企業が資金調達のために発行する債券。金額や利率、返済期限といった条件をあらかじめ示して投資家から資金を募る。担保が付いていたり、株式に転換できたりとさまざまな種類がある。満期になると全額返済されるが、発行企業が経営破綻した場合などは返済されない恐れもある。保険会社などの機関投資家向けが大半だが、近年は個人向けに発行されるケースも増えている。
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学説上では、「公衆に対する起債によって生じた株式会社に対する債権であって、これにつき社債券という有価証券が発行されるもの」と定義づけられていた。会社法制定により、「この法律の規定により会社が行う割当てにより発生する当該会社を債務者とする金銭債権であって、676条各号に掲げる事項(募集事項)についての定めに従い償還されるもの」と、条文上に定義が置かれた(会社法2条23号)。広義の公債の一種であるが、通常は国や地方公共団体などが起債する国債や地方債などが公債(狭義の公債)とよばれるので、社債は、これと対立する概念として理解されている。合名会社・合資会社・合同会社・特例有限会社など人的会社も社債発行が可能である。
[戸田修三・福原紀彦]
株式も社債も、ともに会社資金を調達する手段であるが、(1)株式は自己資本を、社債は他人資本を調達する手段であり、(2)法律上、株式は株主である地位であり、株主が会社の構成員であるのに対して、社債は会社に対する債権であり、社債権者は会社に対する債権者である。このために、株主と社債権者の地位には、以下に述べるような具体的な相違点がある。
〔1〕株主は配当可能利益がない限り剰余金分配を受けられない(会社法453条、461条)のに対し、社債権者は配当可能利益の有無・多寡にかかわらず確定利息の支払いを受ける(同法676条3号)。
〔2〕株主は出資金額の払戻しを会社に求めることができないのに対し、社債権者は社債の償還期限が到来すれば、元本の償還を受ける。
〔3〕株主は会社経営に参加する権利(共益権)を有し、議決権(同法308条1項、325条)や各種監督是正権を有するのに対し、社債権者は経営参加権を有しない。
〔4〕会社解散時には、株主は会社債権者が満足を得た後に残余財産の分配を受ける(同法502条本文)のみであるのに対し、社債権者は株主に優先して一般会社債権者と同順位で弁済を受ける。
このように、株式は会社の業績が向上しないとキャッシュ・フローを受けられないので投機性を有し、社債は会社の業績を問わずに安定的キャッシュ・フローを受けられるので確実性を有するが、それぞれの特色を相互に加味することが資金調達上有益であるため、法律上も、株式の社債化(たとえば配当優先株式、議決権制限株式)および社債の株式化(たとえば新株予約権付社債)の現象がみられる。
[戸田修三・福原紀彦]
物上担保が社債につけられているか否かにより、担保付社債と無担保社債に分類される。また、債券面に社債権者の氏名を記載するか否かにより、記名社債と無記名社債に分類される。そのほか、会社法上特殊な社債として、新株予約権付社債が認められている。
新株予約権付社債は、新株予約権を付した社債である(会社法2条22号)。社債権者は、発行会社に対して、社債発行後一定の期間内に所定の数の新株を所定の価額で発行するように請求できるものである。新株予約権者は、社債権者として安定的なキャッシュ・フローを受けることができるとともに、仮に会社の業績が向上すれば新株予約権を行使して株主となり、会社の好況にあずかることもできる。新株予約権を行使する際に、社債を償還して新株予約権の払込みにあててその結果権利者の手元には社債が残らないものは転換社債型新株予約権付社債とよばれることもある。
[戸田修三・福原紀彦]
社債は株式会社の債務であり、社債の募集に応じようとする者による社債の申込みに対して、発行会社がこれを承諾(割当て)することによって成立する契約(社債契約)である。社債発行事項は、取締役会設置会社では取締役会決議で決定する(会社法362条4項5号)が、委員会設置会社では執行役に決定を委任できる(同法416条4項本文)。社債の発行方法には、特定人に社債の総額を包括的に引受けさせる総額引受と、社債権者を公衆から募集する公募発行とがある(同法679条、677条)。
[戸田修三・福原紀彦]
社債は、株式会社が一般公衆から巨額の資金を長期的かつ集団的に借り入れるものであるから、社債権者の保護が必要である。そのための規制につき、会社法は、社債管理者制度と社債権者集会制度を設けている。
(1)社債管理者 社債管理者とは、社債の発行会社から社債の管理の委託を受けて行う者をいう(会社法702条本文、703条)。具体的には、弁済の受領、債権の保全、その他社債管理委託契約に基づく権限を行使する。零細な額の社債権をもつ社債権者が大勢存在する状況において、個々の社債権者には債権管理を行うインセンティブ(誘因)がほとんどないといってよい。管理によって得られる利益が、管理にかかるコストに見合わないからである。このような状況になると、社債権者はだれも社債を管理しなくなり、結局、社債権者が損を被る結果となりかねない。このような状況を想定し、各社債の金額が1億円以上である場合またはある種類の社債の総額をその種類の各社債の金額の最低額で除して得た数が50を下回る場合を除いて、社債管理者を設置しなければならないとした(同法702条但書、会社法施行規則169条)。
(2)社債権者集会 社債権者集会とは、利害の共通する同一種類の社債権者によって構成され、その社債権者の総意を決定する合議体である(会社法715条)。社債権者の利害に影響を及ぼす事項について、必要な場合には社債権者の多数決で決定する道を認める制度である。
[戸田修三・福原紀彦]
社債権者は、社債契約上の権利として、その社債に関する利息の支払請求権と償還請求権を有する。利息の支払方法につき、記名社債の場合は、社債原簿に記載された社債権者に対し発行会社が利払期ごとに支払うが、無記名社債の場合には利札と引換えに支払われる。
[戸田修三・福原紀彦]
社債は株式と並ぶ長期資本調達手段であるが、株式と比較して次のような特色をもっている。社債は不特定多数の投資家に対して、均一、小口、かつ所有移転の可能な債券を交付して資金を調達し、近代的な証券市場がその発券と流通を可能にしたという点で、株式と共通の基盤にたっている。その一方で、株式が自己資本の調達手段であり、償還がないが、債務である社債には償還が義務づけられる。また社債には、株式の配当のような不確定なものではない、定率の利子払いが保証される点で、株式と明確に区別される。したがって、投資家の側からみれば、社債は投機性に欠けるが、堅実な利殖の対象とされてきた。以上、株式と社債とを形態面からとらえると、両者の異同、特色が指摘されるが、企業にとっても資本調達の面で、それぞれの特色を生かすことが有利であり、事実上、両者の接近がみられる。これを株式・社債接近の原則という。
たとえば、償還の義務の点で区別される両者は、事実上無償還の永久社債がある反面、株式について期間内に利益で消却される償還株式があり、議決権(経営参加)はないが配当について優先権のある優先株式、無議決権株式があるなど、株式の社債化現象がみられる。
一方、発行時には普通社債で、将来ある時点で一定条件の下に、その企業の株式(普通株式)に転換できる転換社債がある。この二重性格的な証券は、投資家にとっては安全確実な社債から、その企業の収益状況が改善するにしたがい、好配当の株式に転換できる利点があり、企業にとっても一度に大量の資金調達ができるので高成長の見込まれる場合などに広く利用されている。また、時価転換社債が注目されている。転換社債の一変型として新株予約権付社債があり、これはしばしば事前的企業買収防衛策の一つとして、その新株予約権が行使される。
[村松司叙]
『公社債引受協会編『公社債市場の新展開』(1996・東洋経済新報社)』▽『松尾順介著『日本の社債市場』(1999・東洋経済新報社)』▽『資本市場研究会編『現代社債市場――その現状と展望』(2003・財経詳報社)』▽『徳島勝幸著『現代社債投資の実務――社債市場の現在を考える』新版(2004・財経詳報社)』▽『高橋康文編著、尾崎輝宏著『逐条解説 社債、株式等振替法』(2004・金融財政事情研究会)』▽『法政大学比較経済研究所・胥鵬編『社債市場の育成と発展――日本の経験とアジアの現状』(2007・法政大学出版局)』▽『日本証券経済研究所編・刊『図説 日本の証券市場』2008年版(2008)』▽『日本興業銀行証券部編『公社債の知識』(日経文庫)』
公衆に対する起債によって生じた,多数の部分に分割された株式会社に対する債権であって,これについて有価証券(債券)の発行されるもの(商法296条以下)。
株式会社が,一時に長期・巨額の資金を必要とする場合,銀行借入れの方法は,期間・金額面で適さないことが多く,銀行支配を受けるおそれもある。また,新株発行の方法は,会社組織を拡大することとなり,利益配当に影響を及ぼし(通常,配当負担が増す),経営権の所在にも関係してくる。これに対して,社債発行の方法によれば,これらの不利益を受けることなく,長期・巨額の資金を一時に調達できる。しかも,利益配当の源泉である利益には税負担がかかるが,社債の利息は経費として処理できる。社債にはこのような利点があるが,いずれの資金調達方法をとるかは,そのときの金融情勢や会社の財務状態に基づいて,経営判断によって決定される。
株式と社債は,ともに証券発行による株式会社の資金調達方法であるが,社債は純然たる会社債務であって社債権者は会社債権者であるのに対し,株式は社員権であって株主は会社の構成員であり,法律的には両者はまったく異なる。すなわち,株主は経営に関与する権利,ことに議決権を有し,利益がある場合にのみ配当を受け,株金の払戻しを受けえず,解散時には会社債権者に劣後して残余財産の分配を受けるが,社債権者は経営に関与できず,利益の有無にかかわらず確定利息の支払を受け,満期には元本の償還を受け,解散時には株主に優先して弁済を受ける。しかし,実際には,一般株主は経営に無関心でみずから議決権を行使せず,また,任意準備金の積立て,取りくずしによる配当平均化の傾向があるため,経済的には両者の差は大きくないし,法律的にも,非参加的累積的優先株,償還株式,無議決権株のような社債的株式や,転換社債,新株引受権付社債(〈株式買取権付社債〉の項参照)のような株式的社債も認められている。
(1)発行の態様 特定人(証券会社)が社債の総額を包括的に引き受ける総額引受けと,一般公衆から募集する公募発行(公募)とに大別される。後者はさらに,発行会社自身が募集する直接募集,発行会社から委託を受けた者(募集の受託会社)が募集手続を行う委託募集(応募不足のときに証券会社が残額を引き受けることが多い),一定の売出期間内に公衆に個別的に債券を売り出す売出発行に分かれる。日本では,従来事業債(一般事業会社が発行する社債)は委託募集により,金融債は特別法(長期信用銀行法11条2項,外国為替銀行法9条の5-2項)に基づいて売出発行により発行されている。(2)発行手続 発行会社は,取締役会の決議により,社債の総額その他社債の主要な内容(社債金額・利率・償還方法等)を定める(商法296条)。社債発行限度の制約は,1993年の商法改正により廃止された(旧商法297条改正)。無担保社債のときは,発行会社は原則として社債管理会社を定め,社債権者のために社債の管理を委託することを要する(商法297条)。担保付社債のときは,発行会社は担保の受託会社(銀行・信託会社)と信託契約を締結することを要し,これによって受託会社は担保権を取得し,これを総社債権者のために保存・実行する義務を負うこととなり,また,社債の管理については社債管理会社と同一の権限を有し義務を負うものとされる(担保付社債信託法2条,18条,69条,70条)。(3)利払い・償還 利払いは,利札により毎年一定の時期に支払う方法と,割引発行により償還の際一時に支払う方法とがある。償還は,発行後一定期間据え置き,その後随時償還をする方法と,定期的に一定額以上を抽せんで償還し,一定期日までに全部の償還を終える方法とがある。償還時までに不測の事態が生じた場合に,社債権者の総意を決定するために,社債権者集会の制度がある(商法319条以下,担保付社債信託法58条以下)。
執筆者:藤井 俊雄
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(2014-6-5)
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…さらに,利益配当に関する優先株については,その株主に議決権がないものとすることができ(242条),これを議決権のない株式という。
[社債との比較]
株式と社債とを比較すると,いずれも会社資金調達の手段として発行され,その流通性を高めるために有価証券(株式の場合は株券,社債の場合には社債券)に表章される点で共通しているが,次のような差異がある。第1に,株式の所有者(株主)は,株主総会の議決権その他各種の共益権を有するのに対して,社債の所有者(社債権者)は,そのような権利を有せず,社債の償還および利息の支払に関連する権利を有するにすぎない。…
…社債権担保のために担保付社債信託法(1905公布)の定める物上担保(物的担保)の付せられた社債。社債に付けることのできる物上担保は,動産質,証書のある債権質,株式の各質,不動産抵当,船舶,自動車,航空機,建設機械の各動産抵当,鉄道,工場,鉱業,軌道,運河,漁業,自動車交通事業,道路交通事業,港湾運送事業,観光施設の各財団抵当,企業担保(企業担保権)の19種に限られる(担保付社債信託法4条)。…
※「社債」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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