〘名〙
① 小さな動物。人・獣・鳥・魚・貝など以外の小動物の総称。主に昆虫類をさしていうことが多い。
※書紀(720)仁徳二二年正月・歌謡「夏務始(ムシ)の蝱(ひむし)の衣二重着て隠み宿りは豈良くもあらず」
② 特に、美しい声で鳴くもの。鳴き声を聞いて楽しむ虫。秋鳴く虫の総称。鈴虫、松虫、蟋蟀(こおろぎ)など。《季・秋》
※阿波国文庫旧蔵本伊勢物語(10C前)N「前栽の中に、むしの声なきければ」
③ 人の体内に住んでいるという三尸(さんし)の虫のこと。また、人体などに寄生する蠕形動物の呼び名。寄生虫。特に、回虫をさす。また、それによって生じる腹痛。陣痛のたとえにもいう。
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大乗院寺社雑事記‐文明一五年(1483)正月一二日「円秀持病虫指出、俄に仰
二付良鎮
一了」
④ 小児の体質が弱いために起こる種々の病気。子どもの病気で、原因がはっきりわからない症状の総称。特に、ひきつけ、
てんかんなどをさす。疳の虫。疳。むしけ。
※虎明本狂言・煎物(室町末‐近世初)「おむしの薬もくはへくはへせんじたる、おせんじもの」
⑤ 人間の体内にいるとされて、身体や感情などにさまざまの影響を与えると考えられたもの。種々の病気の原因となったり、感情をたかぶらせたりするもとになるとするもの。近世ごろには、人体には九つの虫がいて、それぞれが病気を引き起こしたり、心の中の意識や感情を呼び起こしたりすると信じられていた。腹の虫、心の虫などの類。
※浮世草子・西鶴織留(1694)四「夫婦ともに嫌ふむしあってわづらひ出せば」
⑥ (衣類などに付いて食い荒らす虫にたとえていう) ひそかにもっている愛人。情夫。間夫(まぶ)。
※俳諧・山之端千句(1680)下「はやり出のさまにはわるい虫かつく〈宗因〉」
⑦ 牢(ろう)。牢屋。牢が虫籠のようであるところからいうか。一説に、盗人仲間の隠語とし、「六四」の字を当てて、牢の食事は、麦と米が六対四の割合であったところからいうとも。
※浄瑠璃・夏祭浪花鑑(1745)七「乳守の町で喧𠵅
仕出し。和泉が窂
(ムシ)へかまって、百日の上女房子を誰が養ふたと思ふ」
⑧ (「
芸の虫」の略) 芸達者な人。芸のじょうずな役者。名優。
※二篇おどけむりもんどう(1818‐30頃か)「上手な役者をむしといふはいかに。下手な者をだいこといふがごとし」
⑨ 一つのことに熱中する人。異常と思われるくらいにその事にとらわれている人にいう。「本の虫」
※学生と読書(1938)〈河合栄治郎編〉いかに書を読むべきか〈
倉田百三〉二「『勉強の虫』といはれることは名誉である場合が多い」
⑩ 他の語と複合して、そのような性質である人をあざけったりいやしめたりしていう語。「泣き虫」「弱虫」など。