デジタル大辞泉 「コート」の意味・読み・例文・類語
コート(court)
2 建物・塀などで囲まれた場所。中庭。
3 一区画。「フード
[類語](1)競技場・運動場・野球場・グラウンド・コロシアム・スタジアム・トラック・フィールド・サッカー場・ピッチ・ゴルフ場・スキー場・ゲレンデ・競馬場・馬場・パドック・スケートリンク・サーキット・ホームグラウンド
翻訳|coat
今日、一般には袖(そで)付きでウエスト丈から足首丈までの、いちばん外側に着る衣服をいう。日本では防寒コートやレインコート類をさす場合が多いが、男子用上着や、女子の男仕立ての上着、古くはスカート、またはペチコートのこともコートといった。また上体を覆う鎧(よろい)の一種や、鎧の上に着る衣服をさすこともある。
語源は、古代高地ドイツ語コッツアKozza, Kozzoという粗末な外套(がいとう)を表す語からきており、フランス語ではコットcotteといわれる長い袖のついた長衣の意がある。コットは13世紀ごろに男女とも着用した外衣であるが、この後コットやローブrobeの上に着る外衣がサーコートsurcoatの名でよばれている。英語のコートcoatは、フランス語のコットが入って変化したものと考えられる。16世紀ごろには上衣のウエストコートwaistcoatに対し、ウエストから下のスカート部や、内着のシャツをペチコートpetticoatともよんだ。
[浦上信子]
現在のオーバーコートのような前あきの形態は、歴史的には西アジアのカフタン衣装から始まると考えられている。男子服の上衣という意味で使われるコートの原型として、14世紀のフランスのプールポアンpourpointがあげられる。これは兵士の胴着から変化したもので、前がボタンがけで腰丈、胸部は詰め物をして膨らませ、ウエストがぴったりとしたものであった。同じころジャックとよぶ外観の似た上衣も現れた。これらの上衣の出現で、いままでの丈の長い男子服はしだいに影を潜め、機能的、行動的な短い男子服の特色が歓迎されるようになった。そして17世紀になると、プールポアンの丈が短くなり、かわりにジュストコールjustaucorpsとよばれる男子上衣が70年代に現れる。これは、軍人の着るカザックcasaqueから変化したもので、ウエストまでがぴったりし、ウエストから下のスカート部が広がって膝(ひざ)まで達し、前あきで袖付きの上衣であった。前はボタンがけで、前左右に横に切ったポケットがつき、襟はない。これは近代男子服の原型とも考えられる。またこの下にベストとよぶ、前あきでジュストコールに似たはでな装飾のある上衣を着た。この時期まで外套はマントが多かったが、ジュストコールが出現して以来、ときにはこれが外套の役目をなした。
18世紀になるとジュストコールは、アビ・ア・ラ・フランセーズの名でよばれ、女性的シルエットの強調された上品な上衣となったが、社会の近代化に伴い、男子服はしだいに機能美を求め、アビ・ア・ラ・フランセーズも前裾(すそ)が前から後ろに斜めに切り落とされ、張りのあるスカート部は直線的で狭いものになった。18世紀後半になると、実用性のあるイギリス風のフラックfrac(英語のフロックコート)に人気が集まる。これも形はアビ・ア・ラ・フランセーズに似ているが、素材はウールを主にし、不必要な装飾がなく体の線も強調していない。後部に背割りがあり、襟付きで、隠しポケットをもつ。前端は後方に向けて斜めにカットされ、しだいに燕尾(えんび)状になっていき、ウエストから下は直線的であった。色調も落ち着いたじみなものが多いが、このころから、男子服は現代服に通じる色合いが主になってくる。同じころ外套としてルダンゴトredingoteが現れるが、これはイギリスの乗馬用コート、つまりライディング・コートriding coatからきた名称で、折り返しのついた袖、2枚の襟、前あきでボタンがけ、たっぷりした裾回りのものであり、丈は上衣丈から長いものまであった。これもさまざまに変化して、アビ・ルダンゴトhabit redingoteという礼装となったり、フラック・ルダンゴトという後部に燕尾のついた上衣になったりした。外套としてのルダンゴトは丈が長く、ダブルやシングルの打合せで非常に普及したが、19世紀初めにはもっと丈長で、ゆとりの多い大型防寒コートのキャリックcarrickが出現する。
19世紀後半になるとインバネスinvernessが登場する。当時は小さな襟と袖のある、ケープ付きオーバーコートであった。
同じころに、正装の上に着る短いボックス・コートbox coatや、袖がケープ状になったマクファーレンmacfarlane、アラビアの暑さや砂を防ぐフード付きの長いマントをアレンジしたバーヌースburnous(e)、少し短めのものから時代の進むにつれてオーバーコートをさすようになったパルトーpaletotやラグラン袖をもつラグラン・コートraglan coat、アイルランドの地方名にちなむアルスターulster、ダブルの打合せでイギリス海軍が着た丈の短いリーファーreefer、のちに正装用外套にもなる比翼仕立てビロード襟のチェスターフィールドなどが現れ、20世紀までオーバーコートとして着られる。20世紀になって、自然色でダブルの打合せのポロ・コートpolo coatが現れ、前述の各種コートとともに人気を得た。
女子の防寒コートはマント型が多かったが、ルダンゴトの出現以前は長い間袖付きのオーバーコートとしてペリスpelisseが用いられてきた。おもに毛皮の裏をつけ、前あきは突き合わせで、スカート部にはあまりゆとりはない。18世紀以後は、毛皮の襟や大型の襟などをもつ丈の長いルダンゴトが着用された。20世紀は、マント型より袖のある機能的なコートが一般的になる。
現代男子服すなわち背広の基本ともいえるジャケットjaquetteは、19世紀なかばに現れた。一般には膝丈で、ラペル付きの襟に、前裾は丸くカットされ、ウエストで絞った形で、またベストンvestonという同じような上衣も普及した。19世紀なかばを過ぎると、ジャケットはしだいに丈も形も背広に近づいてくる。フラックは着用の場を限定され、前端をウエストから斜めに切り落としたカッタウェイとなり、礼服として残ってゆく。礼服用、会食用等目的別のタキシードtuxedo、スワローテイルド・コートswallow tailed coatなども20世紀になると形が確立してくる。
女性用の男子服仕立てのコートは、女子の社会的進出およびスポーツの参加に関係が深く、20世紀初頭からしだいに普及してくる。とくに1920年代に現れたボーイッシュな風調は、短く切った髪と直線的なシルエットの服を流行させ、その流行が下火になった後も、着実に婦人服のなかに定着して今日に至っている。
[浦上信子]
用途、形態、素材、固有名詞などに由来するもの、歴史的なものなどに分かれる。
[浦上信子]
(1)オールウェザー・コートall-weather coat レインコートと防寒コートを兼ねるよう防水加工した生地を使い、取り外しできる裏地がつく。
(2)オールシーズン・コートall-season coat 一年中着られるように、取り外しのできる軽いウールや毛皮の裏地がついている。表地は木綿、合繊、ウールなどのギャバジンやそれに似た素材のもの。防水加工が施され、表地が比較的じみなため、裏にはでな格子柄や色を配することが多い。最近著しい流行がみられる。
(3)ビーチ・コートbeach coat 海岸などの水辺で水着の上に着る。肌の保護と水分の吸収、装飾が目的。タオル織の布地が伝統的によく用いられる。
(4)カー・コートcar coat 車に乗るとき着るもので、4分の3丈か、もっと短めである。アメリカでドライブが盛んになった1960年代ごろから着用されるようになったスポーティーなもの。
(5)ダスターduster ほこりよけのコート。日本で春のほこりの多い時期に着ることが多く、スプリング・コートとよぶこともある。オープンカー時代のドライブに着たほこりよけの丈の長いコートが初めである。目のつんだ布地で、木綿や合繊が多い。婦人用のゆったりしたホームドレスをさす場合もある。
(6)イブニング・ドレス・コートevening dress coat 男子の夜会用正装または略装の衣服をさし、燕尾服やタキシードがこれにあたる。
(7)ディナー・コートdinner coat タキシードも含む夜会用略装。燕尾がなくジャケット丈で、たいていは黒または濃紺。タキシードは襟は拝絹をつけたショール・カラーで、シングルの打合せだが、ピークドラペルpeaked lapelやダブルの打合せのものもある。
(8)ハント・コートhunt coat 深紅の色からピンク・コートpink coatともいう。狐(きつね)狩り用のジャケットで、黒いビロードの襟にピークドラペル、背面にベンツ(馬乗り)の入った背広型のものをいう。
(9)ジョッキー・コートjockey coat 競馬騎手用の明るい光沢のある布地のジャケット。ウエスト丈で、スタンド・カラーに幅広の袖、袖にはカフスがつく。はでな対比の色使いで遠方からでもよく識別できる。
(10)モーニングコートmorning coat 男子の昼間正装でカッタウェイに属す。シングルの打合せで、前端はウエストから後方へ向け大きく斜めにカットされ、後部がテール状になりベンツが長く入る。ピークドラペルで一つボタン、色は黒。18世紀初期に出現した乗馬用上衣が、後期にはフロックコートへ変化し、カッタウェイに発展したもの。
(11)ピンク・コートpink coat ハント・コートに同じ。
(12)ポロ・コートpolo coat ポロ競技の観戦用に着たことに由来する。ラクダやラクダ色のウールの生地で、打合せはダブルもシングルもあり、たいていベルトで締め、ラペル付きの襟をもつ。20世紀前半に現れ、男子用から女子用にまで及んでいる。
(13)オーバーコートover coat 防寒用コートで、膝丈からくるぶし丈まである。素材は防寒に適するウール、毛皮、皮革、合繊、木綿、絹など。20世紀初めは男子用の厚い防寒コートをさし、毛皮の裏地も多かった。グレート・コートgreat coatともいわれる。オーバーコートの語は18世紀に現れ、当初は男子用の外衣をさした。
(14)レインコートraincoat 雨天時のコート。生地は薬剤での防水加工や、メタリック、ビニル、ゴムなどの加工をしたもの、薄いビニル地を用いたものなどが使われる。表地は水滴をはじきやすい組織で、しわや汚れのつきにくいものが一般的。フード付きも多い。
(15)ライディング・コートriding coat 乗馬用のジャケット。テーラード・カラーで背面にベンツがあり、格子柄やツイードが多く、体にぴったりしている。
(16)シューティング・コートshooting coat 狩猟用や射撃用のジャケット。
(17)スリープ・コートsleep coat 男子用の寝間着で、膝丈かそれより短めである。サッシュ付きでゆったりしており、室内着にも向く。20世紀初めに現れる。
(18)スポーツ・コートsports coat スポーツ・ジャケットともいう。(a)スポーティーでくだけた感じのテーラード・カラーのジャケット。生地もツイードやフラノなどを用い、替え上着として他の生地のズボンと組み合わせる。(b)各種スポーツをするときに適した衣服。スポーツの種類、場所、体の動き、季節などによりデザイン、素材が異なる。乗馬、狩猟、釣りなど、目的別につくられる上衣。
(19)ストーム・コートstorm coat 防水加工がしてあり、たいていは裏地がつく防寒コート。悪天候用で、襟や裏が毛皮の場合も多い。
(20)スタジアム・コートstadium coat 競技観戦用のコート。腰丈で前あき、トグル(留め木)どめが多い。カジュアルウエアとしても用いられ、フードや毛皮の襟付きもある。
(21)リバーシブル・コートreversible coat コートを裏返しても着られるように、両面仕立てになっている。両面使いの生地を用いる場合と、2枚の生地で両面使えるよう仕立てる場合がある。色、柄、素材などによりさまざまに組み合わせる。第二次世界大戦後、カー・コートによく取り入れられたが、最近はレインコートや防寒コートにリバーシブルが多い。
(22)トップコートtopcoat 男子が着衣のいちばん表面に着る軽いコート。背広などの上に着るもの。
[浦上信子]
(1)Aライン・コートA-line coat Aの字に似た裾広がりのシルエットをもつコート。クリスチャン・ディオールによって1955年春に発表され、当時婦人服界に流行した。
(2)ケープ・コートcape coat コートにケープのついたデザインで、ケープは取り外せるものも、外せないものもある。
(3)カーディガン・コートcardigan coat カーディガンのような襟ぐりとシンプルな身頃(みごろ)のコート。襟はなく前あき。
(4)カッタウェイ・コートcutaway coat コートの前あき部分をウエスト位置から斜めにカットし、後ろの部分を残したデザインの上衣で、モーニングコートが代表的である。
(5)グレート・コートgreat coat 重厚で大きくゆったりした防寒コート。丈は長めで、裏地に毛皮など暖かい素材がつき、襟も毛皮がつくことが多い。
(6)マキシ・コートmaxi coat、マキシマム・コートmaximum coatを略した語で、最大や最長を意味するところから生じた名称。くるぶし丈で、1960年代に流行した。
(7)ミディ・コートmidi coat 「中間の」や「中ごろの」を表すmidからきた名前で、ふくらはぎの中間の長さをもつコート。ミニ丈の衣服の流行が終わる1960年代後半に現れた。
(8)ミリタリー・コートmilitary coat 軍服の特徴を取り入れたデザインのコート。全体に固い感じを与える肩章や金ボタンがつき、幅広のラペル、ダブルの打合せにベルトを締める。
(9)プリンセス・コートprincess coat 上体は体にぴったりし、ウエストからフレアの入ったプリンセス型のもの。
(10)スワガー・コートswagger coat 「肩で風を切って歩く」「威張って歩く」という意味のスワガーから、肩が張り、裾広がりにフレヤーが入った婦人用コートのこと。1930年代に流行し、最近ふたたび人気が出ている。
(11)トッパー・コートtopper coat フレアの入った膝上丈のコート。1940年代に流行した。
(12)トグル・コートtoggle coat 前の打合せをトグルとループでとめる形式のスポーティーなもの。
(13)ラップ・コートwrap coat 打合せは体に巻き付けるかサッシュで締めて、優雅な雰囲気をもたせたコート。ラップは包むの意味。
[浦上信子]
(1)バルマカーンbalmacaan イギリスのスコットランドにある地名バルマカーンに由来し、襟が小さく袖はラグラン型の、膝丈の男子オーバーコート。素材はおもにウール。
(2)チェスターフィールド・コートchesterfield coat チェスターフィールド伯爵の名にちなんだコートで、テーラード型の襟の部分にビロードがつき、前の打合せはダブルもシングルもある。19世紀末に登場し、当時は男子のオーバーコートであったが、しだいに婦人物にも現れた。
(3)ブッシュ・コートbush coat サファリ・ジャケットともいう。オリジナルは、アフリカ未開地の探検隊が着用した上衣で、これに似たデザインのものをさす。ラペル・カラー、胸部と腰部の四つの張り付けポケット、ベルト、黄土色の生地、腰丈でシングルの打合せが特徴。1960年代後半にスポーティーな街着として流行。
(4)インバネス・コートinverness coat スコットランドにある地名に由来する。肩についた長めのケープが取り外せるコート。この地に産する格子柄のウールの生地を使ったことから、こうよばれる。19世紀後半に男子用として流行するが、日本では明治初期から着用され、「とんび」「二重まわし」の名で親しまれた。
(5)マキノーmackinaw アメリカ、ミシガン州のマキノー水路にちなむ名。格子柄の厚手羅紗(らしゃ)地で、ダブルの打合せの腰丈のスポーツ・コート。
(6)マッキントッシュmackintosh チャールズ・マッキントッシュCharles Macintosh(1766―1843)が1823年に考案したゴム引き防水布のレインコート。
(7)マンダリン・コートmandarin coat マンダリンは中国の隋(ずい)、唐時代以降の官吏をさし、彼らが着た細い立ち襟とまっすぐな細身のシルエットの、官服に似たデザインのコートをいう。
(8)ラグラン・コートraglan coat イギリスのラグラン卿(きょう)(1788―1855)がクリミア戦争で負傷したとき、着やすいように考え出された袖の形をラグラン袖とよび、ラグラン袖のついたコートをさす。1850年代に現れた当時は、男子用でウール地のオーバーコートであった。袖付け線が、襟付け位置から肩を挟んで斜めに前後の脇(わき)の下まで走り、着脱が楽でゆったりした感じを与える。
(9)リーファーreefer 縮帆(しゅくはん)の意味のリーフに関係して、イギリス海軍士官が着た、腰丈でダブルの打合せをもつ厚地ウールのコートを模したもの。本来は紺地に金属のボタン、ノッチド・ラペルなどが特徴である。
(10)トレンチ・コートtrench coat トレンチは英語で塹壕(ざんごう)を意味し、イギリス軍隊が第一次世界大戦中塹壕で着た防水布のコートに由来する。肩章、ベルト、ダブルの打合せ、袖口のベルト、広いラペルの襟など軍服の特徴をもつ、膝程度の長さのコート。1940年代以降つねに人気がある型で、現在も男女のレインコートやオーバーコートに採用されている。褐色や紺などの無地が多い。
(11)アルスターulster 北アイルランドの旧州の名で、この地で産するウールの生地を用いてつくったことに由来する。ダブルの打合せにフードのついた丈長のオーバーコート。
[浦上信子]
(1)コットcotte 13、14世紀ごろ、フランスを中心に男女の着用した長衣。ワンピース型で、長袖の袖口近くがぴったりし、たいていウエストに帯を締める。
(2)サーコットsurcot コットの上に着る長衣で、袖口や裾から下のコットを見せる。13、14世紀ごろのもの。袖ぐりが大きく開いたものもある。
(3)ペチコートpetticoat 16世紀ごろ上半衣と分離した下半衣のスカート部をさす。しだいにアンダースカートの意味となり現在に至っている。
(4)ウエストコートwaistcoat 16世紀ごろ着用された女子の胴衣で、芯(しん)入りの布製。また、同じころから19世紀ごろまで男子が着た、袖付きの前部にボタンその他の飾りが多い腰丈の上衣をさす。現在ではベストといわれ、チョッキをさす。
和装コートには、防寒コート、雨ゴート、ダスターコート兼用の道行があるが、これらは明治以後のものであって、その初めてのものがあずまコートである。今日では洋風の仕立てが多い。男子の場合は、角袖外套(かくそでがいとう)、インバネスがあるが現在ではほとんどみられない。
[浦上信子]
イギリスの製鉄の発明家。彼の発明したパドル法は、ダービーのコークス高炉とともに、製鉄業の燃料を木炭から石炭に完全に移行させた。スウェーデンの棒鉄(錬鉄)の輸入業者であったが、国内銑鉄から石炭を使って優秀な錬鉄を製造することを思い立った。それまでは精錬炉で木炭と銑鉄を装入し、銑鉄を溶かし酸化脱炭して錬鉄に変えてきたが、石炭は硫黄(いおう)を含み、鉄に入って汚してしまうので燃料にできなかった。彼は銑鉄の再溶解に使用されていた石炭焚(だ)き反射炉で銑鉄を精錬することを考えた。反射炉では火格子室で燃やされる石炭の火炎が溶解室で反射熱によって銑鉄を溶解し、精錬し、廃ガスは高い煙突から排出され、石炭は直接鉄には触れない。しかし、銑鉄中の炭素の減少につれて融点が上がり、溶融状態を失い、粘い鉄(半溶鉄)になるので、鉄棒でこれをパドル(攪拌(かくはん))して精錬を促進しなければならない。それでパドル法とよばれる。コートはこの方法を確立して、1784年に特許をとった。この方法は同時に彼が採用した蒸気機関による圧延法と結合してパドル・圧延法ともよばれ、鉄の安価大量の製造を可能にし、木炭精錬炉と水車ハンマーの牧歌的製鉄を終わらせ、鉄の構造材への大量使用の時代を開幕させた。
[中沢護人]
最も外側に着用する,袖のついた長い丈の衣服。日本では外套ともいう。語源は,西ヨーロッパ中世に着用されたコットcotteに由来する。外側に着る同種のガウン,ローブ,マント,ジャケットなどとの区別は歴史的に明らかでないが,今日では丈の短い上衣のジャケットとは区別して使われる。一般にはオーバーコート,レインコートなど防寒,防塵,防雨または装飾としても着用されるものを指すが,モーニングコート,フロックコートなどのように表着(うわぎ)化したものもある。素材,形は時代や目的,性別,流行などによって異なる。
外衣という点では,古代ギリシアでキトンの上からまとったヒマティオンや,古代ローマのパラpallaもその一種にあげられるが,今日のコートに当たるものが登場するのは,中世後期に男女の間でコットの上に用いられた,シュルコ(英語でサーコート)と呼ばれるゆったりした袖なしの外衣からであろう。16世紀には外衣の形は袖,衿など多様になり,丈も長短さまざまであった。乗馬用,狩猟用など用途別に作られ,素材は毛織物,皮革などであった。17~18世紀に貴族から庶民までの男性に用いられた,胴にぴったりとして丈が長く裾の広がったジュストコルは,ベストと半ズボンの上に着用した表着であったが,同時に外衣でもあった。貴族のものはベルベット,絹,上質の毛織物で作られ,金糸のししゅうや高価なボタンがついていたが,庶民のものは粗悪な毛織物製であった。軍人用には水牛の皮革も使われた。ジュストコルはフランス革命後裾が短く後ろも燕尾状にカットされ,さらに19世紀中ごろにはフロックコートへと変化した。18世紀中ごろにはジュストコルの上に着るルダンゴトredingote(英語名ライディングコート)があらわれた。後ろに割れ目(ベンツvent)のある乗馬用コートのルダンゴトは,しだいに男女間に普及し,19世紀には広く着用された。オーバーコートの呼称は18世紀に起こったとされ,男女ともに戸外で用いる外衣の総称であった。19~20世紀には地名や人名などを冠したさまざまな形のコートがあらわれ,さらに流行も加わって用途別にも細かく分けられてきた。
(1)形によるもの (a)ゆったりとし裾の開いた女性用のスポーティなスワガー・コートswagger coat。(b)全体に箱状のボックス・コート。(c)クリミア戦争時のイギリスの将軍ラグランにちなんで名づけられた,いわゆるラグラン袖のラグラン・コートraglan coat。(d)裾の開いた丈の短い防寒用のトッパー・コート(トッパーともいう)。(e)フードつきで丈は短くダブルの打合せ,ボタンの代りにひもでとめるダッフル・コートduffle coat。ダッフルという粗い毛織物で作られ,イギリス海軍の防寒コートとして第2次世界大戦中に用いられた。(f)ダブルの打合せでボタンがなく,ベルトを締めて身ごろを合わせるタイロッケンtielocken。(g)ダブルの打合せで,本来はベルトを締めるアルスターulster。19世紀後半,アイルランドのアルスター地方で生産される織物で作られた。(2)用途によるもの (a)イブニングドレスの上に着るゆったりしたイブニングコート。燕尾服のこともいう。(b)おもに冬期の防寒用として着用するオーバーコート。(c)春秋に用いる薄手のスプリング・コート。(d)ちりよけ用に着用するダスター・コートduster coat。20世紀初めに自動車に乗るためのファッションが誕生,オープンカー用として考えられた。
なお,燕尾服(スワロー・テールド・コート),フロックコート,モーニングコート,タキシード,背広服(サック・コート),トレンチコート,レインコート,チェスターフィールドについては,それぞれの項を参照されたい。
執筆者:池田 孝江
防寒・防雨上の外衣としては,江戸時代に入ってから用いられていた袖のついた前を打ち合わせる形式のものと,古来より用いられていたみの(蓑)のような袖のないマント形式のものがある。前者は雨羽織,じうりん,木綿合羽などと呼び胴服から起こった。ラシャ,琥珀(こはく),斜子(ななこ)織,芭蕉布などで作られ,袖合羽,長合羽,半合羽,鷹匠合羽などがあった(合羽)。外出着ではないが,室内で老人や子どもの用いていたものに被布(ひふ)があった。マントの系列には,明治時代に男性に用いられたラシャのとんび,二重回し,インバネスなどがあった。はじめてコートの名で呼ばれたものは,明治末に流行した東(あずま)コートで,ラシャや黒八丈で作られ,袖,衿がつき対丈であった。これに似た外衣はすでに江戸時代に女合羽として用いられていた。東コートは繻子(しゆす)地の雨コートや小幅物のおしゃれコートの出現とともにすたれた。男物では同じような形のものを角袖と呼んだ。第2次世界大戦後は,広幅物(洋服地)のコートが素材とデザインの豊富さから流行した。
現在では女物のコートは小幅物が主で,綸子(りんず),ちりめん,紋意匠,白紬(しろつむぎ)などの染下生地に無地染やぼかし,型染,手描き,絞り,ししゅう,箔,刺子などを加工したものや,紋織,唐桟(とうざん),紬などの織のもの,また毛皮やスエード,ウールなど素材は多種である。礼装,準礼装にはししゅう,箔,型染の絵羽のコートや紋織を,社交着には絞りや小紋,紬,御召などには更紗(さらさ),ろうけつ,小紋,唐桟,紬など着物に合わせて装う。無地のコートはどんな柄にも幅広く合わせられるが,先染は織の着物を中心に,後染は社交着や礼装として用いられる。紗や羅のコートは5月ごろから盛夏にかけて用いる。コートの長さはほとんど六分丈であるが,対丈の長いコートもある。雨コートには繻子地,紬,綸子などがあり,長コートと上下の分かれる二部式がある。衿の形には道行衿,都衿,千代田衿,被布衿,道中衿などがあるが,用布の経済性から道行衿と道中衿が多い。
執筆者:山下 悦子
ノルウェーの歴史家,政治家。太古から近代に至る百科全書的な知識をもった同時代最大の歴史家。人民(かつては農民,近代においては労働者)の階級的利害は国民・民族の利害を代表しうるという命題を,歴史研究と政治活動の問題意識として持ち続ける。労働党に加盟(1911),地方自治行政に携わったのち,1935年成立の労働党政権の外相。ナチス・ドイツの祖国侵入のため国王,内閣とともにロンドンに亡命した。
執筆者:熊野 聰
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…この鋼はるつぼに原料を密閉し加熱して溶かすので,るつぼ鋼とも呼ばれる。一方,18世紀ころから鋳鉄の製造法として反射炉が用いられはじめ大砲などが鋳造されていたが,イギリスのコートHenry Cort(1740‐1800)は,反射炉をさらにくふうして銑鉄の溶融だけでなく,溶融した銑鉄をかくはん(攪拌)することによって半溶融状の可鍛鉄をつくることに成功した。この反射炉はとくにパドル炉と呼ばれるが,19世紀後半W.シーメンズ,P.E.マルタンの努力によって反射炉はさらに改良され,溶融状態の鋼を容易に製造できる平炉がつくられた。…
…しかし,石炭に対する需要が圧倒的に高まり,石炭鉱業が工業国の基幹産業となっていったのは,製鉄業および蒸気機関との結合によってである。18世紀初頭にA.ダービーが発明したコークス製鉄法や同世紀後半のH.コートによるかくはん式精錬法(パドル法)などによって,あらゆる種類の鉄が石炭を燃料として生産されるようになった。18世紀後半以来の産業革命が〈鉄と石炭の革命〉と呼ばれるひとつの理由がここにある。…
… 錬鉄製造にも革命のときがきた。H.コートが従来の木炭精錬炉に代わって,すでに鉄の鋳造に利用されていた石炭たきの反射炉を銑鉄を錬鉄に変える炉にすることに成功したのである。ロストル(火格子)で自然送風によって石炭を燃やし,できる長い炎は火橋を越えて溶解室の銑鉄を溶かし,煙突に抜ける。…
…この鋼はるつぼに原料を密閉し加熱して溶かすので,るつぼ鋼とも呼ばれる。一方,18世紀ころから鋳鉄の製造法として反射炉が用いられはじめ大砲などが鋳造されていたが,イギリスのコートHenry Cort(1740‐1800)は,反射炉をさらにくふうして銑鉄の溶融だけでなく,溶融した銑鉄をかくはん(攪拌)することによって半溶融状の可鍛鉄をつくることに成功した。この反射炉はとくにパドル炉と呼ばれるが,19世紀後半W.シーメンズ,P.E.マルタンの努力によって反射炉はさらに改良され,溶融状態の鋼を容易に製造できる平炉がつくられた。…
※「コート」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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