩石であるとした[Cordier : 1819].レオナルドは粒度で三大別し,細粒のものを玄武岩,粗粒のものをドレライト,中粒のものをアナメサイト(anamesite)と呼んだ[Leonhard : 1832].しかしアナメサイトという名称はその後用いられていない.一方スタイニンガーは,玄武岩の中でインターサータル構造の石基中にラブラドライトあるいはバイトゥナイトの斑晶のあるものをソレアイト(tholeiite)と呼んだ[Steininger : 1840].また斜方輝石を含む玄武岩がパラティナイト(palatinite)と呼ばれたが[H. Laspeyres : 1869],この語はほとんど使用されていない.
その後顕微鏡岩石学の発展とともに詳細な研究が行われるようになり,ツィルケルは玄武岩を,長石玄武岩,ネフェリン玄武岩,リューサイト玄武岩と三大別した[Zirkel : 1870].ローゼンブッシュは一般の玄武岩以外に橄欖石玄武岩を重視し,また玄武岩が斑糲(はんれい)岩の流出型であることを明らかにした[Rosenbusch : 1877, 1887].さらにティールやゲーキーの研究によって,玄武岩はかなり性質の判然とした代表的な火成岩の一つであることが次第に明らかになってきた[Teall : 1888, Geikie : 1888].玄武岩は鉱物成分,化学成分,構造,産状などが輝緑岩と最も類似しており,また成因的にも最も密接な関係にあるものなので,輝緑岩を研究するためには玄武岩を知ることが重要であると考えられる.ギリシャ語のbasanosは試金石の意味があり,またこの石が豊富に産するヨルダン東部のBashanの地名に由来するという考えがある[歌代ほか : 1978].日本語の玄武岩は1885年に玄武洞に因んで命名された.basaltはプリニウスの写本におけるbasanaiteの読み違いで,basanaiteはギリシャ語のbasanites(lithos)で試金石(basanos)の意味であり,究極的にはエジプトの硬砂岩(bhn(w))から来ている[ランダムハウス : 1994].
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玄武岩 (げんぶがん)
basalt
地球上で最も多量にある火山岩。石基鉱物としてカンラン石,輝石,磁鉄鉱などの有色鉱物の割合が多いので暗灰色のものが多い。含まれる斑晶鉱物の種類により,カンラン石玄武岩,オージャイト玄武岩などに分けられ,無斑晶玄武岩も少なくない。マグマの粘性が低いために玄武岩の溶岩や岩脈の厚さはうすいことが多い。安山岩との間で組成は連続的に変わる。玄武岩は化学組成上,無水ケイ酸とアルカリの比に連続的変化があって,ソレイアイト玄武岩,カルクアルカリ玄武岩,アルカリカンラン石玄武岩に細分される。海洋底の表層を形成する岩石はソレイアイト玄武岩であり,特に深海性ソレイアイトと呼ばれることもある。ハワイ諸島のような海洋島の大部分もソレイアイト玄武岩でできている。カルクアルカリ玄武岩は島弧のカルクアルカリ安山岩に伴い少量認められることがある。アルカリカンラン石玄武岩は海洋島や島弧の内陸側に産する。高温高圧実験結果により,深海性ソレイアイトは,上部マントルの岩石の部分溶融がかなり進行してから上昇し始め,結晶分化しかけたマグマが海底に噴出してできたと考えられている。一方,アルカリカンラン石玄武岩は上部マントルの岩石の比較的少量が部分溶融して生じたと考えられる。アポロ計画の宇宙船で持ち帰られた月の岩石のほとんどは玄武岩か玄武岩起源の火山砕屑岩であった。月では30億年以上前までに火山活動が終わり,広い範囲が玄武岩でおおわれていると考えられている。火星や金星などの地球型惑星の表面にも玄武岩があるらしい。
玄武岩の名称は柱状節理のみごとな玄武岩がみられる兵庫県玄武洞の地名からとられた。玄武とは中国の四神である青竜,白虎,朱雀,玄武の一つで,亀あるいは亀に蛇が巻きついたものである。亀甲の生長線と柱状節理の断面とは類似した六角格子模様を示す。
執筆者:宇井 忠英
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玄武岩【げんぶがん】
全岩のSiO2の質量比が45〜52%で,Na2O+K2Oが5%以下の火山岩。黒色または暗灰色の細粒緻密(ちみつ)な岩石で,長石と輝石を主成分とし,短冊状斜長石の小粒が任意に配列する中に輝石が散在する間粒状組織が特徴。カンラン石を10%前後伴うものをカンラン石玄武岩と呼び,それ以上含むものはピクライト質玄武岩とか大洋岩と呼んで区別する。かなり多量のアルカリ長石や準長石を含むものをアルカリ玄武岩という。玄武岩は全火山岩の95%以上を占め,大洋地域や安定大陸地域の火山はおもに玄武岩からなり,特に後者ではアルカリ玄武岩が楯(たて)状火山や大規模な溶岩台地を形成する。火成岩成因論からみると玄武岩質マグマはすべての火成岩の根源と考えられ,玄武岩自身もソレイアイト質の玄武岩とカンラン石玄武岩の2系統に区別されている。→玄武岩質層/マグマの分化
→関連項目砕石|粗粒玄武岩|月(天体)
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玄武岩
げんぶがん
basalt
暗灰色 (色指数 40~70) の苦鉄質火山岩。溶岩や浅所貫入岩として産し,地球上で最も量の多い火山岩。特に,ほとんどすべての海洋底は玄武岩によってできている。陸上でも,インドのデカン高原など,広大な溶岩台地を形成することがある。火星や金星 (地球型惑星) にも多量に存在する。玄武岩の名は兵庫県豊岡市の玄武洞に由来し,六角柱状の節理の集まった状態がカメの甲羅のような観を呈することによる。一般に緻密で斑状組織を示す。斑晶はカルシウムに富む斜長石,輝石,橄欖石で,石基は細粒の斜長石,輝石,磁鉄鉱の微晶からなるものが多い。化学組成によって,二酸化ケイ素成分が多く (飽和または過飽和) ,アルカリ成分 (酸化カリウム+酸化ナトリウム) の乏しいソレアイト質玄武岩と,二酸化ケイ素が少なく (不飽和) アルカリ成分 (酸化カリウム+酸化ナトリウム) に富むアルカリ玄武岩に分けられる。さらにアルミナ Al2O3 に富み,その他の点で前2者の中間的性質をもつ高アルミナ玄武岩を区別することもある。マントルの橄欖岩の部分融解によって玄武岩質本源マグマが発生するが,その深さの違い,部分融解の程度の違いなどを反映して,いろいろな玄武岩が生じるものと考えられる。
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玄武岩
ゲンブガン
basalt
火成岩のうち,火山岩に属し,その組成が塩基性である岩石の総称.basaltの語源はエジプトの石像の石,エチオピアの黒いち密な大理石,あるいは,ヨルダン東部の地名に由来するといわれる.日本語の玄武岩という用語は,兵庫県城崎の玄武洞に由来する.粒の大きなかんらん石を含むものを一般にかんらん石玄武岩,かすみ石や白りゅう石のようなアルカリ長石(準長石とよばれる)を含むものをアルカリ玄武岩などとよぶ.玄武岩は火山岩のなかでもっとも多量に分布し,玄武岩台地,火山島,海れいをつくる.SiO2は35~52% にわたっていて,SiO2が35~40% のものはアルカリ玄武岩が多い.はん晶のない,もっとも多量な玄武岩はトレイ質玄武とよばれ,SiO2が50~52% である.[別用語参照]マグマ,塩基性岩
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
世界大百科事典(旧版)内の玄武岩の言及
【火成作用】より
…これらを総称して[火成岩]とよぶ。地表でみられる火成岩類には多くの種類があるが,そのなかで最も多いのは,玄武岩と花コウ岩である。玄武岩は火山岩の代表的なものであり,花コウ岩は深成岩の代表的なものである。…
※「玄武岩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」