さしたる

精選版 日本国語大辞典 「さしたる」の意味・読み・例文・類語

さし‐たる

連体〙 (動詞「指す」の連用形に完了の助動詞「たり」の連体形の付いた「指したる」が連体詞化したもの)
① 特に心にこうと思い定めた。とりたててちゃんとした。特にこれこれの。
※宇治拾遺(1221頃)一四「このあそびのもとよりさしたることなんいはんと思ふ」
古今著聞集(1254)六「何事にてか、さしたる御のぞみふかかりける事侍りけり」
② (下に打消の語を伴って) 特にこれというほどの。これといった。たいした。さほどの。させる。
※栄花(1028‐92頃)花山たづぬる中納言「無官の定になしきこえまほしけれど、さすがにその事とさしたる事のなければ」
※中華若木詩抄(1520頃)上「壮気にして、ありつるがいつのまにやら、年よりて、さしたる者にもならず」
[語誌](1)平安時代公家日記など記録体の文章で生まれた「指(させる)」が、十二世紀に入って「さしたる」と、読まれるようになったもの。助動詞「り」が衰え「たり」が盛んに用いられるようになったのに応じて、定着していく。従って、古記録などに見られる「指」の文字には「さしたる」と読んだか「させる」と読んだかはっきりしないものがある。
(2)中世の古記録では、「指」のほかに「差」「為差」とも表記されていたが、次第に平仮名書きが多くなり、副詞「さ」にサ変動詞「す」の連用形「し」、完了の助動詞「たり」の連体形「たる」が付いたものと意識されるようにもなる。
(3)近代に入ると漢字表記はほとんどされず、文語的な表現に仮名書きで見られるようになる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「さしたる」の意味・読み・例文・類語

さし‐たる

[連体]《動詞「さ(指)す」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形から。特に指定した、が原義
(あとに打消しの語を伴って用いる)取り立てていうほどの。さほどの。「さしたる相違もない」「さしたる用事もない」
特に思い定めた。特別の。
「何事にてか、―御望み深かりけること侍りけり」〈著聞集・六〉
[補説]1は特に「然したる」とも書き、副詞「」に、サ変動詞「す」の連用形、完了の助動詞「たり」の連体形が付いたものからとする説もあるが、関連語「さして」「させる」とその意味を合わせ考えて、「指したる」からとするのが妥当と思われる。
[類語]余り大してさほどさしてさまでそうそれほどそんなに満更まんざら必ずしもあながち一概にそんなそのようそうしたそういうさようさもさもさもしかなかなか取り立てて別段さのみさしもこれほどどれほどいかほど何ほどそれくらいこれくらいこのくらいこればかり

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