横手盆地と秋田平野との生産地帯を結び、近世には農業用水として田地を潤すとともに輸送動脈の役割を果した。秋田藩にとっての重要性を、安永元年(一七七二)の塩谷伯耆久綱御家老勤中日記(国典類抄)には「根元右川筋之儀者御領内院内より之水源ニ而仙北三郡数多之川筋落合、御物川と申、全く一領一躰之川筋」と記している。
秋田市南部の雄物川を古代に
また
雄物川を御物川と説くのは、仙北地方年貢米が大量に運ばれたからという説があるが、その量は古くは不明。
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
秋田県南部を北西流して日本海に注ぐ川。一級河川。延長133キロメートル、流域面積4710平方キロメートル。山形県境に近い湯沢市上院内(かみいんない)の南沢付近に源を発し、横手盆地の西縁を北流し、大仙(だいせん)市花館(はなだて)付近で最大の支流玉川と合流し、出羽(でわ)山地を穿入(せんにゅう)蛇行しながら秋田平野に入り、秋田市の中心市街地近くで日本海に注ぐ。かつては土崎港を河口としていたが、土砂の堆積(たいせき)と洪水による被害を防ぐため、1938年(昭和13)新屋(あらや)の北側の砂丘を切断して分水路を開き、河道を日本海に直進することに成功した。開削で掘り上げられた土は茨島(ばらじま)一帯の湿地を埋め立て、工業用地とした。茨島から土崎までの旧河道は現在運河として利用され、沿岸には工場が立地する。支流は玉川のほか、成瀬(なるせ)川、皆瀬(みなせ)川、役内(やくない)川、旭(あさひ)川(横手川)、岩見川など80余に及ぶ。1905年(明治38)現在のJR奥羽本線の開通までは、物資の輸送路として舟運が盛んであった。鵜巣(うのす)、大久保(羽後町)までは大型船が遡航(そこう)し、河口の土崎湊(みなと)は西廻航路(にしまわりこうろ)の港でもあり繁栄した。川筋のおもな河港は新屋、大正寺、刈屋野(かりやの)、大曲、角間川(かくまがわ)などで、流域の米、木材などを搬出した。雄物川はまたサケの遡上する川として知られ、川筋には多くの漁場があった。現在はサケの孵化(ふか)放流を行っている。
[宮崎禮次郎]
秋田県南部、平鹿郡(ひらかぐん)にあった旧町名(雄物川町(まち))。現在は横手市雄物川町で、市の南西部を占める。旧雄物川町は、1955年(昭和30)沼館(ぬまだて)町を中心に里見、福地の2村と、明治村の一部が合併して成立。町名は町内を北流する雄物川にちなむ。2005年(平成17)増田、平鹿、大森、十文字(じゅうもんじ)の4町および山内(さんない)、大雄(たいゆう)の2村とともに横手市に合併。国道107号が東西に走る。沼館は清原(きよはら)氏が古代沼柵(ぬまのき)を設けた地との説があり、中世には小野寺氏の居城が置かれた。江戸時代は秋田藩領で、雄物川沿岸の深井、手取には雄物川舟運の舟着き場があった。稲作中心の農業が主産業で、養鶏、養豚、果樹栽培も行う。
[宮崎禮次郎]
『『雄物川町郷土史』(1980・雄物川町)』▽『『雄物川町郷土史人物編』(1995・雄物川町)』
秋田県南部,湯沢市上院内南沢に源を発し,横手盆地を北流,出羽山地を先行谷で横切り,秋田平野に出て,日本海に注ぐ河川。幹川流路延長133km,全流域面積4710km2で,県内第1の河川。幹川および皆瀬川・成瀬川上流は,明確な構造谷を流れ,横手盆地中央部では,真昼山地麓の複合扇状地に押されて西偏する。盆地出口の大仙市中西部や秋田市南部四ッ小屋付近は,流路変遷が著しく,数多くの河跡湖や自然堤防が発達する。元来,土崎港(現,秋田港)から日本海に注いだが,秋田市の水害除去と,港湾の水深保持のため,1938年新屋(あらや)北部に新水路を通じ,旧水路は運河となった。戦後,流域の洪水防止,灌漑用水確保,電源開発などのため,上流に皆瀬,鎧畑,相野々,岩見,旭川のダムが構築され,大型の玉川ダムは90年に完成。雄物川は,県最大の穀倉地帯である横手盆地と秋田平野を灌漑し,また秋田市に上水・工業用水を供給している。西仙北町付近の河川改修や強酸性の玉川毒水の中和処置などが今後の課題である。水量多く緩流のため,近世には,仙北米の一大生産地帯や院内,荒川などの鉱山をひかえ,舟運はきわめて盛んであった。角間川以下(下川)は緩こう配で,大船(1000~2000俵積み)が通い,上流(上川)も鵜巣,大久保までは小船(500~600俵積み)が上下した。それより上流は80俵積みの小船で,本流は湯沢,皆瀬川は戸波まで遡(さかのぼ)った。おもな河港として,下川では河口の土崎,新屋,新波(あらわ),刈和野,神宮寺,大曲,角間川,上川では大森,沼館,深井,鵜巣,大久保など。塩,魚,機械類(鉱山向け),砂糖を上げ,米を主に,豆類,材木,薪炭を下げ,角間川,大曲は土崎とともに繁栄した。1905年の奥羽本線開通により,物資輸送は鉄道に代わったため,河港は衰退した。本流域は県下最大の生産地帯,人口集積地帯であり,流域の代表的都市としては秋田市はじめ,大仙市の旧大曲市,横手市,湯沢市がある。
執筆者:北条 寿
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