ライス(Charles M. Rice)(読み)らいす(英語表記)Charles M. Rice

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

ライス(Charles M. Rice)
らいす
Charles M. Rice
(1952― )

アメリカのウイルス学者。カリフォルニア州サクラメント生まれ。1974年カリフォルニア大学デービス校で動物学の学士号を、1981年カリフォルニア工科大学で生化学の博士号を取得した。そのまま同大学で博士研究員を務めた後、1986年ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学医学部の助教授となり、1995年に同大学教授に就任した。2001年ロックフェラー大学教授となり、同年から2018年まで同大学C型肝炎研究センターの所長などを務めた。

 当初は動物学に関心があったが、蚊などが媒介するRNA(リボ核酸)ウイルス感染症に興味が移り、カリフォルニア工科大学では黄熱病の原因ウイルス(黄熱ウイルス)のゲノム同定に取り組み、ワクチン開発にも貢献した。ワシントン大学に移った1980年代は、黄熱ウイルスと同じフラビウイルス科で、非A非B型肝炎の原因として注目されていたC型肝炎ウイルス(HCV)の研究にのめりこんだ。当時、アメリカの製薬会社カイロンChiron(現、ノバルティス)にいたマイケル・ホートン(のち、カナダ・アルバータ大学教授)によって、C型肝炎ウイルスのゲノムのクローンが抽出されたと報告されていた。しかし、HCVをチンパンジーに接種しても、肝炎を発症しなかった。実験室でのC型肝炎ウイルスの複製などに取り組んでいたライスは、HCVがチンパンジーの中で増殖しないのは、ウイルス増殖に不可欠な遺伝子が変異したためではないかと予測。ウイルスのゲノム配列の末端の変異しやすい部分を取り除き、その必須部分が入ったウイルスを人工的につくり、チンパンジーの肝臓に注射した。すると肝臓の中で、ウイルスは増殖し、やがてチンパンジーは肝炎症状を呈したと1997年に発表した。これによってC型肝炎ウイルスが単独で肝炎を引き起こすことが証明された。

 2001年にロックフェラー大学に移ったライスは、HCVが肝細胞に感染する際に必須となる数種類のタンパク質を発見。このタンパク質を阻害することで、ウイルスの増殖が抑えられることを確認した。これによって画期的な新薬「ハーボニー」(一般名:ソホスブビル・レジパスビル配合剤)が、アメリカ食品医薬品局(FDA)から2013年に承認(日本での承認は2015年)され、多くの生命を救っている。

 世界保健機関(WHO)などによると2015年末時点で、世界でC型肝炎ウイルス感染者は約7100万人と推定されるが、HCVの発見で、1990年代に入ると輸血される血液すべてでC型肝炎ウイルスの検査が行われるようになり、新たな感染は激減した。ウイルスの研究が進み次々に新たな治療薬も開発されている。

 ライスは、2005年にアメリカ科学アカデミー会員。2015年ロベルト・コッホ賞、2016年にラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞を受賞。2020年「C型肝炎ウイルス発見」の功績で、オルター、ホートンとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。

[玉村 治 2021年2月17日]

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