(読み)おそい

精選版 日本国語大辞典 「襲」の意味・読み・例文・類語

おそい おそひ【襲】

〘名〙 (動詞「おそう(襲)」の連用形の名詞化)
① 上を覆うもの。覆い。
※枕(10C終)九九「卯の花のいみじう咲きたるを折りて、〈略〉おそひ・棟などに、ながき枝を葺きたるやうにさしたれば」
表着(うわぎ)。うわおそい。おすい。
③ 屏風のふちの木。おそいぎ。
正倉院文書‐天平宝字五年(761)一二月二八日・矢口公吉人屋丈尺勘注解「於蘓比二枝 枝別長三丈九尺方五寸」
④ 馬の鞍(くら)
書紀(720)欽明天皇二三年六月(寛文版訓)「熟而熟(つらつら)視れば、皇后の御鞍(オソヒ)なり」
⑤ 屋根の板のおさえ。おそいだけ。
源平盛衰記(14C前)三四「弓矢なき者は襲(ヲソヒ)の石木を以て打ければ」

おすい おすひ【襲】

〘名〙 上代の上着の一種。頭からかぶって衣服の上を覆い、下はすそまで長く垂れた衣装。祭や旅のときに使用した。おそい。
古事記(712)上・歌謡「大刀が緒も いまだ解かずて 淤須比(オスヒ)をも いまだ解かねば」
[語誌]覆うの意の動詞「おそふ(襲)」の連用形「おそひ」と同根の語とされ、他に同根の語かといわれるものに「おそき(襲着)」がある。用例に見るように当初は、男女兼用であったが、後には、儀式の際に女性が着用するものをいうようになったらしい。

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デジタル大辞泉 「襲」の意味・読み・例文・類語

しゅう【襲】[漢字項目]

常用漢字] [音]シュウ(シフ)(漢) [訓]おそう かさね
〈シュウ〉
おそいかかる。「襲撃襲来奇襲逆襲急襲強襲空襲夜襲来襲
あとを引きつぐ。「襲名因襲・承襲・世襲踏襲
〈かさね(がさね)〉「下襲
[名のり]そ・つぎ・より
[難読]熊襲くまそ

おそい〔おそひ〕【襲】

上着。女房などが、うちき・打ちぎぬの上に着たもの。
「御―はいづれをか奉らむ」〈宇津保・内侍督〉
上を覆うもの。覆い。
「車の簾、かたはらなどに挿し余りて、―、棟などに」〈・九九〉
屏風びょうぶの縁を押さえる添え木。襲木おそいぎ
「―にはみな蒔絵まきゑしたり」〈栄花・衣の珠〉
屋根板を押さえる石や木。
「今朝、―の石、水門へおびただしく落ちて候ふほどに」〈戴恩記

おすい〔おすひ〕【襲】

古代の衣服の一。頭からかぶって衣服の上を覆い、下は裾まで長く垂れたきぬという。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「襲」の意味・わかりやすい解説


かさね

重ね長着の略で、長着を二領(2枚)また三領を一組にして、重ねて着用し、これを二枚襲、三枚襲という。下着は表着(うわぎ)と同形で、重ね着によって表着の形を整え、装飾効果と保温の役を果たした。その源流平安時代装束にみられる。季節により袷(あわせ)、綿入れ、口綿入れ(袖口(そでぐち)と裾(すそ)ふきだけに綿を入れる)、単襲(ひとえがさね)がある。

 江戸中期ごろから武士や富裕な町人などが、重ね着によって豪華な装いをした。武家では黒五つ紋付の表着に、上輩はねずみ色無垢(むく)(無垢とは表と共布の裾回しのついたもの)、中輩は紋付の下に小紋、縞(しま)の下には縞または小紋の下着を重ねた。白無垢の下着を着ることのできるのは上級武士のみであった。江戸後期には男子に重ね羽織といって羽織を2枚着ることも行われた。

 女子の礼装には打掛の下の間着(あいぎ)(白、緋(ひ))、その下に白無垢の下着を1、2枚重ねた。黒以外の色紋付裾模様無垢は、対(つい)下着の二枚襲が着られ、紋付以外の晴れ着にもすべて下着を重ねた。この重ね着の風習は明治の末まで続いたが、大正末から訪問着の流行により、また1923年(大正12)の関東大震災以後の簡略化により、黒紋付の礼装以外の襲は廃れた。男女とも下着を二領重ねる場合は、対(つい)の下着といって共色、共生地を用いるのが多かった。表着と下着を共色、共生地にすることもあった。また比翼(ひよく)仕立てといい、胴一領に下着回りだけ二領にみせるように仕立てたものもあった。京阪で回り下着、江戸で額仕立てといわれたものは、周囲だけ下着の布にして、胴を別布にしたものである。

 現在、礼服として用いられるのは二枚襲で、男子は黒羽二重(はぶたえ)の染抜き五つ紋付の無垢の表着にねずみ色羽二重の無垢の下着を着るが、一部に白無垢も用いられている。女子は黒縮緬(くろちりめん)の染抜き五つ紋付裾模様に白羽二重無垢の下着を着るが、最近は女子の下着は付け比翼が多くなっている。喪服は黒羽二重染抜き五つ紋付無垢に白羽二重の下着を重ねるのが正式であるが、下着なしの一枚着が多くなっている。女子の夏礼装の単襲は平絽(ひらろ)、絽縮緬の紋付裾模様に、下着は白の麻、平絽、練緯(ねりぬき)をつける。襲仕立ては和裁技術のなかでも、とくに高度な技術を要する。二枚襲の仕立て上りの寸法は、下着を表着の寸法より、やや詰める。

[岡野和子]

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改訂新版 世界大百科事典 「襲」の意味・わかりやすい解説

襲/重 (かさね)

長着を重ねて着ること,またはその組合せの長着をさす。二枚襲,三枚襲があり,二枚襲は表着(うわぎ)を,三枚襲は中着(なかぎ)を基準寸法とし増減して仕立て,袖,襟をそろえていっしょに着る。襲の源流は〈襲色目〉という言葉もあるように,平安時代の装束に求められる。江戸時代には一般でも真冬の小袖は表着と下着の二枚襲とし,白の下着は大名のみとされていた。その後,襲物は礼装のきまりとして,色違同柄をつけた振袖二枚襲,三枚襲の花嫁衣装,男物黒羽二重五つ紋付に鼠色羽二重の下着,留袖や喪服の白の下着の二枚襲が用いられた。現在は喪服の下着は失われつつあり,振袖の花嫁衣装は打掛に変わり,男物紋服の下着も略された。わずかに残っている留袖の白の付比翼は,襲下着の略式化されたものである。振袖などにつける伊達襟は,これをいっそう簡略化したもの。
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百科事典マイペディア 「襲」の意味・わかりやすい解説

襲【かさね】

衣服を重ねて着ること。重とも書く。平安時代の十二単(じゅうにひとえ)が代表的。近年では婚礼衣装や留袖などの式服にその形式が残っている。ふつう2枚重ねで,下着は上着より寸法が控えめに仕立てられる。衿や袖口,裾など,2枚の着物を重ねて着たように見せる仕立てを比翼(ひよく)といい,現今の留袖はほとんどこの形式。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【法衣】より

…僧尼の着用する衣服。袈裟(けさ)も広義には法衣に属するが,狭義には袈裟の下に着る衣服を法衣とか衣(ころも)といい,その種類や着衣の様式,材質,色合いは多種多様である。(1)褊衫(へんさん)という短衣の上着に,裙子(くんす)という下裳を着ける様式。仏教伝来以来あり,鎌倉時代には主として禅家の間で上下を縫い合わせた直綴(じきとつ)を着用するようになった。(2)褊衫と裙子に擬したもので,上体に(ほう),下体に(も)を着る様式。…

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