藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい)(読み)ふじわらのしゅんぜい

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい)
ふじわらのしゅんぜい
(1114―1204)

平安末、鎌倉初期の歌人。正式には「としなり」と読む。権中納言(ごんちゅうなごん)俊忠(としただ)の三男。母は伊予守敦家(あついえ)の女(むすめ)。10歳で父と死別。葉室顕頼(はむろあきより)の養子となり、53歳で本流に復するまでが顕広(あきひろ)、63歳で正(しょう)三位非参議皇太后宮大夫(だいぶ)で出家するまでが俊成、後の30年が釈阿(しゃくあ)(別号阿覚(あかく)、澄鑒(ちょうかん))を称した法体歌壇重鎮の期間である。通称五条三位。養父が「夜の関白」と称された実力者であり、妻の美福門院(びふくもんいん)加賀の縁もあってか、青年期にあたる鳥羽(とば)院政期には、美作守(みまさかのかみ)、加賀守、遠江(とおとうみ)守、三河守、丹後(たんご)守などを歴任したが、中年以降は官位停滞、不遇感のうちに出家するに至り、以後、子孫の官途に家門の栄光の回復を託することになる。

 詠作活動は18歳ごろから本格化し、両度の『為忠家百首』など、岳父丹後(たんご)守為忠家歌壇での習作期を経て、保延(ほうえん)6、7年(1140、1141)の『述懐百首』を縁として30代には崇徳(すとく)院歌壇で活躍、『久安(きゅうあん)百首』出詠を中心に古典摂取の詠作手法を確立、同百首の部類を崇徳院から命ぜられるなど、歌壇的地位を確保した。本流に復した50代以降は平氏全盛期にあたるが、「住吉社歌合(すみよしやしろうたあわせ)」「建春門院北面歌合」「広田社歌合」「別雷(わけいかずち)社歌合」など全歌壇的規模の歌合判者を務める一方、私撰(しせん)集『三五代集(さんごだいしゅう)』(『千載(せんざい)集』の前身と推定される)の編纂(へんさん)を進めて、六条藤家(ろくじょうとうけ)の清輔(きよすけ)に拮抗(きっこう)する歌壇指導者となった。そして出家後、摂家の九条兼実(かねざね)家歌壇に迎えられ、1188年(文治4)75歳の『千載集』撰進で名実ともに第一人者となるのである。しかしながら、彼が歌学者としてもっとも充実した仕事をしたのは晩年の10年で、文治(ぶんじ)・建久(けんきゅう)期(1185~1199)の後京極良経(ごきょうごくよしつね)家、正治(しょうじ)・建仁(けんにん)期(1199~1204)の後鳥羽(ごとば)院歌壇を舞台に『六百番歌合』『慈鎮和尚自歌合(じちんかしょうじかあわせ)』その他多くの歌合加判、『古来風躰抄(こらいふうていしょう)』執筆などを通じて、保守派の歌道師範家であった六条家の歌学を圧倒するとともに、後進の指導にあたり、新古今歌風形成に大きな役割を果たした。76歳の『五社百首』以降『仁和寺(にんなじ)五十首』『正治初度百首』『千五百番歌合百首』、91歳秋の『祇園社(ぎおんしゃ)百首』と最後まで創作意欲も衰えず活躍し、後鳥羽院から九十(ここのそじ)賀宴を賜り、元久(げんきゅう)元年11月30日、幸運のうちに91歳の生涯を閉じた。家集に『長秋詠藻(ちょうしゅうえいそう)』『俊成家集』があり、13種の百首歌を遺している。また『古来風躰抄』『古今問答』『万葉集時代考』『正治奏状』『三十六人歌合』などの歌学書、秀歌撰があり、約40種の歌合判詞を書き、勅撰集『千載集』を編んだ、足跡の大きな歌人であった。『詞花(しか)集』以下の勅撰集に418首が入集(にっしゅう)するなど、当代、後代の評価も高い。

 平安朝の和歌史は『古今集』以来、漢詩に拮抗する公的文芸としての可能性が追究され、題詠歌としての題の本意(歌題に内在する美的本性)の開拓が作意の主流となった。しかし平安末の動乱期に至って、それまでの単純な主知的手法に行き詰まりが生じ、主情性の回復が求められた際、古典摂取の詠作手法を開拓して問題の克服にあたったのが俊成であった。「やさしく艶(えん)に、心も深く、あはれなるところもありき」(後鳥羽院御口伝)と評された彼は単なる叙情詩人だったのではなく、歌の韻律性と映像効果から醸成される微妙な余情美を知的手法によって構成させるという歌論の指導者でもあった。定家、家隆、良経らの新古今歌風を開花させたその理論は、近時京都冷泉(れいぜい)家秘庫から出現した俊成自筆『古来風躰抄』に息づかいのままにみることができる。

[松野陽一]

 又や見む交野(かたの)の御野(みの)の桜狩(さくらがり)花の雪散る春の曙(あけぼの)

『松野陽一著『藤原俊成の研究』(1973・笠間書院)』『塚本邦雄著『日本詩人選 23 藤原俊成・藤原良経』(1975・筑摩書房)』『『藤原俊成 人と作品』(『谷山茂著作集 2』所収・1982・角川書店)』


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