〘自カ上一〙 (カ変動詞「でくる(出来)」の上一段化したもの)
[一] 出てくる。現われる。
※百丈清規抄(1462)二「
竺法蘭のこちへできらるるに逢てつれてきたそ」
※
浮世草子・日本永代蔵(1688)一「泉州に唐かね屋とて金銀に有徳なる人出来
(デキ)ぬ」
[二] 新しく存在するようになる。
① 物事が生じる。発生する。生まれる。起こる。
※平家(13C前)九「海河の、俄にできても候はばこそ」
※
滑稽本・
浮世風呂(1809‐13)二「コレ、見な。こんなに痣
(あざ)が出来
(デキ)たア」
※青べか物語(1960)〈
山本周五郎〉留さんと女「きまって女ができるんだから」
② 作りあげられる。設けられる。しあがる。完成する。
※
歌舞伎・
幼稚子敵討(1753)口明「是程は出来ましたれど、是程は暫く待て下されいなんどと、言われませうか」
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈
長与善郎〉竹沢先生の人生観「吾々人間と云ふものは、よく出来たもので」
③ みのる。収穫がある。生産される。とれる。
※俳諧・新続犬筑波集(1660)一「はるの日に出来ぬる瓜や進むらん〈似空〉」
④ 手にはいる。得る。
※細君(1889)〈
坪内逍遙〉三「四十円出来なければ、三十円でも為方がないが」
⑤ (特に、主語を明示せずに用いる俗な言い方) 妊娠する。
※四十歳の男(1964)〈
遠藤周作〉「あたし、できたらしいの。どうするの」
[三] 能力や可能性を持つ。
① 物事をよくする。学問や技芸などにたくみである。その方面の能力がある。長じている。
※滑稽本・
浮世床(1813‐23)初「一寸
(ちょっと)出来
(デキ)ると思の外、此柏屋の約束も翌明々日
(あすあさって)と云延たるが」
② 人柄などが円満ですぐれている。精神的修養をつんでいる。苦労している。→
できた(二)①。
※魔風恋風(1903)〈
小杉天外〉前「貴女の様にお優
(デキ)なさる方が、些細
(いささか)なお金で御心配なさいますのが」
③ することが可能である。することが許される。動作を表わす語を受けて、その動作をすることが可能である意を表わす。
※
浄瑠璃・五十年忌歌念仏(1707)中「わか衆の前がみ女の脇詰男がしらいでたつ物か、できぬ仕方と言ひければなふ、
そこらを忘れるおなつでなし」
※歌舞伎・
お染久松色読販(1813)序幕「年が明けざアその相談はどうも出来ますまいて」
[四] 男と女が愛情をかわす。男女がなかよくなる。→
できた(二)②。
※雑俳・柳多留‐七(1772)「出来そうになると藪入りかへるなり」
※老年(1914)〈
芥川龍之介〉「あの女と出来たのもあの頃ですぜ」
[五] 賭博が開帳される。
※
洒落本・卯地臭意(1783)「今日内会のめくりができると言ふから、ソレ此春こしらへたもへぎはかたを、たちまち二本通用とくらはして行た所が」
[語誌](1)「デクル」から、二段活用の一段化に影響されて成立した。近世以降デクルよりも優勢となる。→「
でくる(出来)」の語誌。
(2)デキルから変化したデケルという形もあり、近世前期にはデキルとデケルとが拮抗していたが、後期に入るとデケルは方言的なものと意識されていたらしい。
(3)
連用形はカ変「でくる」と区別ができないので、便宜上この項におさめた。