翻訳|cocoon
「まよ」「まい」の語形もある。「まよ」は、「万葉集」に見え、「まゆ」の古形とされる。「まい」は「日葡辞書」に見えるが、この頃の意識としては「まゆ」の方が正しい語形とされている。
動物,とくに昆虫で,活動停止状態の卵,幼虫,さなぎを保護する目的でつくられる構造物。ガムシ(水生甲虫類)は,尾端に開口する付属腺から分泌される絹糸で容器をつくり,この中に産卵後,口を閉じて水に浮遊する繭をつくる。イラガの終齢幼虫はイラガの繭,別名スズメノショウベンタゴと呼ばれる楕円形の繭中で冬を越しさなぎになる。この繭は吐糸によってつくった網繭に,口と肛門からの排出物を塗布してつくったもので,タンパク質と石灰質から成る。ひじょうに硬く,長軸方向で7.7kg,短軸方向で6.3kgの耐圧をもつ特殊な繭である。繭の多くはさなぎを保護する目的でつくられ主材料は絹糸であるが,生活環境や種により,糞(ふん),幼虫の刺毛,砂,小石,葉,木片など種々の材料を用いることもある。絹糸は多くの昆虫では口部から吐き出されるが,前肢跗節(ふせつ)(シロアリモドキ),肛門(チャタテムシ)から吐糸するものもある。とくにカゲロウ(脈翅目)では,マルピーギ管の一部で絹をつくり,絹糸貯囊に蓄え,肛門付近の尾乳房突起から吐糸して繭をつくる。絹糸製繭は鱗翅類,ノミ類,膜翅類でみられ,種々の色と形をとる。ヤママユガ科やカイコガ科のものは最も堅固な繭をつくり,カイコ,ヤママユ(テンサン),サクサン,シンジュサン,ヒマサンなどの繭からは絹糸をとる。ヨナグニサンの繭は世界一大きく,中央を裂いて財布にしたり,開きなめして,皮革細工の代用にもする。毛翅類(トビケラ)のうち,幼虫時に巣筒をつくらない種では,蛹化(ようか)前に小石,砂,植物などを用いて楕円形の洞状構造物をつくり,この中に繭をつくる。繭の内部は一般には直接接触を断つ閉じた状態にあるが,クスサンのように網目状のもの,ブユのように籠状の繭に蛹体の下半分をうずめただけのものもある。土中で蛹化する甲虫の幼虫が尾端から粘液を出して室をつくることがあるが,これを土繭とも呼ぶ。またテグスサン(フウサン)の終齢幼虫の絹糸腺からは〈てぐす〉をとる。
執筆者:桜井 勝
カイコは古くから屋内で飼育されていることから家蚕(かさん)と呼ばれ,その繭は生糸の原料とされる。一方,ヤママユガ科に属するものは野蚕と総称され,野外で自生あるいは飼育される。その繭は主として紡績原料として用いられるが,サクサンやヤママユなどはカイコと同じように繰糸し,織物素材として使用されることもある。一般に繭といえばカイコのつくるものをさすことが多い。
カイコは卵からかえったばかりの蟻蚕(ぎさん)の時期以降の各齢での就眠にさいして,脱皮をしやすくするために吐糸し,自体を蚕座に固定させる。すなわち,幼虫の若い時期でも必要によって繭糸を吐糸することができる。しかし,絹糸腺につくられた液状絹を全部吐糸するのは,幼虫終期のいわゆる熟蚕(じゆくさん)となってからである。熟蚕が繭をつくるには,初め液状絹を身近な場所に吐いて付着させ,頭胸部を左右に振って絹糸を引き伸ばすことから始まる。熟蚕は蔟(まぶし)(営繭(えいけん)場所)に置かれると,まず,足場をかため,本格的な繭づくりの手がかりとするため,繭綿(けんめん)(毛羽ともいう)を自体のまわりにあらく張りつめたのち,漸次繭づくりをはじめる。そして絹糸腺中の液状絹を吐糸し終わるまで,規則正しく頭胸部を左右に振る吐糸運動を続ける。したがって,繭層を構成する繭糸の軌跡は状をなしている。繭糸は絹糸腺内の液状絹をカイコが吐糸する過程で形成される。すなわち,後部糸腺内の不規則な分子形態のフィブロインは中部糸腺内で濃縮されるが,その際,分子鎖の一部は緩やかならせん構造となり,中部糸腺で分泌される液状セリシンに覆われた形で前部糸腺に送り込まれる。前部糸腺内ではフィブロインの分子鎖の一部が三次元の網目状の形態となって吐糸管に送られる。吐糸管の最も細い圧縮部を通過するとき,フィブロインは約3倍に引き伸ばされ,分子は相互に引きあいつつ集束し繊維化する。繊維化しにくいセリシンは繭糸の形成を円滑に進める潤滑油の役割と,吐糸された繭糸相互を膠着(こうちやく)させて繭層を形成する役割を果たす。
繭の性状は,昆虫の種類によってかなり異なるが,ここではカイコのつくる繭のおもな性状について述べる。(1)繭形 繭の形はカイコの遺伝形質の一つといわれ,品種により俵形,楕円形,紡錘形などがあるが,現在使われている実用品種は楕円形ならびに浅いくびれの俵形が大部分である。(2)繭色 繭の色は蚕品種によって白,黄,緑および紅などがあるが,現在の実用品種は白色繭のみである。しかし,交雑形式により,わずかに淡緑色を呈するものがある。繭の色素は繭糸のセリシン層に含まれているので,精練などによりセリシンが除去されると繭糸は白色となる。(3)大きさ 繭の大きさは通常一定容量のますに入る粒数によって表され,1l当り60~90粒の範囲のものが多い。(4)繭重 繭層,さなぎ,脱皮殻の合計量をいう。蚕品種,蚕期,あるいは雌雄によって異なるが,1.8~2.5gの範囲にある。乾燥したものは乾繭重といい区別する。(5)繭層重 繭層の目方をいう。春繭で0.4~0.6g。夏秋繭で0.4~0.5gのものが多い。(6)繭層歩合 繭重に対する繭層重の割合を百分率で表した値で,20~26%の範囲にある。(7)生糸量歩合 一定量の繭から繰糸して得られる生糸の重量の割合を百分率で表した値。糸歩(いとぶ)ともいう。繭の経済価値をあらわす重要な形質で,蚕品種,蚕期,作柄などによりかなり異なるが,17~20%の範囲にある。(8)繭糸長 1粒の繭を繰って得られる繭糸の長さ。1000~1350mの範囲のものが多い。(9)繭糸繊度 1粒の繭糸の平均の太さ。蚕品種によって決まるが,作柄によっても影響を受ける。現在の実用品種は,2.5~3.5デニールのものが大部分である。(10)解舒(かいじよ) 繭から繭糸をときほぐすこと。その難易は,蚕品種や営繭時の気象条件によって異なる。(11)小節(こぶし) 繭層から繭糸をときほぐす際に繭糸に生ずるわ節(繭糸の一部が糸条から分離して環状となり,長さが10mm未満のもの),さけ節(糸条から分離した繭糸の一部が枝状となり,長さが10mm以上のもの),こぬか節(糸条にこぬかをつけたような外観をしているもの)などと呼ばれる小さな節の総称。蚕品種固有の性状の一つといわれる。
→カイコ →養蚕
執筆者:小河原 貞二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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完全変態をする昆虫の幼虫が蛹(さなぎ)になるときに、自分自身の出す絹糸(けんし)あるいは分泌物を用いてつくる殻状または袋状の覆いのことをいい、幼虫はその中で蛹化(ようか)する。蛹体は、これによって外敵や外力あるいは環境の急変から保護されている。典型的な繭は絹糸の原料となるカイコやテグスをとるヤママユにみられるものであるが、自身の出す糸だけで繭をつくる昆虫としては、ガ、ハエ、ハチ、甲虫、トビケラ、脈翅(みゃくし)類の各一部とノミ類が知られており、色、形、構造はさまざまである。たとえば、クスサンでは粗い網籠(あみかご)状、イラガでは鳥の卵に似て厚くて硬く、多くのハバチ類の繭は薄くて羊皮紙状である。カイコは品種によって色や形などに違いがある。繭にはこのほかに、周囲にある砂粒や枯れ葉、木くずなどを利用し、それらを絹糸でつづり合わせてつくられることがあり、またヤガのある種のように材をかみ砕いて分泌物で固めるもの、ヒトリガのように幼虫の毛を利用するようなものもある。普通、繭を紡ぐ絹糸は幼虫の口部に開く絹糸腺(せん)から出され、この腺はガ類やハチ類では下唇腺で、ほかの多くの昆虫の唾液(だえき)腺と相同であるが、甲虫類や脈翅類では体の後端部から出され、マルピーギ管もしくは中腸の分泌物とされている。なお、繭によっては厚めの外層と薄い内層があることがあり、多寄生のコマユバチでは宿主から出た多数の幼虫が互いに密着してひとかたまりとなった繭をつくることもある。
地中や朽ち木、材などの中に潜って蛹になる幼虫には、分泌物や糸で周囲を固めて、体を入れる小室をつくるものも多いが、これらは蛹室pupal cellであって、繭とはいえない。また、双翅目の環縫(かんぽう)類のハエには、幼虫期の終わりに体が卵形ないし樽(たる)形に縮み、外皮が硬く濃い褐色になり、その中で蛹になるものが多いが、この外皮は蛹殻pupariumとよばれる。いずれの場合も繭と同様に蛹体の保護に役だっている。
[中根猛彦]
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…鱗翅目の多くは,終齢幼虫が地中にもぐり,液体を口から分泌して土の粒子を接着・固化して室の壁となす。地上または水中で蛹化する昆虫の多くは繭cocoonをつむぐ。絹糸で木片,葉片,小石,砂などをつむぐものと,完全に絹糸のみでつむぐものがある。…
…カイコ(蚕)の作る繭層から繭糸を解離し,数本以上の繭糸を抱合させつつ繰糸して得た連続する1本の糸で,撚糸(ねんし)や精練などの加工をしないものをいう。玉繭を繰った糸を玉糸というが,広義の生糸には玉糸を含めるが狭義の場合には含めない。…
…大あご,触角,脚,羽が体表から離れ,とくに大あごが可動のものを硬顎(こうがく)蛹pupa decticaとよぶ。水中で蛹化し繭を大あごで切り裂いて水上に浮上後羽化する毛翅類をはじめ,脈翅目・長翅目などにみられる。大あごが不動のものを軟顎蛹pupa adecticaと称し,これをさらに裸蛹と被蛹に分ける。…
…クワを栽培し,そのクワでカイコ(蚕)を飼育し,繭を生産すること。人類は農業が始まる以前,山野に自然にできたものを採って食糧や衣類などの原料にしていた。…
※「繭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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